CM撮影現場にはなぜあんなに大人数がいるのか?
たまには映像の話をしよう。
先日、とあるCMの撮影を行ってきた。総勢30名くらいの比較的大きな現場だった。それぞれのスタッフ、キャストがとてもいい仕事をしてくれたおかげでいいロケができた。
2箇所のスタジオで撮影したが、1つはヘッダー画像のような感じの現場だった。まだCMが公開されていないので、これ以上の情報を出すことができないのが残念だ。でも、皆さんも道を歩いている時、ふと、撮影現場を目撃したことはないだろうか。そして多くの人がこう思ったはずだ。
「なんでこんなに人がいっぱいいるの?」
決して「寂しがり屋の集まりだから・・・」というわけではない。(いや、あるいはそうかもしれない)みなさんが日頃から何気なくみているドラマやCM、YouTubeも何気ない1つのシーンをとっても、実はものすごく大勢の人がかかわっていることもある。
今日はどんな人があの撮影現場にいるのかを皆さんに紹介したい。きっと今度、偶然、ロケ現場を目撃したとき、なんであんなに大人数いるのか、誰がどういう役割でそこにいるのか、今までよりもちょっとだけ解像度が上がるかもしれない。
まず、大別すると「キャスト」と「スタッフ」にわかれる。キャストは映像に出演する人たち。映画では「俳優部」とも言ったりする。
【キャスト】
著作権フリー素材だけですべてのポジションを説明しようという無謀な試みをしているので、写真のチョイスに関する疑問はご容赦いただきたい。ちなみに、キャストには「エキストラ」も含まれる。誰でもいいわけじゃない。その人たちの存在や演技が映像の世界観にリアリティを持たせてくれる。
【マネジャー】
事務所に所属しているタレントさんや俳優さんであれば、マネジャーさんも現場に顔をだすことが多い。彼らはただひたすらタレントを見守るという役割である。ちなみにそのキャスト候補を出してくれる「キャスティング会社」の人もいる。今回も大変お世話になった。
では、ここからが【スタッフ】の紹介だ。
【ディレクター】
映像に映り込む全てのものに責任を持つ人がディレクター。いわゆる監督さんだ。これから紹介する全ての専門スタッフに対して、指示を出し、1つの世界観をつくりあげる。映像の世界では花形と言われるような仕事だ。キャストには演技指導し、モニターの前でチェックをする。ディレクターがOKでなければ「Take2」だ。現場によっては「助監督」といって撮影現場を取り仕切ったり、香盤(スケジュール)をつくって進行したり、シーンごとに必要な小道具を手配する人たちもいる。下記のようにカチンコをたたくこともある。
ただ気合をいれるためにカチンコを叩いているわけではない。カメラマンが撮る映像と録音技師が録る音声をあとでシンクロさせたり、どのシーンがOKテイクだったか編集でわかるようにするための大事な役割がある。
【カメラマン】
撮影をするのがカメラマン。「撮影監督」(サツカン)と言ったり、「シネマトグラファー」という人もいれば「Director of Photography」(DP、DoP)という人もいる。これはもう本人のこだわり次第だ。岩井俊二監督も篠田昇さんというカメラマンとしか撮りたがらなかった。それくらい監督にとってはかけがえのないパートナー的存在である。ちなみに1人だけではない。ピントを合わせ続ける「フォーカスマン」みたいな助手もいたりする。上記の写真がたまたまその2人体制で撮っている。一見すごいカメラにみえるかもしれないが、いろいろなリグ機材やバッテリーを後からつけているので、仰々しく見えるが実際はシンプルなものだ。(しかしこの派手さがクライアントを喜ばせることは大いにある)
【照明】
光の魔術師、それこそが照明技師。ガファーとも呼ぶ。映像は光だ。これによって世界観が全然変わってくる。たとえば下の画像のような殺風景なスタジオでも、窓の外から部屋に向かってライトを当てることで、このスタジオが夏の日の夕方にもなれば、真冬の朝にもなる。機材のセッティングがとても大変なので、2、3人助手がつくことも多い。
これらの機材を運搬するのもかなり大掛かりだ。今回はこの大型ハイエースにパンパンに詰んだ。(帰りは僕が運転したので記念に撮影しておいた)
【録音】
キャストの声、環境音、歩く音、映像に必要なすべての音を収録するのが録音技師だ。時にはモノローグなど後から付け足す音を録るために「オンリー」といって声だけ収録することもある。逆に撮影と同時に録音する場合は「同録」と言ったりする。そこに入ってはいけない音が入っていないか、ノイズが入っていないか、音の責任はすべてこの人に託されるので、相当、音に繊細な人でないと成り立たない。あと下記のようなブームマイクはずっと持っていると腕が疲れる。(僕には絶対無理だ)
以上がいわゆる「撮・照・録(さっしょうろく)」である。略すとかっこいい感じがするので、僕も頻繁に使いたいが、実際にはあまり言う機会がない。
【ヘアメイク】
出演者のヘアメイクをする人。簡単にできると思ったら大間違いだ。女性なら30分〜1時間くらいかかる。(しかもドライヤーが使える場所が必要だ)そして一度やったら終わりではない。撮影後もちょっとした髪の乱れに気を配る必要がある。だからつねにモニター近くやキャストの近くに待機していることが多い。キャストが多いと2、3人のヘアメイクで対応する時もある。
【スタイリスト】
キャストの着る衣装をコーディネートするのが、スタイリスト。当たり前だがCMともなると私服でいいわけがない。その映像の世界観、キャラクターにあった衣装を用意する。演出コンテをもとに複数のパターンを提案してくれる。彼らも貸衣装屋みたいなところから調達したり、場合によってはそのために買うこともある。唯一、女性にスリーサイズをきいてもセクハラにならない仕事だ。
【美術】
映像に映り込む小道具やら大道具などを手配するのが美術(プロップデザイナー)だ。ここが正直、制作においてはかなりの予算が必要になるが、美術が入ることで世界観がグッと引き立つ。「細部に神は宿る」を地で表現する人たちだ。たとえば下記のようなシーンを撮るとしよう。CMならば、パソコンやヘッドフォンはそのメーカーのロゴを隠さなければいけない。そして、今開いている参考書も実際にあるものを使用してはいけない。(なので映像に映り込む部分だけ偽の見開きページをデザインして差し込む必要がある)そしてほとんど誰も気にしないような本棚の中にある本さえ表紙をつくる。ここまでぼかせば大丈夫かもしれないが、ぼかさないのであれば、ありものを使うわけにはいかない。またほとんど見切れているような道具入れやら観葉植物とかもすべてレンタルして用意するし、パソコンのディスプレイに何を写しておくかも考えなければいけない。(わざわざディスプレイ用の画面を用意することもある)今回の現場には美術スタッフが4人来てくれた。素晴らしい美術だったので早くみんなに見せたい。
他にも現場全体の責任者である「プロデューサー」、手を動かして映像をつくるというより、頭を使い、人を動かして映像をつくる人。他にも「プリプロ」と呼ばれる撮影準備を行ったり、ロケハンをして撮影場所を決めたり、キャストのケアをしたりと縁の下で制作現場を駆け回りながらサポートする「PM」といった人たちがいる。彼らこそ撮影における影の主役だ。
ロケ弁の手配をしたり、ちょっとした時につまめる軽食やお菓子、飲み物を用意したりもする。(こういうロケ弁やお菓子にもセンスが出る。なんでも適当に買えばいいわけではない。寒い日ならあったかい飲み物を多めに買ったり、いろんな人の好みも考えて用意する。愛がそこにあるかが大事だ)ちなみにこの日はチョコパイが圧倒的に人気で追加補充した。
それ以外にも「現場応援」という形で、交通整理をしたり各セクションのサポートをする人もいれば、「スクリプター」といってどのテイクがOKテイクだったかを記録する人もいる。また撮影現場ですぐにその場で「編集」をして検証をする人もいれば、その撮影データを管理する「DIT」(デジタル・イメージ・テクニシャン)という人もいる。今回は「CG合成」があるので「CGクリエイター」さんも現場に来てくれていた。
さらには撮影現場に大道具を運んでくれる「ドライバー」、「ロケバスの運転手」などもはや挙げればキリがないくらいいる。
今回は別の場所にある大道具を2tトラックで運搬もしてもらった。早朝の立て込みから夜遅くまでずっとドライバーさんには待機してもらう。さらにはその大道具を組み立てるスタッフも2人来てくれた。
そして「クライアント」さんも立ち会う。お客さんには「クライアントモニター」を見てもらいながら問題がないかをチェックしてもらう。監督がOKでもクライアントがNGなら「take2」だ。ある意味ではもう1人の監督とも言える。あまりのスタッフの多さに萎縮するクライアントさんもいるが、ここで変に遠慮されてしまうと後から修正がきかないこともあるのでバランスが大事だ。
以上、・・・・どうして、あんなに撮影現場に人が多くいるのか、少しでも分かっていただけたら嬉しい。
1つ確かなのは、みんな映像が好きだし、その仕事を愛している人たちということだ。(2tトラックのドライバーさんはそうじゃないかもしれない)小さな仕事のこだわりの積み重ねが、パッとみて「いい映像だな」という気持ちにつながる。
今回、僕は全体を見守る役に過ぎなかったが「プランナー」として、このCMの企画には携わっていた。自分の考えた小さなアイデアが多くのスタッフの手により、情熱と技術が折り重なってカタチになるのが最高に楽しかった。本当に関わってくれた人たちみなさんに感謝したい。ありがとう。
そして、今は撮影後の「ポスプロ」という工程の真っ最中で、多くのスタッフが後工程の制作に取り組んでいる。今回撮影したCMが完成して公開された暁には、またこのnoteで紹介するのでお楽しみに。
(ちなみに上記説明に関する情報は、多分に筆者の主観で書かれたものですので、もっと真面目に知りたい方はぜひ映像の教科書などをみてね)