グローバルアジェンダとゼブラ企業
新型コロナウイルスの問題、中国チベット問題、ウクライナ問題、ミャンマー政変問題などグローバルアジェンダが国内の事業にも少なからぬ影響を与えています。経営においてはSDGs、ESGなどの新しい基準もスタンダードになってきている中で、今後はweb3の台頭も見据え、“DX“以上のテクノロジーへの取り組み、ブロックチェーンでつながる時代における“正しい企業“であり続けることが求められてきています。
そのようなあらゆるグローバルアジェンダと日本で社会課題や地域課題解決に向かっているゼブラ的企業はどのように繋がっているのか考えるため、2022年4月に第18回のZebra Cafeとして「グローバルアジェンダとゼブラ企業」というテーマで元HUFFPOST日本版のエディター/現:株式会社湯気の代表取締役である南麻理江さんにお越しいただき、Tokyo Zebras Uniteのメンバーとディスカッションしました。
*本記事は第18回Zebras Cafe「グローバルアジェンダとゼブラ企業」を読みやすい形に再編集したものです。(イベント実施日:2022年4月27日、記事掲載日:2023年4月27日)
南 麻理江
東京大学文学部を卒業後、2011年から6年間博報堂・博報堂DYメディアパートナーズでインターネット広告のセールス、企画・運用に携わる。2017年5月にハフポスト日本版に入社、エディターとして記事コンテンツの執筆・編集、イベントのプロデュース、ライブ番組など新規事業の立ち上げや制作に携わる。2021年1月よりSDGsの特集「SDGsで世界をリ・デザインする」をメインで担当。SDGsを学ぶライブ番組「ハフライブ」でMCを務める。2022年6月より、株式会社湯気を設立し、現在に至る。
社会課題解決とサステナブルな経済合理性
(ZC)
こんにちは。今日はよろしくお願いします。早速ですがお話しを伺っていきたいと思います。人権、気候変動、デジタルアイデンティティ、性差(ジェンダーバイアス)、多様性(ダイバーシティ)など、南さんがHUFFPOSTで活動している中で、注目しているアジェンダをお話しいただけますか。
(南さん)
よろしくお願いします。阿座上さんが挙げてくださったグローバルアジェンダがグローバルで多岐にわたっているため、どこから紹介したら良いか迷いますが。笑
やはり気候変動とジェンダーの問題は、ハフポストでも注力しているテーマですし、個人としてもすごく注目をしています。これらの問題は経済合理性が効きにくいとずっとされてきました。しかし、両方の分野で社会課題解決と経済合理性を両輪で走らせようと試みる事例も出てきていると思います。
2022年に開催された気候変動COP26を取材していても、世界全体が脱炭素を宣言したことはエポックメイキングなことであったと思います。欧米では数年前から、「脱炭素化」がむしろビジネスチャンスになるということが新しい常識になりつつありますが、これまで日本の読者からの反応が比較的薄かった。それが、今年の記事への注目のされ方は非常に大きく、興味深い読者の反応として捉えました。
社会的意義のある記事の読者を増やす新たな試み
(ZC)
南さんは、メディア目線で気候変動の問題への関心が一番高いということですが。メディアの方と話しているときに、気候変動など社会に良い事に価値はあるんだけど、なかなか見てもらえなくて記事にしづらいという話を聞きましたがHUFFPOSTはどうですか?
(南さん)
そうなんです。なかなか読んでもらえないっていう悩みはあります。報道では、感情的にではなく、科学的に語ることがすごく重要だと思っていますが、IPCCのレポートを読んでもらえるように促す記事を作っても、実際には読み解く余裕がない読者が圧倒的に多い。科学的なアプローチの難しさも感じています。
日本のメディアが海外の動きを伝える際にグレタ・トゥーンベリさんばかりを見出しにしてしまうことに課題を感じながらも、彼女のように will(意志)を持っている人を記事の最初に持ってくるやり方は、多くの方々に気候変動の問題を知っていただくために、やっぱり有効な場合もあり、その辺のバランスは試行錯誤しています。
今回のCOP26にあわせて私たちがチャレンジしてみたのは、トゥーンベリさんが始めた「フライデーズ・フォー・フューチャー(Fridays For Future、以下FFF)」という活動団体の日本支部のメンバーにカメラを託して、各国のUnder30の気候変動活動家たちに「世界や日本の人たちに伝えたいこと」を聞いて回るという企画でした。普段日本に入って来にくい発展途上国のアクティビストの方の声を動画にしてHUFFPOSTで発信したところ、凄く大きな反響がありました。東南アジアやアフリカなどの10, 20代が日本政府に対してどんなことを思っているかなど、普段あまり聞くことができない生の声を届けることができました。読者の皆さんに気候変動への関心を持ってもらうための工夫ができたと思えた取り組みでしたね。
発展途上国が期待する日本政府の姿
(ZC)
面白いですね。その動画ではどんな日本政府に対する期待があったのですか。
(南さん)
そうですね。若い人たちの声を聞いていると、気候変動対策に関して、日本への期待が物凄く高いことがわかりました。世界三番目の経済大国でアジアのリーダーでもある日本に、周りの国にリーダーとしての背中を見せてほしいとくちぐちに言っていました。普段、「ヨーロッパはこんなに頑張っているのに、日本は大大丈…?」といった日本を“下げる”ような発言をしてしまいがちなところもあるので、ハッとさせられましたね。
また、バングラデッシュの活動家の方から聞いたことなのですが、バングラデシュで走ってる車って日本の中古車が輸出されたものがすごく多いんです。彼が言っていたのは、「日本の自動車メーカーが2040年までに“脱エンジン”を実現しますといっても、、結局今ずっと作り続けているエンジン車を途上国に輸出するという状態が続くと、自分たちの国ではずっとCO2が出続けることになる。だから、先進国にはそのようなことを意識してほしい」ということでした。私も「ああその観点もあった」と思いました。メーカーが脱エンジンを宣言しても、小さく※(こめじるし)を付けて「先進国市場に限る」というようなことが書かれていることも多々あり、結局私たち先進国は、途上国に押し付けているままで変わってないじゃん、と。これまでも感じていたモヤモヤをバングラデッシュの活動家である彼の言葉を聞いて改めて認識し、大きな宿題を受け取ってしまったな、と思いました。
エポックメイキングなCOP26
(ZC)
ビジネスとして、外部不経済をきちんと見なくてはいけない時代になってきていますよね。先ほど今回のCOP 26がエポックメインキングだったというお話がありましたが、特にどの部分が画期的だったのでしょうか?
(南さん)
まず、合意文書の中に「脱石炭をしましょう」という言葉が書かれていたことです。現在のウクライナ危機(*)の問題の根底には、資源の問題があると思っています。石炭を国の産業の中心に据えている国もある中で、「石炭」という特定の資源名を名指しして、私たち人間はこれに頼ってはいけない、と明記されたのは大きなことだったと思います。また、個人的に日本の残念なポイントだと感じたのは、倫理観のリープフロッグのようなことが起きているという点です。日本は「脱石炭」を正式に宣言はしていない一方で、ベトナムなどの東南アジアの国が、「脱石炭を何年までにやります」という宣言をきちんとしていました。また、ドラマチックな場面として記憶しているのは、最終日の議長の涙ながらの会見ですね。最終文書では、石炭を段階的に減らしていくという方向性になったのですが、本当は更に強い言葉で書きたかったようで参加国が凄く揉めて、結局会期が1日延びたんです。
(*)トークイベント時は、ロシアのウクライナ侵攻から1ヶ月あまりが経過した頃。
リープフロッグ:段階的なステップを飛ばし一気に発展する様子。アフリカでは、先進国が辿ってきた道を一つずつ辿るのではなく、現状から一気に世界最先端の技術を利用するという現象が起こっている。先進国が辿ってきた道を一つずつ辿るのではなく、現状から一気に世界の最先端を利用するという現象が起こっている。(参照:https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00081/052500374)
世代格差とグローバルアジェンダの設定
(ZC)
気候変動の問題の本質の一つとして、世代間格差があると思っています。これは、日本では認識されていないことだと思っています。日本での気候変動の問題に対する世代間格差は南さんからどのように見えていますか。さらに、グローバルアジェンダは誰が設定すると思いますか。誰がどのような意図を持ってアジェンダセッティングしていくのか、という力学的な側面から是非聞かせてください。
(南さん)
まず、日本では水俣病などの公害対策を世界の中でもかなり先進的に行なってきており、京都で開かれた COP3 にて、「京都議定書」を作成する際の議長国を努めた経験もあります。しかし、それによって、50,60代より年齢が上の層だと日本は環境推進国だというイメージがあり、それが2022年の今になっても変わっていない気がします。環境問題の話をする時に、「日本は環境問題への対策はトップでしょ?」という認識が上の世代にあるな、と。また、世代間格差の問題が伝わらない理由として、メディアの力不足もありますが、若者の声が反映されにくい、上の年齢層が多い日本の人口動態にも根本要因はあると思います。これから長く生きていかないといけない若者が環境問題の被害を、長く深刻に被っていくのだという声が小さく、届けきれないと感じます。さらに、格差是正や社会正義のようなある種の西洋的価値観が日本人に埋め込まれていないため、「何故環境問題の被害を若者がより被るか」という議論が日本人に腹落ちしてないという感覚もあります。これらを対話でどのように解決していけばいいのか普段から悩んでいるところです。
COP3:条約における締約国会議(Conference of the Parties; COP)の3回目の会議の通称 参照:wikipedia)
各セクターを飛び越えた先に
(ZC)
ありがとうございます。少し話が変わってしまいますが、海外に住んでいたときに、ヨーロッパやアメリカではNPO活動などが非常に盛んで、今回のテーマでもあるグローバルアジェンダに火種をつけるのはNPOである印象を受けました。
彼らには、初めはビジネスになるかどうかなどを考えずにグローバルアジェンダに火種をつけれるように活動を始めていき、活動として結果がではじめた段階でビジネスとして金融の仕組みをつけながら大きくさせていくという流れがあるように感じています。それに関連して、ビジネススクールの同級生が最近アムステルダムに引っ越しをして、そこで気候変動のデモに参加したという話を聞きました。彼は、元々NPOのデモ活動などに情熱的に取り組むようなタイプではなかったのもあって、ヨーロッパなどでは、デモ活動とビジネスの距離感が特別近いのではないかと感じました。一方で日本では、「デモ活動と事業」など、各業界間での切り分け感が強いと思っており、海外だとどのように捉えられていると思いますか?
(南さん)
例えば、日本でのNPO•NGOのイメージとして、「世の中のために清貧である社会派の人達」というものがあると思います。このような問題の根底に、「人材の流動性が低い」ということが挙げられると思います。欧米では、NPOで活躍していた方がその後スタートアップに行ったり、シンクタンクに行ったりと、各業界の行き来を当たり前に行っており、さらに報酬・お給料をしっかり受け取っているという構図があります。
文化の違いを乗り越えたり、わかりあうためには、色々なセクターを飛び越えて人の流動性を高くしていくことが重要。それは欧米の強みであるし、日本でも大事なことだと思います。また、セクターを飛び越えて活躍していく人をゼブラの方々だけでなく、メディア関係者や官僚、起業家や投資家など多くの人が意識していけるといいんだろうな、と思います。
(ZC)
確かに、各コミュニティで人々の流動性を上げていくことは大事なことだと思います。南さん、今日は本当にありがとうございました!
本記事では、イベントを抜粋した形でお届けしています。
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