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ゲルの台所事情① 冷蔵庫がない暮らし

遊牧民の移動式住居、ゲル。
10平方メートルくらいの小さな空間に、家の機能が全て集約されている。その内部は、小さいながらも合理的で、沢山の工夫で溢れていた。


ゲルの台所

「台所」といっても定義が難しい。ゲルの中のどこでも料理をするからだ。
ただ、一番台所に近いのは、入り口入ってすぐの調理台だろう。
1メートルほどの机に、調味料、調理器具、カトラリー、食器が所狭しと並ぶ。この机に収まらないものは持たないので、全てが最低限の数だ。

作業をするときは、これらを上手に端に寄せ、野菜を切ったり、食器を洗ったりする。

6人家族分の食器と調味料が、全てこの机の上に。
よく見ると奥の方に日本の粉ミルクがある。

でも、どうしても机に収まらない大きな調理道具だってある。そんなときは、だ。ゲルの骨子となっている格子状の木組み、ここに引っ掛かれば良い。

しかも、よくよく見たら布巾が掛けられていたり、お玉や哺乳瓶が挟まっていたりしておもしろい。
ペンを貸して欲しいと言ったら、天井の骨組みからすっと取り出して来て、驚いた。

この壁は便利だ。調理道具の他にも、ハンガーを引っ掛けて洗濯物だって干せる!

ゲルの冷蔵庫

眺めているうちに、冷蔵庫がないことに気がついた。
どうしてるんだろう。
疑問に思い、ナガさんに聞いてみたところ、冷蔵庫は、夏しか使わない。腐るようなものは外に置いているよ、と教えてくれた。
確かに、5月でさえ、最低気温が-2℃のモンゴル、基本冷蔵庫は必要ない。
せっかくなので、外の食材置き場を見たいとお願いしたら、木でできた小屋に案内してくれた。

さぞ食材が詰まってるのだろうとわくわくしながら覗き込んだが、取り出したのはビニール袋にはいった肉の塊だけ。

ビニール袋には、羊肉の塊がどすんと2つ入っている。

ちょっと拍子抜けして、あれ、お肉だけ?と聞くと、そうだよ。と笑いながら答えてくれた。
でも、料理には、にんじんも玉ねぎも入っていた。
あの野菜たちは一体どこに置いてあるのだろうか。

その日の午後、ナガさんの料理を手伝った時に、この謎がとけた。ナガさんが、息子のトゥルくんにモンゴル語で何か話しかけたところ、トゥルくんが、ベットの下から段ボールを引き出し、玉ねぎを取り出したのだ。

ベットの下か!!

続いて、2歳のネンダちゃんがやってきて、ぐずりだした。するとナガさんはベットの脇のカバンに手を伸ばし、中からお菓子を取り出して与えた。

なるほど、そんなところにあったのかと感心しながらベットの脇をよく見てみると、ボルツクの大袋がそのまま置いてあることにも気がついた。

食材はまとめてこの場所、という決まりがなく、しまえる場所にしまうという発想は、新鮮だった。



遊牧民の家事分担


ところで、外は寒いが、ゲルの中は暖かい。だからやっぱり、ゲルの中に腐るようなものは置けない。
というわけで、ナガさんは料理の作り置きはせず、毎日朝昼晩、6人分のごはんを作る

つまり、ほぼ休む暇なく、常に料理か料理の準備をしているわけだ。しかも、その他の家事も基本ナガさんが行っているので、かなり忙しそうだ。

しかし、夫婦で家事分担の争いは発生しない。

なぜなら、夫のユウスケさんも目の前で働いているからだ。ユウスケさんはユウスケさんで、寒い外で、素手で牛の餌をかき混ぜたり、羊やヤギがいる家畜小屋を掃除したりと重労働だ。

専業主婦とかそういう括りではなく、完全に分業
なんだなあとしみじみ思った。


餌を用意するユウスケさん。
家畜の餌は、ビールの残りかす。トラックの荷台いっぱいに積んで、ウランバートルから運んでくる。


ボルツク(モンゴルの揚げパン)をあげるナガさん。
ゲル全体が、台所だ。


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