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突然ショートショート「妖精お持ち帰り」
下校途中、満員電車の中を、小さな妖精が走り回っていた。なんで私に見えているのかはわからない。
それはさておき、この妖精についての話だ。どうやら誰かのカバンから出てきたらしい。
なんで私は高校生にもなって、妖精の行方なんてのを見つめなくてはいけないのか。スマホの充電は切れ、地下鉄だから窓の外も暗いままで、妖精しか見るものがないのだ。
妖精は、消しゴムよりも少し大きいぐらいという大きさだった。
形状は丸く、色は薄い桃色だった。黒くつぶらな目が2つついている。
小さい足で、どうやら2足歩行はできるらしい。
網棚の隙間などお構いなしに、ちょろちょろと車内を走り回っていた。しかし、網棚の端まで来た辺りで、怯えたように後ろに退いた。
どうしてかはなんとなくわかった。人間の頭の上に飛び乗るのが怖いようなのだ。
失敗したらきっと踏み潰されてしまうかもしれない、とでも思っているのだろう。
降りる駅が来てしまった。妖精の行く末が気になるので、このまま乗っていようかと思ったが、降りなければ家に帰れなくなる。
よって心を鬼にして、私は電車を降りることにした。ドアから外に流れる人の動きに合わせるようにして降りた。
けれども、降りてから私の心は母になっていた。電車の中に取り残されたあの妖精の行方が気になっていた。
家に帰って通学カバンを開けると、中から車内で見たものと同じ妖精が出てきた。持ち帰ってしまった。
驚いてぶん投げると、妖精はそこから上手いこと抜け出したようで、フワフワと飛び去っていった。
よく見ると、電車の中よりも少しだけ大きく成長しているようだった。
「室内で飛べるなら車内でも飛べたんじゃないか」そんな疑問の声が今でも頭の中にこだまする。
妖精の生態は訳がわからないし、なぜ私にそれが見えていたのかもわからない。
とにかく、あれ以降私は妖精を見ていない。
私も成長して、より大人に近づいたということなのだろうか。
(完)(792文字)