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ちょうどいい旅【湯河原旅行記】

高校からの親友と二人で有給を取って、十二月。金曜日から土曜日にかけて、湯河原に一泊した。

旅を形作る一つひとつのものが、なんだかとってもちょうど良くて、「私の求めていたものは、これだったんだなあ」と、旅の中で何度も思った。時間の進み方が、穏やかだった。

12/6(金)1日目

朝、山積みの仕事を片付ける

出発の日の朝。普段は8時くらいに起床しているところ、およそ半年ぶりに朝6時台に起きた。
その日、私がお休みを取っていたのは午後からだったので、午前のうちに山積みの仕事を片付けなければならなかった。支度をして7時にはPCを起動し、働き始める。

12月に入ってからというものの、私には上限を優に超えた量の仕事を振り分けられていた。そのうえ、今日は半日お休みをとる。
「ものすごい勢いでやらないと、終わらないぞ!」と自分にはっぱをかけ、それぞれ別のプロジェクトの3つの仕事を一旦8割で完了させ、それぞれの上司に提出。その後3つの会議で話し、会議内容のメモを月曜の私のために残し、時刻は12時45分!

昼、出発する

編み物 なぞアングルの写真しか撮っていなかった

ブラウザ上の退勤ボタンをカチッと押し、荷物をまとめて家を出る。「家を出れました!!」と親友にLINEを送信。
時計を見ると、自分で思っていたよりも早く家を出られたようで、乗ろうとしていた電車の時間まで10分ほど余裕があった。それならばお昼ご飯を買おう、と、駅に向かう道でお気に入りのからあげ屋さんに寄る。からあげ、2つください。

「あつあつだから、やけどしないようにね!」と、紙袋に入ったからあげをお店の人に渡してもらう。ほくほくとした気分。コンビニでおにぎりも買い、駅でお昼にした。大胆に近づいてくる鳩としばし格闘しながらも、完食。満足。

ホームに滑り込んできた電車に乗り込む。私の家から湯河原までは、電車でおよそ2時間だった。
最初の1時間は、たまっていたLINEを返したり、眠ったりして過ごした。そして、そのあとの1時間は、編み物をした。編み物は、はじめたばかりでまだ簡単なものしか縫えないのだけれど、ちくちくと編んでいると、なんだか落ち着く。

電車はかなりすいていて、目の前の窓には晴れ空と海が青々とひろがっていた。時折車内に入ってくる、つめたい風が心地よかった。

昼下がり、お茶をのみ、海へゆく

湯河原駅到着!

編み物が7段ほどすすむ頃、湯河原駅に到着した。
親友は、まる一日有給をとっていたので既に湯河原についており、カフェで待ち合わせとなっていた。親友が見つけてくれた、創作のお茶を色々と出しているお店へと向かう。

駅から5分ほど歩くと、お店の前についた。窓の中で、鮮やかな青のタートルネックセーターを着た親友が、よ、と片手をあげていた。

サ行というお店 サのロゴが可愛い

扉を開けて、お店の中に入る。あたたかい。天井が広くて、いい感じの空間。綺麗で新しそう。私は、やぶきたという緑茶と、ジンジャーシロップを合わせたお茶を頂いた。甘いけどすっきりとした味わい。スパイスも効いていて、おいしかった。

お店:

お茶を飲みながらゆるゆると話しているうちに夕刻になり、親友が、海をみたいと言いだした。google で調べてみると、お店から15分くらい歩けば海につきそうだ。店を出て、海へと向かう。

海に着くころにはちょうど夕暮れの時間になっていて、空の淡いグラデーションの先に、白い月が浮かんでいた。写真を撮ってはしゃぎまわった。

海と反対側の景色もきれいだった

夕方、宿に到着し、だらだらとテレビを見る

宿 入口が可愛い

海を満喫しているうちに、駅と宿とを繋ぐシャトルバスの時間が迫ってきた。足早に湯河原駅へと戻り、駅前で待っていてくれたシャトルバスに乗りこむ。

バスで十分ほど揺られて宿に到着。チェックインを済ませ、湯を沸かして茶を入れ、テレビをつける。17時台からテレビをだらだらとみれているの、嬉し〜。

そのうち子供向けのお料理番組が始まり、そういえば私たちの頃も、似たようなのがあったよね、との話になる。「……わかった。味楽る(みらくる)ミミカじゃない?」「それだ!!」
いそいそと味楽るミミカのオープニングの歌詞を調べ、歌う。「つくーってみみか、ナンバーワン♪」「「ワン!」」

放送年を調べると、2006年から2009年だったとのこと。
小学生の私へ。15年先の未来で、味楽るミミカののオープニングを一緒に歌って、合いの手を入れてくれる親友がいるよ。

夜、揚げ物をたべ、ヨギボーと戯れ、星空をみる

18時半、夜ごはんの時間になった。夕食会場に移動する。

席に座って待っていると、「湯河原の名産です〜」と、物凄い量の魚の揚げ物がでてくるので圧倒される。三種類の魚の揚げ物が、お皿にどどんと乗っていて、野球部の部活の合宿ごはんか、という量。

サクサクとした揚げ物を、もくもくと食べる、食べる。うまい、うまいが、多い。どうにか食べれるだけ食べ、満腹の腹を抱えて、部屋に戻る。

寒くてジャージ履いてたのはご愛嬌

宿泊した部屋には、たくさんのヨギボーがあった。
あまりにもたくさんのヨギボー。デフォルトで部屋に入った時から3つあったのに加え、押入れからも、わらわらと出てきた。全部で大小6、7個。

そこで一つの疑念が湧く。
「……ヨギボーってさ、結構高いよね?」
「……確かに。こんなにもヨギボーがあるのは、おかしい」親友が、続ける。
「ということは」「宿泊者が、ヨギボーに変えられている?」
「つまり、私たちも、」「ヨギボーにされる」「うわああ」

茶番。

その後、ヨギボーに飛び込んでは、あまりのフィット感に動けなくなり、「ヨギボーに取り込まれる〜」と言って騒いだ。平和な夜。

そうこうしているうちに、夜が更けてくる。ヨギボーに取り込まれる寸前の状態からなんとか起き上がり、温泉へ。

温泉から出た後は、テレビをつけたらやっていた孤独のグルメをだらだらと見た。温泉旅行の醍醐味。

日付が変わる頃、「もしかして、星見えるんじゃない?」と親友が言うので、ベランダに出てみる。すると、満天の星空だった。

綺麗だな、と、みあげていると、さっと一筋光るものがあった。流れ星。

願いごとをする。
私の人生に登場してくれたすべての大切な人たちと、これから出会うすべての大切な人たちが、どうか、どうか幸せでありますように。

12/7(土)2日目

朝、アジと出汁の朝ごはんをたべる

布団とヨギボーに囲まれてぬくぬくと眠り、朝。
社会人の悲しき性で、二人して目覚ましが鳴る前の7時半には目が覚めてしまう。ただ、起きるのも癪なので、だらだらと布団の中で話す。「サラダって日本語で言うとなんだろうね」「冷え野菜盛り合わせ?」「まずそう」
朝から何にも中身のない話をしている。

そうこうしているうちに、8時半になるので、のそのそと起き出し、朝ごはん会場へと向かった。

朝ごはんに出てきたのは、冷え野菜盛り合わせではなく、あたたかな出汁と数々のおばんざい、そして素揚げのアジだった。
出汁には、最後に卵を流し入れて、卵とじにして食べた。あたたかさが染みた。

昼前、文字を綴る

朝ごはんの後は、宿のフリースペースの窓際の席に親友と並んで、もくもくと文字を綴った。二人とも書くことを想定して、ノートとペンとパソコンを持って湯河原にやってきていた。

私は十一月の半ばにパートナーとお別れをしていて、そのことは、会社では、信頼している二人だけに伝えていた。そのうちの一人が、よく一緒に働いている一回り上の先輩だった。

「遠くに行って、文豪ごっこをする、とかがいいかもですね」
落ち込んでいる私にカフェオレとドーナツをおごり、話を聞いてくれた先輩は、本気なのか適当なのか分からないことを言った。多分あの先輩のことだから、半分以上は適当だろう。いい意味で。
仕事ではどちらかといえば神経質な私は、先輩のいい意味での適当さに頻繁に救われている。(そして、先輩はとても仕事ができる)

それで、ふと考えてみると、なんだか私は、結果的に先輩におすすめされたのに近いことを湯河原でやっていることに気が付いた。遠くに来て、文章を書いていた。

遠くに行って、文豪ごっこしましたよ、なかなか良かったですよ、と、そのうち伝えようかしら。ああ、本当にやったんですか?とか、笑われそうだ。

昼、お茶づけをすする

12時半。お昼ご飯は、お茶づけだった。昨日のわんぱく夜ご飯は、夢だったんだろうか。同じ宿のご飯とは思えない。

お茶づけには、梅干し、お刺身、じゃこ、たくわん、などなど色々な薬味がついていて豪華。ポットに出汁が入っているので、ご飯の上に薬味を乗せ、出汁を注いでお茶漬けにして食べる。おいしい、おいしい。ぺろりと平らげる。

昼下がり、昼寝をする

お昼を食べた後、親友は一人で宿の近くの美術館へ。
私はというと、風邪っぽかったので宿に残ってお昼寝をすることにした。やわらかな日の当たる席で毛布を掛けてうとうととし、なかなか幸せであった。

夕方、ふたたび海へ行く

夕方になって宿を出て、また海に行くことにした。昨日行ったのとちょうど同じくらいの時間帯で、空は同じ綺麗な色をしていた。

砂浜に降りて散歩をして、石を拾ってはふざけ倒した。ナショナルジオグラフィックの真似を始める親友。拾った石と話せる少女としてインタビューに応じる私。「こちらが、石と話せる少女のようです!話を聞いてみましょう」「私はトリーサー。10歳の頃から石と話せたのよ」

拾った石のうち、いくつかは持って帰ることにした。普段、私はあまり石は拾わないのだけれど、この旅での満ちた感覚を石と一緒に覚えていたい、と思った。くすんだガラスのような透明、タイルを思わせる薄緑色、陶器の鮮やかな青。それらを、大事にポケットに入れた。

日暮れ、レモンジンジャーをのむ

砂浜から車通りのある道に帰ってくると、辺りはどんどんと暗くなり始めていた。おお、寒いさむい。駅に向かう道から少し外れたところにぽつんあるカフェを見つけて入る。体は冷えきってしまっていて、店内は暖房が効いていたのに、中に入った後もしばらく上着を脱げなかった。

頼んだのは、レモンジンジャー。しばらくして運ばれてきた黄金色のレモンジンジャーは、こっくりとした甘さだった。喉がやけるような甘さが嬉しい。
店内にはたくさんの雑誌が置かれていて、私が雑誌&Premiumをぱらぱらとやる隣で、親友は古いウィリアムモリスの画集に見入っていた。ゆったりとした時間が流れていた。

ちょうどいい旅

17時半頃、帰路につく。

都心から2時間ほどの海、気心の知れた友人、穏やかな時間の流れ。ちょうどいいが、沢山詰まった旅だった。

日々は、とかく忙しない。溜まった連絡への返信、足早に駅に向かう朝、積みあがっていく仕事、夜も混雑した電車。
やらなければならないこと、考えなければならないことは尽きず、気が付けば、どこに進んでいるのかもわからないままに流されていく。

けれど、慌ただしい流れからちょっと抜け出して、遠くに来てみたら、こんなにも穏やかな時間があった。忘れてしまっていた、ゆっくりとした時間たちが待っていてくれた。

ちょうどいい、旅だった。
親友もそう感じていたようで、特にやることがなかったのが良かったね、と言い合いながら、夜道を歩いた。

また、出掛けようね。ちょうどいい旅をしよう。

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