突然ショートショート「名乗りの続き」
「甘くて酸っぱいイチゴのように!私、魔法少女……」
彼女の名乗りはそこで止まってしまった。
敵の悪者は驚いている。
今まで数々の魔法少女と対峙してきた中で、肝心の名乗りは『中断せずやりきる』か『名乗らない』かの2つしかなかったからだ。
日本独特の風習として、相手の名乗りは最後まで聞くというものがある。
もし今攻撃をしても、それは名乗りの途中に攻撃することとなってしまい、向こうから文句を言われてしまう。
しかし、相手は中々名乗りの続きを発しない。顔に手を当てて考え込んでいるような仕草もとっている。
その様子を見て、悪者は仮説を立てた。
実は考え込んでいるのは、度忘れしたかのように見せかけてこちらの動きを封じるための演技ではないか、と。
しかし、まだ続きは出てこないようだった。
悪者はとりあえず煽りをかけてみることにした。
「おいおい、正義の魔法少女が自分の名前を度忘れとは…笑わせるなよ」
すると、相手はまさかの言葉で返してきた。
「違う…度忘れじゃなくて、その…どんな名前にするかが思い浮かばなくて!」
悪者は驚いた。6年もの悪者人生で初めてのパターンだったからだ。
「笑わせるなと言ったよな」
「いや…つい2週間前ぐらいに魔法少女になったばかりで、今まで名前を考える暇が無くて…」
「じゃあ何故無理して名乗る?」
「あっ…なんとなくです、はい」
悪者は脱力しつつも、気合いを入れ直した。
「しかし、お前はたった2週間のキャリアしかないが、俺は6年もやってるんだ。すぐ勝負はつくだろうな」
「あ、ちょっと待って!せめて名前を…」
彼女の懇願を遮るように悪者は言った。
「ふん。本当に強いやつは、お前のように無理して名乗らないんだ!」
そして槍で彼女に突撃する。
その時だった。悪者に向かって、彼女の持つステッキからイチゴの果汁が炸裂したのだ。
「うっ…これは効くな…!」
「『本当に強いやつは名乗らない』…だから、私だって強いんですからね!」
キッパリと言い切る魔法少女の顔が目に入る。
「いや、それは無理しての話であって…お前は無理してるだろ、おかしいぞ…」
「これでおしまい!」そして魔法少女は必殺技を放った。
「ぐっ…!」悪者は必殺技を正面から受けた。
「覚えていろ…名前とかはどうでもいい、いつかリベンジしてやる!」
「また会いましょう。その時はちゃんと名乗りますからね!」
「勝手にしろ…」
悪者は苦しみつつ、捨て台詞を吐いて消えていった。
(完)(995文字)
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