Story of Kanoso#69「伝説の何これ 下」
夕方の情報番組の中継コーナーは、市内の博物館から始まった。
「さぁ、続いては中継です。妹尾さん!」
画面が変わり、中継先からの映像に変わった。
「はーい、私は今、彼礎市中央区のガスビル・ステージに来ています。ここでは現在、期間限定で『伝説の何これ展覧会』が開かれていまして、週末だからか大勢の人が集まっています」
「伝説の何これといえば、彼礎で発掘された、新零県が誇る歴史ロマンの結晶と言われている謎の出土品として有名ですが…」
「そうなんですよね、ですが最近では宇宙人の落とし物や、自然の営みが生んだ土の結晶、はたまた宝石ではないかと言われているんですね~」
「それで、伝説の何これは…ちよっと観に行きにくそう……かな?」
「そうですね、人が多くて。それではグッズコーナーに移ってみます。あ~、すごい量のグッズがあります。"伝説の何これ模型"に"伝説の何これノート"や"伝説の何これクッキー"そして"伝説の何これプラモデル""伝説の何これビッグ風船"まであります!」
「おお!伝説の何これ大フィーバーじゃないですか」
「そうですね。今日ここで売っている"伝説の何これシリコーンライト"の製造会社に電話で詳しく聞いたのですが、『伝説の何これのおかげで会社の利益が前年度比130パーセントになった』と大喜びで語っていました」
「それはすごい!あっ、次は伝説の何これ出土地から中継だそうですね。妹尾さんここまでです、ありがとうございました!」
「あっ……は~い、ありがとうございました!」
その中継を見ていた女はテレビを消すと、隣にいた幼馴染の女に問いかけた。
「トメさん、この『伝説の何これ』ってあんたが73年前に埋めたやつじゃないのかい?」
そう訊かれた女はハッとして、73年前の記憶を必死に掘り起こす。
「妙子さん、私はもう80歳じゃよ。そんな戦後すぐに埋めたものなんて覚えていないさ」
「いやいや、あんたはあの頃、とってもなおてんば娘で、あたしのいらない髪のクシを貰うとどっかに持ってって埋めてたじゃあないか」
女は73年前の記憶を思い出した。
「…そうか!そうだったね妙子さん!私は思い出した。73年前にあの辺でクシを埋めたんだ。そしてそのまま忘れたまま73年間ほったらかしにしてたんだ」
「ハハハッ、トメさんらしいね。私はもう気にしてないけど」
「どうしようか、あれは妙子さんのだと言いにいこうか?」
「いや、もういいさ。今こうやって多くの人を喜ばせてるのだからね。私は満足よ」
老婆は再び伝説の何これ出土地中継のテレビをつけ、2人で笑いあった。
(了)(1080文字)
あとがき
2本目は長めになりました。
73年もの時を越えて、髪をとかすクシが「伝説の何これ」というホットアイテムに昇華。
これぞシンデレラストーリーです。
しかし、その裏には当然「きっかけ」があるわけでして。
それはおてんば少女のちょっとした行動だった、という。
そういうある種のギャップのようなものを今作では描いています。
そして便乗製品の山。
謎の出土品扱いの「伝説の何これ」って、著作権や版権はつくのでしょうか。
「伝説の何これ財団」ができて、版権まるごと掌握するとか…
埋めた本人を離れて昇華していく「伝説の何これ」でした。
Writen in the commuter train“9303“(Operated by Kintetsu Railway)
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