アメリカで生活基盤を整えるということ
アメリカ駐在を始めたころのことを思い出しながらこの記事を書いている。家族を連れてくる予定の駐在員は、先に一人で現地入りして、生活環境をある程度整えてから、家族を呼び寄せるのがほとんどだと思う。
アメリカにおいて生活環境を整えるとは何を意味するか。それは以下の10個のアイテムを揃えることだと思っている。実際、これらが揃ってからの安心感はすごかったし、持ってないときはかなり不自由だったのを強く覚えている。
①スマホ
②メールアドレス
③アメリカの電話番号
④アメリカの銀行口座
⑤アメリカの住所
⑥自宅のインターネット回線
⑦クレジットカード
⑧運転免許証
⑨車
⑩SSN(ソーシャル・セキュリティ・ナンバー)
n=1の体験談であるということは念頭に置いてほしくて、考え方は様々であり、必ずしも全ての人の正解になるとは思わない。
アメリカでの生活基盤の整え方。少しでも未来の駐在者の参考になれば。
①スマホ
これがないと生活がままならないのは同意して頂けると思う。日本から持って行くスマホは、アメリカのSIMカードに対応しているかどうかを事前にチェックしておくといい。対応していなければ、対応しているものを事前に、もしくは現地ですぐに買おう。
個人的には、デュアルSIMがベストな選択だと考え、日本在住時に楽天モバイルをeSIMに変更しておいて、アメリカに渡ってから現地の物理SIMを契約するつもりでいた。しかし、所有しているスマホがアメリカのSIMカードに対応していないことがわかって、新しいスマホを現地で購入した経験がある。iPhoneであればアメリカで使えないということは絶対にないが、アメリカ製以外のAndroidスマホを使用している人で、日本からスマホを持ち込むことを検討している人は要注意である。
現状はスマホ2台持ちだが、充電がめんどくさくて、使用頻度の低い日本用のスマホの充電をすぐに切らしてしまうのが難点だ。あと、シンプルに2台持ち歩くのがダルい。ただ、万が一の場合のバックアップになるので、充電を切らさずに持ち歩くように努力している。
日本のSIMを諦めるのはそれはそれで帰国時に大変なので、帰国予定がある人は維持しておいた方が良いと思う。楽天モバイルは2GBまで海外で無料で使えるし、1,000円/月くらいで維持できるので、優秀な選択肢になると思う。僕は失敗したが、日本在住時に楽天モバイルをeSIMにしておいて、アメリカに渡ってから現地の物理SIMを入れてデュアルSIMで運用している人は結構多いのではないだろうか。
あと、現地のSIMを手に入れるまで、日本のスマホで通信ができるように、海外ローミングの設定をしておいた方が良い。単純な設定なので、出国前に設定画面を予習しておくと良い。
②メールアドレス
持っていない人は居ないと思うが、Gmailで十分なので準備しておくこと。今後の契約やアカウントを作成するときなど、何をするときもメールアドレスを問われることになる。
③アメリカの電話番号
メールアドレス同様、何をするにしても問われる。日本の電話番号ではダメなことが多く、アメリカの電話番号が必要になる。
僕はベライゾン(アメリカNo.1の通信会社業者、英語名はVerizon)を契約したが、契約自体は特に難しくなかった。家電量販店で買ったスマホを持ち込んで、ショップ店員に助けてもらいながら手続きをすればすぐ終わった。
※注意点:滞在歴の短い外国人は、スマホ端末の分割払いできない場合があるので、現地で端末を購入する場合は一括払いを覚悟すべし。
現地に着いてから色々手続きするのがダルいなー、という人には、日本に居ながらアメリカの携帯電話番号を準備できるサービスが存在する。実際に妻はアメスマを使っていて、特に不満は無さそうである。値段についても、現地で契約するよりお得では?と思うことがある。割とおすすめ。
④アメリカの銀行口座
三菱UFJ銀行が日本に居ながらアメリカのUS BANKの口座を開設できるサービスをやっているので、事前に開設してから渡米すべき。
アメリカで銀行口座を開設しようとすると、
・メールアドレス
・アメリカの電話番号
・アメリカの住所
・SSN
などが必要になるが、これら全部揃えるまで銀行口座なしはかなりキツイだろう。会社からの給与や手当を受け取るためにも、現地の口座が必要だ。事前に日本から資金を送っておけば資金がショートする心配もなくなる。デビットカードも先に手に入るので、アメリカのクレジットカードが手に入るまでの繋ぎとして重宝する。さらに、日本に住んでいると馴染みがないが、アメリカでは小切手を切る文化があり、そのためにも銀行口座が必要になる。
当然僕も日本で銀行口座を作ってから渡米したかった。ができなかった。
三菱UFJ銀行の口座開設サービスは、元々はユニオンバンクを日本に居ながら開設できる、というものだった。しかし、僕の赴任時期はUS BANKがユニオンバンクを吸収合併する時期で、三菱UFJ銀行が事前の口座開設を受け付けていなかったのだ。
そうなると現地で開設するしかない訳で、赴任した当日に会社の人と一緒に銀行に行った。そこは今までの赴任者もお世話になってきた銀行らしく、会社との信頼関係が出来上がっていた。SSNも住所も持たない、渡米初日の外国人の銀行口座をあっさり開設してくれた。はっきり言って、どうやったのか、詳細は全然わからない。誰にでもできるやり方ではないと思うので、おすすめできない。
SSNなしで銀行口座を開設する方法は確かに存在するが、現在はUS BANKの口座が日本から開設できるので、開設してから渡米した方が無難だ。
⑤アメリカの住所
これもありとあらゆる場面で問われる。運転免許証、クレジットカード、SSNなど、この後に出てくる重要なものはこれがないと申請できない。当たり前だが、申請時に記入した住所にそれら大事なカードや書類が送られてくるからだ。銀行口座は事前に作れるし、電話番号は比較的すぐ手に入るため、このアメリカの住所がボトルネックになることが多いと思われる。
住む家の決め方だが、ZillowやApartment.comといったサイトを使って、ざっくりと住みたい場所を調べてみると良い。
例えば、ロサンゼルスのダウンタウン(市街地)に家族4人で住む想定で、
・予算:$3,000/month 以下
・間取り:2ベッドルーム、2バスルーム
・家のタイプ:アパートメント
の条件で検索をかけると、いくつかの物件が見つかる。
その中で、$2,900/monthの物件が気になったなら、内覧の予約をする。
Zillowなどの仲介サイトを経由して予約しても良いが、時間がかかることがあるので、直ホームページを訪れて予約すると良い。
ここで注意点は、メールアドレスとアメリカの電話番号がないと予約できないことがある。ただし、予約なしでリーシング・オフィス(LEASING OFFICE)という所に行って、飛び込みでの内覧も可能なので、気になった物件があれば思い切って飛び込みで入れば良い。
物件にも寄るが、案内してもらうツアーとセルフツアー(Self-Guided Tour)がある。セルフしかない物件もあり、セルフの方が優勢なくらいだと思う。セルフの場合、リーシング・オフィスに行って、予約していることを伝えると、パスポートと引き換えに部屋の鍵を渡してくれる。後は好きに物件内を物色すればよいので、気楽に内覧することができる。
物件が気に入れば契約すればよいのだが、我々は入国間もない外国人なので、契約者の信用を得る必要がある。赴任時に「年収証明書」みたいな名前の書類を各社のフォーマットで貰えると思う。それを使って支払い能力があることを認めてもらう。
これも物件に寄るのだが、家賃1か月分のデポジットを求められることもある。日本でいう、敷金みたいなものだ。厄介なのは、このデポジットをCashier's checkで支払えと言われることがある。Cashier's checkとは小切手の一種で、銀行口座に入金している額までしか発行できず、発行時に銀行口座から発行額が引き落とされる。言うなれば、銀行のお墨付きを得た小切手である。
(通常の小切手は、受け手が入金するときに銀行口座から発行額が引き落とされるので、その際に銀行口座が残高不足だと入金できない。)
銀行口座を持っていないと、このCashier's checkが発行できないので、契約に支障をきたすことになる。Cashier's checkとは別の方法でDepositできないか貸主と調整するか、求められない物件を改めて探すかだ。
住居契約するためには銀行口座が必要で、銀行口座を作るためには住居契約が必要、というデッドロックに陥らないようにしよう。
余談だが、住居契約まではホテル暮らしになると思う。自分で予約するか、会社がやってくれるかは様々だと思うが、会社の予算が許せば、ヒルトンやマリオットなど、ロイヤリティ・プログラムが充実しているホテルチェーンを選んで、ポイントと宿泊実績を貯めると良いと思う。結構なポイントと宿泊実績が貯まるはずだ。
(当時の僕はそこまで気が回っておらず、非常に後悔している。)
⑥自宅のインターネット
これは僕の体験談になるが、アパートメント推奨のインターネット・プロバイダ(Xfinity)があったので、そのショップに行った。住所、電話番号、メールアドレスなどを伝えて、契約プランを伝えたら、すぐにモデム、ルーターなどの機器を貸して貰えた。ケーブル類も貸してもらえる。
自宅にそれらを持って帰って、接続して、スマホアプリをインストールして指示通りに設定すればインターネットが使える環境になる。スマホが無い人はどうやって設定するのかと思うが、持っていない人は技術者を派遣してセットアップしてもらえるサービスがあるので、それを利用することになるのだろう。2週間待ちだと言っていたが。
⑦クレジットカード
アメリカ生活において、クレジットカードは必須だ。日々の支払いに使用するのはもちろん、クレジットスコアの構築にも必要になる。車をリースする、ローンを組むなどの場面で、クレジットスコアが高いほど支払い能力が高いと見做されて金利が安くなる仕組みだ。
また、アメリカでは特典の多いクレジットカードが沢山あって、それらを作るためにもクレジットスコアが必要になる。
クレジットスコアを構築するためにクレジットカードが必要、クレジットカードを作るためにクレジットスコアが必要と言われると、ここでもデッドロックになるように思うが、この問題にはきちんとした解決策がある。
渡米前に、ANA USA CARDもしくはJAL USA CARDを申請しておいて、アメリカの住所が決まったら、その住所にカードを送ってもらえる。このカードを使用しながら、遅延なく支払いをしていると、6ヵ月でアメリカのクレジットカードが作れるようになる。以降はアメリカで作ったクレジットカードに切り替えると、日本のそれとは比較にならないペースでポイントが貯まっていくので面白い。
クレジットカードに関する記事はいくつか纏めているので、より深く興味があればぜひ読んで頂きたい。
⑧運転免許証
アメリカへの駐在員は赴任後すぐにレンタカーを運転することになると思うので、国際免許証を持って来ることになるだろう。ただし、国際免許証はレンタカーを借りるときにしか活躍しない。レンタカー屋の受付以外は国際免許証の存在を知らないので、日本国が発行した有効な証明書とは認識してもらえない。運転免許証を手に入れるまでの写真入りIDといえばパスポート一択になるが、パスポートを持ち歩き続けるのは少々抵抗があるので、早く運転免許証を取得したい所だ。僕が住むワシントン州の場合、「州内で運転をする場合は、当地移住後30日以内にワシントン州の運転免許証を取得すること」と定められている。ことさら早く手に入れなくてはならない。
(もし、日本の運転免許証を持っていないのに、アメリカ赴任を言い渡された人は、正直に会社に申告して日本の運転免許証を取ってから渡米すべきだ。車が運転できないとアメリカでは詰む可能性が高く、アメリカに来てから免許を取るのは大変だと思う。)
入手方法は州によって異なる。日本とワシントン州は運転免許試験の一部相互免除というものを実施していて、日本の運転免許証を持っていれば、学科及び実技試験は免除される。
1.領事館に「運転免許抜粋証明書」を申請する。
日本の運転免許証を保持していることを証明する書類。申請書、パスポート、及び手数料を領事館に持って行くと入手できる。この書類を持っていることにより試験が免除される。アメリカの住所が必要なので、住宅の契約後に取得することになる。
2.ワシントン州のドライバー・ライセンシング(Driver Licensing)のホームページから訪問日を予約をする。
3.運転免許抜粋証明書、パスポート、予約したエビデンス、手数料を持って、ドライバー・ライセンシングのオフィスに赴く。視力試験をして、写真を撮って、簡単な質問に答えたら、仮免(ペラ紙1枚)が貰える。1~2週間で免許証が送付されてくる。
晴れて運転免許証を手に入れたら、IDはそれでOK。お酒を買うときなど、「ID見せて」と言われる場面でのやり取りが非常にスムーズになる。パスポートを出すと、ボスに確認するからちょっと待って、と言われて待たされることがあったが、それが一切なくなった。
⑨車
アメリカの大部分では、車がないと生きていけないらしい。少なくともワシントン州で車なしで生活するのは結構しんどい。ほぼ不可能と言っていい。
車の入手方法は、新車を買う、中古車を買う、リースする、など様々なパターンがあるが、僕の体験談である、個人から中古車を買うやり方を紹介したい。個人と言っても見知らぬ他人ではなく、帰国予定の前任者からの購入であり、知り合いに車を売るケースである。
車のオーナーはタイトル(Certificate of Title)という書類を持っている。当然僕も持っている書類で、非常に重要な書類だ。この書類に必要事項を書いて相手に渡すと、所有権が相手に移る。
記入したタイトルを持って、DMV(ワシントン州の場合は、State Department of Licensingという名前)のオフィスに二人で一緒に行って、私が売り手です、僕が買い手です、と言って手数料を支払うだだけ。書類に不備があれば、その場でスタッフが指摘してくれるので、それに従えばよい。ナンバープレートをその場で貰えるので、付け替えて、鍵を受け取れば完了。
お金は個人間で値段を決めて、好きな方法でやり取りをする。型式、製造年、走行距離がわかればある程度の相場は調べられるので、信頼できる取引相手の場合でも軽く調べておいた方がいいだろう。ディーラーや中古車ショップの中抜きがない分、大抵の場合は安く買えると思う。
後日自宅に、新しいタイトルとレジストレーションカード(Registration Certificate)が届く。タイトルは大切に保管する。レジストレーションカードは車に積んでおく。
➉SSN(ソーシャル・セキュリティ・ナンバー)
アメリカの社会保障番号で、9桁の数字から成っている。日本でいうマイナンバーのようなもので、個人を特定する重要なIDだ。生涯番号で、一度取得すると一生その番号を使用し続けることになる。
入手方法は全米でほぼ統一されているらしい。
1.SSA(Social Security Administratin)のサイトからオンライン申請を行う。
2.申請から45日以内に、最寄りの社会保障事務所(Social Security Office)に、パスポートと就労ビザを持って行く。整理番号を取って待っていると番号を呼ばれるので、窓口で簡単な質問に答える。以上。
通常は申請から14日以内に郵送でSSNが書かれたカードが届くはずである。僕は早速アメリカの洗礼を受けて、14日経過後も送られてくる気配がない。
電話で上手くやり取りする自信がなかったので、改めてオフィスを訪れて催促することにした。申請が完了した時に貰った紙を見せながら、「14日以上経ったけど届いてないんだけど…」と説明すると、「ちょっと通常よりも遅れているみたいだね。」と言われたが、絶対に忘れられていたと確信している。その14日後に我が家に届けられた。
驚いたのは、催促しに行ったときの担当者が、「これがあなたの番号だから。届くまでに必要ならこれを使え。」と付箋に9桁の番号を手書きで書いて渡してくれた。え?こんなに雑に渡していいの?SSNって大事な個人情報のはずでは??
日本では考えられない対応だと思う。アメリカを肌で感じた瞬間だった。
ちなみにその付箋は1年以上経った今も、大事にファイリングされていた。今見ると独特の筆跡ですごく味がある。9桁のうちの1桁だけ晒すが、お分かりいただけるだろうか。これはもちろん数字の7だ。
SSNがボトルネックになっている手続きがあったが、こんな付箋に書かれた数字を重要な書類に記入する勇気がなかなか出なくて、どうしようかなーと悩んでいる間に正式なSSNが届いた。結論から言えば、手書きの9桁は正しかった。早く使えばよかった。
クレジットスコアの構築にクレジットカードが必要と述べたが、もうひとつ必要なものがあって、それがSSNだ。最初に入手したANA/JAL USA CARDとSSNを紐づけることでクレジットスコアを構築する土台ができあがる。
(事前に作った銀行口座のアカウントとSSNを紐づけるのも忘れずに。)
銀行口座を開く場合や、新たにクレジットカードを申請する場合には、このSSNが必要になる。今後の生活のためにも、早めにSSNを取得しておくと良いと思う。
僕が使い始めたロボアドを提供しているチャールズ・シュワブ(Charles Schwab)の証券口座を開設するときにもSSNは必須だった。
ロボアドによる資産運用について、下の記事を読んでもらえると嬉しい。
まとめ
これら10個のアイテムが揃ったら、言葉の問題を除けば、本当に不便を感じることが減った。駐在員として、家族が揃う前に一人でこれらをやるのは結構骨の折れる作業だったので、この記事が少しでも将来の駐在員の負担軽減に役立てば幸いである。