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「ハッピー・オブ・ジ・エンド」 ep.13 感想

ep.13


 13話は概ね2巻の終わりで予想した通りの展開だった。
 とはいえ、千紘の涙と浩然が苦しむ姿を目の当たりにすると、胸を抉られる。
 しばらくはこの苦しい流れが続くのだろう。
 でも、おげれつ先生確約済みのハッピーエンドが待っていると信じているから、私はどんなつらい展開にも耐えられる。

ここからはネタバレを含みます。コミックス派の方は閲覧にご注意ください。







 マヤに脅されて千紘は車に乗り込む。
 この状況だと小森さんを庇うためにもそうするだろうなと予想していた。
 マヤが小森の名前や学校まで知っていたことには驚いた。この分だと、千紘と浩然のこともだいぶ調べているのだろう。

「俺ひとりで乗る」と決意を固めた千紘に、「自分でドア開けて乗れ。自分で!」と命じたところにマヤの怖さを感じた。

 車の中でマヤは、隼人(浩然)のことを語る。

マヤ「隼人も俺のこと裏切っちゃうし。親友なのにおかしいわな」
千紘「そう思ってんの、お前だけだぞ」
マヤ「え?」
千紘「……テメェに、親友なんていねぇよ」

 千紘はマヤを怒らせてしまう。

 車に乗せられてどこかわからないところに連れて行かれる最中で、身に危険が及んでいるんだから余計なこと言わない方がいいのに、と私は思うが、千紘は浩然のために黙っていられなかったんだろう。

 キレたマヤは車を駐車場に停めさせ、後ろ手に縛った千紘に暴行する。

 千紘がマヤに捕まったら暴力を受けることは予想していたのだが、千紘と一緒に車に乗せられていたジジイ(ep.06でマヤが釣りをしている川か釣り堀に沈められている後藤)の「チ〇ポしゃぶれ」ってマヤが千紘に命じた時にはさすがにショックを受けた。
 そして同時に、おげれつ先生はここまでお描きになるのか、と圧倒された。


 一方、浩然が家に戻らない千紘を心配している。
 加治と連絡を取り合いながら、浩然は千紘を探す。

いつも千紘はバイト終わりまっすぐ家に帰ってくるのに

 不安に駆られた浩然は新宿の街を必死で走り回る。
 脳裏に浮かぶのは、マスクを外したマヤの口元…。
 浩然は千紘の失踪にマヤが関係していることを確信し、動けなくなってしまう。


 千紘に対するマヤの虐待はエスカレートし、手下の間宮と後藤に千紘を抑えさせて千紘の腕を折ろうとする。
 後藤がビビッて千紘を離したために、なんとか千紘は腕を折られずに済む。(しかし、この後病院で千紘は左手に包帯を巻いて三角巾で吊るしているから何らかの怪我を負ったようだ)

 何とか時間を稼ごうとして千紘は、マヤに「写真! なんでカエルなんだ」と尋ねる。

 それに対しマヤは

「俺さ、ずっと大好きなんだ。蛙。
 ガキん頃によくしたじゃん(いや、そんなことしたことないし、私の周囲ではやっている男子も見かけなかったけど)、蛙のケツにロケット花火突っ込んで火つけんの。
 そしたら内臓まき散らして派手に死んだ。
 俺もこんな死に方してぇなって思ったわけ。リスペクトよリスペクト!」

 と答えるけれど、これは本気で言っているのだろうか。
 マヤがカエルを好きなことについては、もう少し共感できる理由があると思っていた。
 驚くほど共感できない。ただ、こんな生き方をしていたら、マヤは望む通りの死に方はできる気がする。

 マヤがあまりにもおかしなことを言うので千紘は呆然として、ストレスからズキンズキンと頭痛が始まる。

 殺されるかもしれない恐怖で後藤が騒ぎだすと、怒ったマヤは後藤をボコボコにする。

 その様子を通りがかった若者が面白がって動画に収めていることに気づいたマヤと間宮は慌てて逃げ出す。
 物見高い通行人のおかげで、千紘は間一髪助かったのだった。


 千紘が目を覚ますとそこは病院で、ベッドサイドには警察が来ていた。
「どなたか連絡取れる方は?」と警官に聞かれ、千紘は浩然に連絡を取った。

 しかし、最初に病室に入ってきたのが加治だったので千紘は驚く。

「あー…、俺ケイトと一緒にお前探してて…ケイトは今外にいんだけど…」

 ケイト(浩然)はあまりにもショックを受けていて、すぐに千紘の病室に入れなかったのだ。
 浩然は病室に入る前、廊下のソファに腰かけ手で顔を覆ったまま、ぶるぶる震えていた。
 慰めようとして肩に触れかけた加治を「触るな」と冷たく拒絶するほど余裕をなくして。
 浩然の瞳は光を失って、真っ黒になっている。


「おいケイト! いい加減入って来い!!」と加治に促されて、ようやく浩然が千紘の前に姿を現す。

 浩然は憔悴しきった顔で俯いている。

 マヤにどんなにひどいことをされても涙を見せなかった千紘だったが、浩然の顔を見て、ついに溢れる涙をこらえきれなくなる。

 千紘の泣きそうな顔を見て、浩然はさらに傷つく。

 千紘の右手をぎゅっと握って「俺……」と何か言いかけるが、

「ごめん…マフラー…無くした……」

と千紘が先に謝るので、浩然は続きを言えなくなってしまう。

 千紘が謝るの? それもマフラー無くしたことで…?
 確かにあのマフラーは浩然からもらった大切なプレゼントだけど、自分の命が危なかったっていうのに…。
 なんて可愛いんだろう、千紘。

「……いい。いいんだ。ちひろ……」

 浩然に優しく抱きしめられ、その腕の中で千紘は涙を流す。
 悔しさと恐怖と安堵と、いろんな想いがこみあげてきたのだろう。


 マヤに殴る蹴るの暴行を受け、危うく殺されかけた千紘はもちろんだが、自分のせいで千紘がひどい目に遭ったことで、浩然も深く傷ついている。

 13話では浩然はほとんどしゃべらないし、モノローグもない。でも、だからこそ、浩然がどれほど苦しんでいるかが痛いほど伝わる。

 浩然は自分が何かされるより、千紘に危害を加えられる方がつらいだろう。

 浩然が考えていることが、何となくわかる気がする。

 千紘を守るために、千紘と別れてマヤに従うことを決意するのではないだろうか。

 浩然が何を言っても千紘はきっと追いかけてきて、浩然を離さないでいてくれるだろうけど。

 まだしばらく、しんどい展開が続くのだろう。

 千紘と浩然が苦しむ姿を見ると、読んでいるこちらもつらいが、素晴らしい作品には必ずと言っていいほど、こういう深い苦しい谷があるように思う。

 昔「残酷な神が支配する」をリアルタイムで読んでいた頃、主人公のジェルミがとんでもなくひどい目に遭う度に、自分の作品の主人公をここまで闇に落とすことができる萩尾望都先生はやっぱり天才だなと感じていたことを思い出した。

 苦悩が深ければ深いほど、その傷が癒やされ、救済される時の喜びは計り知れない。
 苦しみの谷はどこまでも深く、その分救いと喜びの山も果てしなく高い、このストーリーの高低差が感動を生むのだ。
 漫画史に残る傑作とはこういうものなのだと改めて思った。
 14話も楽しみだ。



 ここ1か月体調が悪化して長い文章を書く体力がなくなっていたんですけど、Twitterに書いた感想におげれつ先生が返信を下さった喜び(スマホを持つ手が震えました)で何とか書けました。


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