犬のケージ、クレート、サークル
犬を飼っていると、やむを得ず犬から目を離さなければならない時があります。ウチの犬はもう10歳になるので、留守番させるときは家の中で放牧状態ですが、子犬やいたずら癖がある犬は自由気ままに放っておくことはできません。子犬の場合、目を離した隙に物を破壊する程度なら良いのですが、危険物を誤飲したり電気コードをかじって感電したりして命にかかわることもあります。
そこで、犬の行動を制限し逸走を防止するためのものに、「ケージ」”Cage”と「クレート」”Crate”があります。
「ケージ」は壁、天井、床すべてが鉄格子や金網で囲われている箱状のもの(要するに檻)を言い、中で犬が立ち上がって向きが変えられるくらいの大きさが必要です。これはあくまでも一時的に犬を入れておく時の「ケージ」の大きさの目安です。犬を「ケージ」で飼養する場合、動物愛護管理法では、タテ(体長の2倍以上) X ヨコ(体長の1.5倍以上) X 高さ(体高の2倍以上)を確保することと規定されています。なお、「ケージ」を「ゲージ」”Gauge”と呼ぶ人も偶に見かけますが、「ゲージ」に檻の意味はなく、これは全くの誤用です。
「クレート」は本来、木枠の箱のことですが、転じて動物を輸送・保管するときに使用する、空気流入用の開口部がついた箱状の容器を指します。(利用法や大きさは「ケージ」とほぼ同じ)
この「クレート」は二面性を持つと言われています。一つは犬が好む場所、もう一つは逆に犬が嫌がる場所です。
犬は「穴ぐら」で暮らす動物なので、本能的に自分が中にピッタリ収まる大きさの、自分だけの隠れ場所を見つけようとすると言われています。これは、犬がストレスを感じたときに戻り安心して休める「第二の家」ともなります。(もし犬がこの自分だけの「穴ぐら」を与えてもらえないと、テーブルの下、ソファの後ろ、ベッドと壁の間の狭い場所など、身近にある代わりのもので済ませてしまうのかもしれません) これが、犬が「クレート」を好む理由とされています。
一方で、犬は「穴ぐら」で暮らす動物ではなく、「クレート」に閉じ込められることをまったく望んでいないという主張もあります。 野生の犬は野外で生活し、洞窟の中で群れることはありません。また、問題行動に対する罰として、犬を強制的に「クレート」に入れるようなことを繰り返すと、犬は「クレート」に対して負の感情を抱くようになり、最終的には「クレート」を嫌がるようになります。
いずれにしても、犬を日中ほとんど「クレート」の中に放置すべきではありません。犬は飼い主と一緒にいることを好みます。「クレート」の中で長時間過ごすと、犬が鬱になったり悲しみを感じたりするほか、十分な運動やコミュニケーションがとれず、行動上のみならず健康上の問題を引き起こす可能性があり、犬の生活の質は大きく低下します。
個々の犬が「クレート」を好むか嫌がるかは分かりませんが、クレートを利用するのは大きなメリットがあります。そこで、犬に「クレート」にいることが苦痛でなく、むしろ安心して休める場所であると教え込むために開発されたのが「クレート・トレーニング」”Crate Training”です。飼い犬が好んで(少なくとも嫌がらず)「クレート」に入ってくれれば、飼い主は輸送(移動)や留守番させるときなど、余計な心配から解放されます。また、飼い犬のケガの回復や術後の安静が必要なときでも、「クレート」により監視することなく行動制限がかけられます。最近では災害時にペット同行避難が認められるケースも多いのですが、避難所では犬を「クレート」に入れることを求められますので、そういった時にも対応できます。
犬(特に大型犬)を飼っていると、公共交通機関を利用することは難しいので、大抵は自動車に乗せて移動することになります。その際、車の中で犬を自由にしておくことは危険です。突発的な事故や急ブレーキ・急ハンドルにより犬が車内でアチコチにぶつかって(フロントガラスまで飛ぶことも)ケガをしたり、不用意に窓やドアを開けたときに外に飛び出したりしてしまうかもしれません。移動中の車内で犬の安全を確保するためにも「クレート」は欠かせません。
蛇足ですが、「クレート」を「バリケン」と呼ぶことがあります。(最初の飼い犬のブリーダーが「バリケン」と言うのを初めて耳にしたときは、何を指すものか分かりませんでしたが…) これは米国のペットメイト”Petmate”の製品である「バリケンネル」”Vari Kennel”を略したもので固有名詞です。
この他に犬の行動を制限するためのものに「サークル」があります。「サークル」は四方(六方)が柵で囲われていて天井部がありませんので「ケージ」、「クレート」に比べて開放感があります。ただし、犬の逸走防止の観点からは、犬の大きさに合わせて十分な高さを確保出るものを用意する必要があります。
この「サークル」ですが、実は和製英語です。英語で、この「サークル」を表す言葉は「ペン」”Pen”(あるいは「ドッグペン」”Dog Pen”、特に子犬用は「パピーペン」”Puppy Pen” )と言います。なぜ「ペン」を「サークル」と呼ぶようになったのか分かりません。恐らく、英語の「サークル」には「(出口なく)囲む」という意味があり、そこから派生して「(犬を入れる)囲い」に使われるようになったこと、および「ペン」と呼ぶと筆記具のペンと勘違いしてしまうので避けたのではないかと思われます。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?