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突然ショートショート「幻の救世主」

 一通の手紙が届いた。誰もが知る大企業が主催するパーティーへの招待状だった。

 こんな個人ジャーナリストの私にも手紙を送ってくれるとは、と感心しつつ、指定されたその日に足を運ぶことにした。
 そのパーティーの会場には、多くの人が集まっていた。新商品の発表ということで注目度も最高潮なのだから、頷ける状況だった。

 ちょうど会社の名札をつけた人が話しかけてくる。初対面だ。
「これはこれは太田おおた様。わざわざ来ていただいてありがとうございます」
「いえいえ」と返事を返しておいた。
「今日のは大変素晴らしい技術です。そして、是非とも太田様に体験して頂きたく思っております」
 そう言い残して、その担当者は去っていった。

 他に集まっているのはだいたい企業関係者やライター。私の知っている人も顔を見せていて、そのうちの一人に挨拶をしようとした時だった。
 突然、会場の照明が暗転した。そして間髪を入れずに悲鳴が会場のあちこちから聞こえはじめた。

「どうです、太田様!これこそが我々の見せたかった素晴らしい技術であります!」
 声の主は、先の担当者だった。何なのかと戸惑っていると、照明が戻った。

 そこには、大勢の出席者を引き連れた担当者の姿があった。
「あっ、これは何ですか!」
「その前に私の正体を明かしておきましょう…」
「え、正体って何ですか」

 そう呟くと、担当者は顔を剥ぎ出した。あの顔はゴムマスクだったのだ。
「はじめまして。ミスターE、地獄出身。それが私の正体です。どうぞよろしく」
 何がミスターEだ。そもそもなぜ私を狙うのか。心当たりのない存在にいきなり狙われて意味がわからない。
「あなたは救世主なので、人海戦術で潰します。やれ!」

 私以外、パーティー会場の出席者は全員操られていた。ミスターEの指示に応じ、眼を赤く光らせて突進してくる。
 誰か救世主はと思っていると、先程の言葉が脳裏に浮かんだ。
 「あなたは救世主」だなんて。
 呪いたくなった。慌てると今言われたばかりのことすら忘れる私自身を。
 その時、誰かが信じられないくらいに大きな口を開けて私に飛びかかってきた。女だった気がする。

 気づけば、私は墓場で太陽の光を浴びながら過ごしていた。
 誰かがお参りしていった。「幻の救世主」ということになっているのかと勘づいた。

 悔いが残る。一度でいいからミスターEと対峙してみたかった。
 そして、私が何を救うのかを確かめたかった。

(完)(986文字)


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