#ぼくとルドルフ
ルドルフと出会ったのは僕がまだ中学生の時。
当時住んでたマンションに隣接する公園、 しばらく放置されてた自転車のカゴの中に彼はいた。おそらくは誰か家で飼えない人がこの小さな命を見つけて、せめて目立つようにいれたのかもしれない。 カゴの中ですやすやと眠っていた黒猫に気づいた下校中の僕は、湧き上がる高揚を必死に抑え、そっと手をカゴにいれた。
子猫とは言え、流石は野生の猫。僕の存在に気付くのに、そう時間はかからなかった。目ヤニで固まってるのか、目は開かないまま上半身を起こし、僕の気配を感じると、さも当然のように差し出された手のひらの上にヨチヨチと慣れない足取りで登り、収まった。 まるで最初からそこが彼の定位置だったかのように、極々当たり前に、どうどうと。警戒などはまるでなく、手のひらに収まった彼はまた、スゥと鼻息を立てて眠りについた。
目ヤニで両目が開いてないにも関わらず、彼は僕を認識した。 僕を受け入れた。わずか数秒の出来事にも関わらず、彼は文字通り全てを僕に託してくれた。その行動に、抑えていた高揚感は一気に昂った。表すことのできない感情。
彼を抱えた僕は、すぐさま家へと向かった。器用に肘とあごでオートロックの暗証を解除し、なるべく振動のないよう気を配って。
家のドアをあけた僕は、この状況をどう母親に説明するべきかほんの少しだけ考えたが、 まわりくどいことはやめようとシャワー音がする風呂場に向かった。 脱衣所からドア越しに、帰宅した旨と、今手のひらで眠る黒猫の存在を伝えると、母は「少し待ってなさい」と促した。
家には先輩猫であるルナ、ミーちゃん、ユーちゃんがいる。彼女らは黒猫に気づくも、幸いな事に威嚇や牽制などの様子はなく、いつもと同じように振舞ってくれていた。 数分後現れた母は少し呆れつつも、この後21年連れ添う事になる少年を向かい入れてくれたのだった。
程なくして彼は「ルドルフ」と命名される。 斉藤洋氏の児童書「ルドルフとイッパイアッテナ」からである。 幼少の頃からこの物語が大好きだった母子にとって、雄の黒猫につける名前は「ルドルフ」意外考えられなかった。
この息子にして、この母である。
翌日、ルドルフは病院に連れていかれ、目ヤニ以外はどうやら健康そのもの、生後1、2週間程度ではないか、ということがわかった。 目薬をもらい、いよいよ本格的にルドルフとの生活が始まったのである。
上記の猫をの他、先代の3匹を含めて代々うちの家猫は、殆どが母親が拾ってきたり、引き取った猫である。ルナだけ父親が連れてきた猫だったが、結局は母が面倒をみていた。 だから、なのか「僕が連れてきた猫」というだけで、僕はルドルフに対して特別な感情を持っていたんだと思う。
僕はこの突然現れた黒猫に、えらく夢中になっていた。
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