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突然ショートショート「タイガー号物語」
始まりは数日前、近くの道路に捨てられていた帽子を拾って、交番に届けたことだった。
別に何でもない。交番に行くのも、本当は少しだけ億劫だった。
しかし、捨てられた帽子が車に轢かれ続け、そのまま朽ちていくのを想像すると、どうにも耐えられなかったのだ。
それから数日後のこと。僕は、あの道路の交差点で信号待ちの為に停まった。
すると、一人の男が声をかけてきた。
「こんにちは。今日は曇りかと思えば晴れ。かと思えばにわか雨。実に不思議な天気ですね」
「あっ……はぁ……そうですね」
その男は、あの日僕が届けた帽子を被っていた。間違いない。あのタイガースの野球帽。
「あの……その帽子は確か」
「はい。以前どこかに行ってしまって、それで探していたら交番に届けてあったんです」
「それ、僕です。僕が届けたんです」
すると、男の顔はパッと明るくなった。
「おおっ、あなたでしたか!ありがとうございます」
いえいえ、と謙遜する僕に対し、男は何かお礼ができないか、と聞いてきた。
「お礼……そうですね……家の原チャリがボロボロで、買い替えたいんですけどね。これはさすがにやり過ぎか、ハハ」
「わかりました!原チャリですね、原動機付自転車」
「えっ、いいんですか!?」
「はい!数日で大丈夫です」
にわか雨は止み、青空が顔を覗かせていた。
数日後、家にあの男が来た。
「どうも。……あっ!新しい原チャリ」
「作りました!私、こういうのを作るのが得意なんです」
その原チャリは手作りにしては素晴らしく、正に虎のように走った。
『お礼の』原チャリと共に過ごし、半年が経った日のことだった。
「え!僕の原チャリを…貸してほしい?」
電話の男は、「僕の原チャリが、貴重な素材で作られているから、参考出品としてイベントに出したい」とのことだった。
僕は製作者の男に確認を取り、原チャリをイベントに出した。
イベントに出して数日、僕はテレビに出ることになった。
「話題の原チャリ『タイガー号』に迫る」という企画で、所有者として出ることになったのだ。
テレビは友達や知り合いも見てくれていた。
翌日、一時的ながら注目の的になる僕。
帽子を拾い、ありえない体験ができたとでも言おうか。
不思議な帽子の話だった。
ちなみに、製作者の男はその後、会社を作った。
快適なスクーターをたくさん作って売るらしい。そしてその第一号車は、僕に渡すつもり……らしい。
(了)(973文字)
あとがき
久しぶりに書いたんじゃないですかね、900文字越え。
…近頃は忙しく、小説を書くのも少し疲れてきました。それでもジブンは書き続けます。小説でなくても何かネタを探して。
目指せ『365日連続投稿』!今年の10月1日!