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【TOLOPANの真髄に迫る vol.17】都会と田舎のスペシャリストが生んだカンパーニュ⁡

「カンパーニュ」とは、「田舎」のこと。

田舎とは素朴な原子の世界である。


「パン・ド・カンパーニュ」
圧倒的な力強い香り。
大振りで何日もかけて食べるパン。
田舎に色々なお店がない分、大きく焼いて、味の変化と食感の変化、香りの変化、それで劣化とともにのせる食材を変えて、心を豊かにする食べ物。


どうしても書きたい塩の話。
なぜなら、パンに塩は不可欠だから。

パンに塩を入れる目的はさまざま。
味、小麦粉の発酵損害物質(ピュロチオニン)の抑制、酵素作用の調節、雑菌繁殖の防止、グルテンをひきしめるという効果。

その中でも「味」が一番大事だと考える。

トロパンで使っている塩。
安価な塩を利用した「オニオン塩」に少しだけふれておく。


作り方は、玉ねぎを皮のまま、フォークで穴を全体的にあけ、バットに入れて食塩で覆う。それをスチームコンベクション(UNOX)で180℃の1時間半焼成。取り出したら半日、常温で置く。それで玉ねぎのエキスが塩に移り、旨味塩となるのだ。

パンへの効果としては、
旨味塩としての意味合いではない。
パンへの化学反応を目的としている。

野菜から出た果糖(フラクトース)が含む塩になったことで、砂糖の入らない生地に対して、損傷デンプンをアミラーゼが麦芽糖(ブドウ糖が2個の2糖類)とデキストリン(ブドウ糖が20〜30個)に分解される。マルトース透過酵素によって一部はイースト内に、マルターゼによってブドウ糖に分解され、イーストの栄養源になるだけだったのが、「オニオン塩」の果糖の効果で、細胞外でも作用する酵素のインベターゼにより、透過酵素を使い細胞内に取り込み、チマーゼ群の作用を受け、ブドウ糖に変化し、炭酸ガスとアルコールに分解される。

こうした化学反応については、まだまだ調べていて不透明ではあるが、実務を行った時に違いがわかるものだ。

「オニオン塩」使用前では、塩を溶いた水をボールに、そして粉の順に入れ、水和をうながし酵素活性を強めるため5分放置後、酵母を入れて混ぜるという事をやっていた。
しかし、「オニオン塩」にしてからは、放置なしで混ぜて、その時よりも状態がよくあがっている。


パンに入れる塩の量は2%前後。
この僅かな量が「味」において重要だ。
そしてここでは、「塩」の中の塩化ナトリウムの量に注目したい。

食塩は塩化ナトリウムの含有量が99.5%。
それに対して、岩塩は80%。

両者は値段も驚くほど違う。なのに塩化ナトリウム量が絞られていては、さらに量を上乗せしなければ、本来求める「塩味」にならないのだ。


こうしたことから、トロパンでは味の決め手となる塩において「オニオン塩」を使う。今までは、ローズソルトやゲランド塩などミネラル豊富なモノをよく使用していたが、「オニオン塩」というひと手間を加えること「味」にフォーカスしたパンを追究している。


話を戻すと、カンパーニュを焼くことが僕の毎日の一番好きな厨房での仕事である。

その気持ちが増したのは、UNOXとの出会い。
石窯、平釜、コンベクションと三者をこなす事ができるオーブンで理想の焼成が可能となったことで、焼成反応の違いから香りや味の違いを生みだすことができるようになった。

焼成の基本は、輻射(上面部)、対流(脇から全体)、伝導(底からの芯部)の3点。

260℃という高音で弱い風で、1分蒸気を100%入れ、その後5分のファンを停止し、完全無風にする。蒸気を細かくし、流れ落ちていくだけだったものを45%蒸気量をアップ。
そこから無風を作り出し、対流を真っすぐに持ち上げ、クープを開かせる。
そして強い風で、専用の穴あき天板で対流での床熱の効果(平釜)を出す。ここで風を強く回さないと、くちゃつきや中の食感にすごく影響が出る。
最後に230℃に昇温させながら蒸気を20%入れる事で、対流系の炭化しやすかった部分が蒸気のおかげで表面温度を下げ、キャラメル化の時間を引き延ばす。
これが、何とも言えない香りになる瞬間。


トロパンのカンパーニュの他、「オールライ」というライ麦のパウンド型で焼く黒パンシリーズも、対流系で大事なこの温度の「上げ」「下げ」「上げ」が基本となっている。
「上げ」の時に伝導熱を2度作る。それが中の火通りに影響するのだ。


是非、トロパンのハード系パンをその日だけでなく、日数かけて楽しんで欲しい。

最高の機械が生まれるのは「都会」から。
しかし最高の食材を産んでいるのは「田舎」から。
この最高の融合を生むのは人間でしかない。

ロマンは自分の為、パンは人の為の仕事。

なので、本当の本当の意味での都会らしく、田舎らしく、人間らしく、日本全国のパン職人が「美味しい」を届けられたら、少し未来が明るくなると思っています。

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