見出し画像

突然ショートショート「もう一つの口」/青ブラ文学部

 私をからかって怒らせたヤンキーたちと戦う中で、どうやら激しく動きすぎたようだ。
 私は気づいてしまった。スカートの中のパンツが下にズレてしまったことに。

 完全にしくじってしまった。普段は盗撮対策もあって黒の短パンを穿いてるのに、今日は油断して穿いてこなかったのだ。

 このままなら、何かの拍子に見られてしまうかも知れない。私の秘部に隠された、もう一つの口を。
 普通の人とは違う私の最大の秘密。
 いや、その方がむしろ好都合かもしれない。怖がって逃げてくれるかも知れない。
 そう思って、あえて直す真似はしなかった。

 相手のヤンキー共が私の様子を伺ってくる。今動けば確実に下へ落ちてしまう。

 リーダー格の男が殴りかかってくるのが見え、それに対して体を動かして避け、蹴りをお見舞いした時のことだった。

「痛っ…!」
「リーダーァ……ん!おい、今見えたよな、な、お前ら」 

 ヤンキーの中の誰かが声をあげた。他の面々が縦に首を振るのがわかる。
 なんとなく、今しかないように思えた。
 私は穿いていた青色のパンツを脱ぎ、ヤンキー共の目の前に放り投げた。
 空中を舞うパンツは夕日に照らされ、素材の質感が際立たされる。

 地面に落ちたパンツを目にして彼らが怯んだのを確かめて、私は着ていた制服のスカートを脱いだ。
 下半身で風の息吹が直接感じられるようになり、もう一つの口があらわになる。

 驚き、慌てる彼らの声を聞けば、こちらの恥ずかしさは微塵もない。変態と思われても構わない。

「お前らを食べてる。これはその為の口」
「ひぃぃ!」
「ハッタリ!?…なわけ無いよなこれ。ほら、ベロが動いてる」

「ほらほら!」もう一つの口を大きく開け、舌なめずりもしてインパクトを与える。

「逃げろ!もう無理だ」
「ちっ…覚えていやがれ!」

 私の目の前には、誰の姿もいなくなった。
 パンツを拾い、軽く汚れを払ってからスカートと共に再び穿く。
 髪をポニーテールに結び、眼鏡を掛ける。

 戦いの終わりを告げるようなオレンジ色の空を眺めながら、私は家へ向かって再び歩き出したのであった。

(完)(838文字)


マガジン


参加企画



いいなと思ったら応援しよう!