「ハッピー・オブ・ジ・エンド」 ep.15 感想
ep.15
新宿の路地裏で浩然がマヤを包丁で刺すという衝撃の14話から9か月。
待ちに待った15話は予想を遥かに超えた展開で、驚きとショックの連続だった。
15話では浩然の瞳が闇のように黒いままで、時折わずかに光が灯るのみだ。
マヤの腹部に突き刺した包丁を両手でしっかりと掴みなおし、頭上から勢いよく振り下ろそうとする浩然は、千紘と自分の未来のためにマヤを本気で殺そうとしているように見える。
泣きながら「たすけて…」と命乞いをするマヤ。
その時、突然鳴り出したスマホの着信音を聞いて、はっと我に返った浩然は、マヤにとどめを刺すことなく、血に染まった包丁をコートの中に隠して走り去る。
マヤを刺したことを千紘にはしばらく秘密にしておくのではないかと私は思っていたが、千紘の待つ部屋に帰った浩然は、血で染まったままの両手で千紘の肩を掴み、「刺した。マヤを、殺したくて」と告白する。
千紘は浩然を責めない。
動揺して冷や汗を流しながら、「逃げよう」と言う。
「どっか遠くだよ。行くぞ、一緒に」
千紘は浩然の手をぎゅっと握りしめる。
何の迷いもなく、どこまでも浩然と運命を共にする千紘の覚悟に、浩然は胸を打たれる。
「とりあえず東京から出よう」と言う千紘に、浩然は「ある。一緒に行きたい場所」と答える。
え、まさか…!? ここで、あそこに…?
二人が向かった先は、江ノ島だった。
江ノ島は浩然の「母さん」が育ったところ。
かつて、浩然が母に「一緒に帰れたらいいね」と言われた特別な場所だ。
私は、二人が江ノ島を旅するのは物語のラストだと予想していた。(3巻予想)
春を迎えて、過去の呪縛や苦しみから解放された千紘と浩然が、晴れやかな笑顔で海岸を歩き、しらす丼を食べ、水族館でデートする姿を夢見ていた。
それが、まさかこんな形で描かれることになろうとは…。
とてもショックだった。
せっかく名物のしらす丼を前にしても、不安と緊張から千紘は食欲がなくて箸をつけられない。
浩然は平然とした顔で食べるけれど、すぐにトイレで吐いてしまう。
どんなに罪悪感を抑圧しても、浩然には水で洗った両手が真っ黒に見えてしまう。
おげれつ先生は水族館デートがお好きだから(黒バス同人誌、「エスケープ・ジャーニー」)、きっと江ノ島でも千紘と浩然が水族館に行くと思っていた。
でも、まさか、こんな気持ちで…(涙)
ぼんやりと水槽を見つめる浩然の手に千紘から指を絡めて、イルカショーを見に行こうと誘う。
いつもと変わらない千紘の態度に、ようやく浩然は頬を赤らめ、少しだけ漆黒の瞳に光を浮かべて「うん…」と答える。
イルカに触れて笑い合う二人の笑顔がたまらなく可愛い。
可愛いからこそ、浩然が抱える心の闇の深さと、二人の行く先の暗さが際立つ。
そう言って、真っ暗な瞳のまま笑みを浮かべる浩然の横顔を、千紘が心配そうに見つめる。
二人は冬の海を見に行く。
冷たい海風に震えながら、千紘は、腕が完治したらまた働いて、カメラを買ってもう一度カメラマンを目指すのだと言う。
このシーンの二人のあどけない笑顔が切ない。
ep.15は全体的に人物の作画が若くて、可愛い感じになっている。
千紘の決意を聞き、
こう思う浩然が、千紘と別れる決心をしていることがわかるから、私はつらい。
浩然はローファーを脱ぎ、突然海に走り出す。
慌てて追いかけた千紘が浩然の腕を掴んで引き留める。
「…ちょっと、遊びたかっただけ」
と浩然は言うけれど、ep.6で踏切に寝転がった時のように、浩然が死にたがっているようにしか見えないから、千紘も私も不安になる。
旅館の部屋のテレビで、マヤの事件がニュースになっていることを知り、千紘は動揺する。
罪を犯した浩然の方は、もうすべてを諦めているからか、むしろ落ち着いている。
お風呂に入って浴衣に着替え、セックスする二人は本当に可愛い。
いつもながら、無粋な修正が残念でならない。
おげれつ先生はちゃんと全部描いているとおっしゃっているのに!
浩然がキスで塞いだ千紘の唇から発せられるはずだった言葉は、どう続いたのだろう。
だから、ずっと側にいて、離れないで、一人で死のうとしないで…
その夜、浩然は不思議な夢を見る。
制服を着た浩然が、学校の教室に座っている。(制服姿がただただ可愛い)
高校、あるいは中学だろうか。
「浩然!おはよ」と千紘がやってくる。
元カレの駿一と出会った頃の高校生の千紘は髪が短い(ep.2)のに、この場面の千紘は現在と同じセミロングだ。
二人はまるで普通の学生同士のような会話をする。
教師が入ってきて、授業が始まる。
しかし、教師は黒板に一文字も書くことなく、浩然の机のノートも真っ白なまま……
ここで浩然は驚いて目を覚まし、隣の千紘の姿を見て、「……よかった」と呟くのだった。
この夢は実に不思議だ。
まず、浩然はおそらく戸籍がなく、小学校にも行っていない。
中学、高校どころか、一度も正規の学校教育を受けずに育った。
一方、千紘は、比較的裕福な家に育ち、高校まで通っていた。(そこで駿一と出会った)
この夢は微妙に変形した過去の思い出などではなく、まったくありえない話なのだ。
一瞬、「呪術廻戦」に出てくる「存在しない記憶(:存記)」かと思った。
浩然が一度も通ったことがない「学校」、たぶん浩然は千紘よりいくつか年上だから、留年していない限り千紘と同じクラスになることもない、そして、浩然が「学校の勉強」というものを全く知らないことを象徴するかのように何も書かれない黒板とノート。
この夢にはどんな意味があるのだろう。
浩然が味わえなかった「普通」の生活への憧れ?
千紘とは同じ世界にいられないという浩然の自覚の表れ?
翌朝、「一か所に長く留まるのってよくねぇんだって」と千紘は始発の電車で行けるところまで行こうと提案する。
口では「そうだね」と答える浩然だったが、すでに心を決めているのがわかる。
だから、電車のホームで浩然が「俺は乗らない」と切り出した時、「やっぱり…」と私は思った。
「……もう、逃げるのはやめる」と千紘に別れを告げる浩然。
もちろん千紘は「嫌だ!」と抵抗する。
涙を浮かべる千紘の顔をそっと引き寄せ、
「だってお前、泣くだろ」
と慰める浩然の優しい笑顔が悲しい。
千紘が心配するように、私も浩然が死のうとするのではないかと不安だった。
こうして千紘と約束したからには、死なないでいてくれるに違いない。
でも、こんな形で別れるなんて…。
浩然は千紘の背を押して、強引に電車に押し込む。
二人を隔てる車両の窓を開け、千紘が叫ぶ。
浩然は黒い瞳に涙を溜めて、それでも笑顔で千紘を送り出す。
次第に遠ざかる浩然の姿を見つめながら、呆然と電車内でひとり立ち尽くす千紘…。
まさか、こんなことになるなんて……!!!
驚きと衝撃で、しばらく感情の整理がつかなかった。
二人は地獄の底でも一緒に行くのだと思っていた。
そして、江ノ島は幸せな結末の舞台になるのだと。
この物語は必ずハッピー・エンドになるから、二人は再会するし、幸せになれる。
どんなに固く信じていても、この別れは悲しすぎる。
浩然はもっと我儘になっていいのに。
千紘は絶対に浩然を見捨てないで、一緒に生きてくれる。
でも、浩然は千紘の幸せを願って、離れる決意をした。
それが、愛ゆえにだとわかっているけれど…。(涙)
浩然の真っ黒な瞳が、何よりも悲しみと絶望をはっきり表しているから、つらくて仕方ない。
2巻では、あんなにお目々をキラキラさせていたのに…。
今はただ、千紘と一緒に別れの悲しみに打ちひしがれながら、二人の幸せな春を待つばかりだ。