【TOLOPANの真髄に迫るvol.22】クラムを楽しむために設計されたパンドミ
パンドミとはパンの身(ミ)を食べさせるもの。
油脂や砂糖をあまり使わないことがフランスらしいパンドミ。食感はモチモチし、素材の美味しさがひき立つ。
しかしトロパンでは油脂も砂糖も入れている。
何故なのか?
きっかけは、卸を行うホーミーズ(高田馬場)のハンバーガーバンズの開発だった。
社長と現地で細かなパンの修正を言われては直しを何度も繰り返した。バンズの一商品でこんなにも細かいことをするのだと感心していた。
社長が言うには、
「パティは普通に美味しくあればいい、パンが絶対に美味しくないといけない」
と教えてくれた。だから甘味の細かさ、中身の柔らかさ、卵黄の量、油脂もバターではなく素材感が出やすい植物性のマーガリンのソシエル(ADEKA)を使う。トランス脂肪酸がバターより低く、香りや色に出にくいため出したい素材感を出せるアイテムだ。
自分でもこのバンズを持ち帰って家でハンバーグとあわせている。クラムの甘味と、肉の香りと旨味が本当にちょうど良くなる。僕はそれに酸味を効かせた自家製ドレッシングであえたレタスやフレッシュハーブ挟んで食べるのがとても好きだ。酸味もレモンとかではなく、ビネガーの酢の感じがお気に入り。個人的にはラズベリーのビネガーを好みだ。
これを食べている時に、神戸のトアウェストにあった「インディヒナ?」というカフェで食べたトーストのハンバーグサンドを思い出した。
あれは中身を食べさせるバンズだった。
自分は、トーストのサンドイッチ用の中身(クラム)を食べさせるパンドミを作りたい。食べたい。
そう思いバンズの配合をベースに考え始めた。
フランスの定義ではなく、トロパンの定義で。
クラムの美味しさを表玄関に、クラストの薄さでテクスチャーの存在感を減らし、あとに残る香りを裏口と定めた。
クラムのテクスチャーはモチモチしっとり感があるように、府金製粉のもち姫(アミロペクチンの含有量がもち米と同じ100%に近い小麦)を使用。小麦のグルテンのヒキのモチモチにだけならないように、その食感にしやすい椿酵母(五島列島の椿の花びらから採取した無添加の生イースト)を使う。劣化対策に油脂と砂糖を配合し、角食にしてクラム全体が狙い食感とした。
クラストの香りとしては、配合の糖と粉のタンパクの分解からくるアミノ酸のメイラード反応をメインにキャラメル化を少し抑えた自然な甘味の柔らかさを重要視している。これによりキャラメルの香ばしさツンとくるものを排除している。
パンの形は、中身に特化したトロパンの定義に沿った角食スタイルで。また、予約では山食のパンドミを承っている。今回の写真は山食のパンドミだ。
山食のパンドミは、型の部分は角食と同様。しかし異なるのは上の山の部分。クラムが少し軽くクラスト部分は蓋をしていないためキャラメル化をしっかり行った、しっとりと軽さの二度の美味しさを楽しめるようにしている。
この山食を、トロパンでは風の対流で難しいとされてきたUNOXのスチームコンベクションオーブンで作り出すことができた。簡単に説明すると、UNOXの蒸気量、無風、昇温速度の優秀さのおかげである。
パンドミはトーストを考えて作っている。
トーストをするということはクラムの白い部分にメイラード反応、キャラメル化を行うこと。「カシュッ」という耳から入る食欲をそそる音と香ばしく甘みのある香りを引き出す。その想いを実現するためにも、糖を入れることで生まれる速さが焦げに繋がらず理想的なトーストに仕上がるわけだ。
トーストのハンバーグサンドイッチのために作ったパンドミから学んだことは、まずは定義を知り、知った上で風土と人の好みにあわせ、自社の定義からの変化を楽しんでもらい愛してもらえるように「モノ」を理解してから動かなくてはいけないということ。
ホーミーズのオーナー竹谷さんからもゴールを定めやることを決め細分化し妥協をしないやり方とマインドを学んだ。ひとと関われば関わるほど限りなく増えていくのは、「習うこと」ではなく「学ぶこと」。
学びは可能性の可能性で「希望」になるのだ。