ヨネダ先生がニトロ攻鉄だった頃
ヨネダコウ先生がニトロ攻鉄名義で書かれた同人誌(リボーン再録集3冊)を手に入れた。
私は同人誌の中にこそ、作家さんの核となるもの、作家さんが本当に好きなものが潜んでいると信じているのだが、期待通り私が求めていたものがそこにあり、かつ、想像以上に完成度が高くあまりに素晴らしくて、完全に打ちのめされた。
ところどころに、「囀る」を彷彿させる部分があって、胸がざわざわした。
まだ「囀る」について書いている途中ではあるけれど、このことについて書かなければ前には進めないと思った。
恥ずかしながら、私は原作「家庭教師ヒットマンREBORN!」を読んだことがなく、山本(攻)と雲雀(受)がどんな間柄なのか知らなかったが、全く問題なかった。
1ページ開けば、そこは完全にヨネダワールドで、私はすぐにヨネダ先生の描く二人の関係の虜になった。
「いつかボクが啼く空」とか「僕の手が優しいと泣くなら」とか「ひねもすキミに奪われる」とか、題名からして素敵だし。
話の展開も、1コマ1コマの構図も、随所で、ああ、ヨネダ先生らしいなぁと思った。
山本と雲雀は、「戸川と嶋ちゃんの原型」とネットに書いてあったのを読んだことがあるけれど、見た目や性格や関係性は確かに「どうしても触れたくない」の戸川と嶋ちゃんに少し似ている。
でも、雲雀は嶋ちゃんよりも強くて、性格もきつくて乱暴で、山本より年上なところが、より一層私の好みだ。
山本に惹かれているけど、それを認めたくなくて、冷たくしたり殴ったりして遠ざけて、でも、山本が会いに来てくれないと寂しくなってしまう雲雀が、可愛くて仕方がない。
山本は殴られても無視されても雲雀をかまうのをやめない。そんな山本に雲雀の方もいつまでも突っ張ってはいられなくなる…。
二人のひりひりするような距離感がたまらない。
再録集の作品はどれも良く、あまりの良さに読んでいて苦しくなり、何度も本を置かないと読み続けられなかった。
一話一話に感動し、「もう、胸が痛い」と繰り返し呟いた。
個人的には「どうしても触れたくない」や「それでも、やさしい恋をする」や「Nights」などのヨネダ先生の他の作品よりも、山ヒバが一番、「囀る」に通じるものがあるのではないかと感じた。
中でも、私が「囀る」を思い出さずにはいられなかった作品については、この先「囀る」の感想を書く時にどうしても触れたくなってしまうと思うので、ここに書いておく。
再録集1 「complete?」から「BALANCE」
ヨネダ先生はあとがきで「かなり出来が痛々しく、あまり開きたくない本」とおっしゃっているけれど、私はとても好きな作品だ。
舞台は10年後。山本と雲雀は肉体的に触れあっているけれど、まだ最後(挿入)までしていない。一方でリボーンと雲雀には体の関係(最後まで)がある。
山本が来るとわかっている日に、雲雀は怪我をして家に押しかけて来たリボーンに抱かれる。約束の時間に遅れた山本は、雲雀の家のドアを開け、二人の声を聞いて事態を察する。
山本は帰らないで、玄関に座り込んで煙草を吸いながら待っている。二人がセックスし終わって、リボーンが出てくるまで。
リボーンと雲雀は山本が来たことに気づいている。リボーンには意地を張る雲雀の本心がわかってしまう。
リボーン「わざとかよ。お前がなんで俺に抱かれるのか知ってるぞ。そんなにあいつが怖いか」
このセリフ!!
好きな人が「怖い」という気持ち。
「囀る」5巻第23話の矢代のセリフ
と、百目鬼の「……俺のことが、そんなに怖いですか?」を思い出さずにはいられなかった。
雲雀も自分の心の中に侵入してくる山本が怖いんだろう。
山本に惹かれないように、一生懸命撥ねつけて必死で距離をおこうとする雲雀を見ていると、6巻の矢代の姿が思い浮かんだ。
自分の好きな人が、ドア1枚隔てた向こう側で他の男に抱かれているのを知っていて、黙って待っている(しかない)。
この展開は「囀る」3巻第15話の百目鬼と同じだし、その後リボーンとした直後の雲雀をシャワーも浴びさせないまま山本が抱くところと、3巻第16話で矢代と百目鬼がベッドで絡み合うシーンが重なった。
もちろん、山本と雲雀の関係と、百目鬼と矢代の関係は全く違うものだとわかってはいるのだけれど、どうしても根底に流れているものに共通点を見出したくなってしまう。
再録集3 「Night&Day」から「それでも世界は廻っている」
中学時代の山本と雲雀。ディーノと雲雀の関係(実際は何もないけど)に山本が嫉妬している。
雲雀を屋上のフェンスに押し付けて「すんっげー妬いてるよ。悪ィか」と言うのが、たまらなかった。
山本をトンファーで殴り倒した後、雲雀の「なんでボクは君を殺せないんだ」というセリフが、上空を飛ぶヘリコプターの騒音によってかき消され、倒れた山本を見下ろす雲雀の顔がアップになるところ、まさしく6巻第34話で矢代が発する「……お、まえは、俺を」の続きが飛行機の轟音に消される場面と同じ構図だった。
同じく再録集3 「Night&Day」から「Initiative」
10年後の山ヒバ。
まず、雲雀がマフィアのファミリーの中で男を惑わす「淫乱」と呼ばれている。
「淫乱」といえば矢代の代名詞。(ホントは違うけど)まず、この二文字に私は反応した。
そして雲雀が、ディナーのためにスリーピーススーツに着替え、前髪を上げた姿を見て、思わず「矢代くん!」と叫んでしまった。
淫乱と言うのは噂だけで、この時山本としたのが初めてだったというオチもよかった。矢代も似たようなものだし。
山本と雲雀はキスしたり(ディープキスと言うよりべろちゅーと言う表現が似合う官能的なキスシーンが何度もある)、触り合ったり、舐め合ったりするけれど、なかなか「好き」とは言わない。
唯一、はっきりした告白シーンは、再録集2「no stoic」の「恋とは呼べない」の中で、
という場面くらい。
「愛ねー…。ダメだろそういうの、アイツ逃げちまう…」と山本がひとり考えるところが切ない。(再録集3 「Night&Day」から「coward!」)
「囀る」でも、矢代からはもちろん、百目鬼だって「あなたという人にどうしようもなく惹かれてしまいました」(5巻23話)とは言うものの、「好き」とか「愛している」とか言わないし、もしかしたらこの先も言わないままなのではないかと考えている。
矢代の告白があったとしても、雲雀と似た感じで、そう簡単にはいかないだろう。
でも、それでいい。
ありふれた愛の言葉などなくても、二人の気持ちが痛いほど伝わる。
それがヨネダ先生の漫画だ。
なんだかんだ言って、好き合っていて結ばれている山ヒバを読んで、胸がいっぱいになった。
「囀る」ではまだ矢代と百目鬼がここまでの関係になっていないから、ずっと飢えていた気持ちが満たされたのかもしれない。
ヨネダ先生が山ヒバを書かれていたのは2004年から2008年頃で、この頃すでにこれほど完成された、他に類を見ないような作品を世に送り出されていたことに驚愕した。(そして、それを知らずに生きてきた自分を殴りたい。せっかく同じ世界に存在していたのに!)
失礼ながら、もっと絵や構成に未完成な部分があるのかなと思っていたが、全くそんなことはなかった。
同人誌を読んで、私はやっぱりヨネダ先生の描く「関係性」と、言葉で説明し過ぎない漫画表現が大好きなんだな、と思い知った。
再録集2「no stoic」のtalkでヨネダ先生が
と書かれていたのを読んで、目玉が飛び出た。
「バッドエンドは苦手」!
信じています。「囀る」はハッピーエンドだと!!
さいごに
ヨネダ先生の同人誌はもう中古でしか入手できないので、こうして作品の感想を書かせていただいても直接ヨネダ先生を応援させていただくことにはならないのかもしれませんが、私のように「ヨネダ先生って同人誌も書いていらしたみたいだけど、どんな感じなんだろう。面白いのかな、読んでみたいな」と迷っている方がもしいらっしゃるなら、ぜひ「リボーン再録集」をお勧めしたいです。
「GIANT KILLING」や「クローズZERO」の同人誌も読みましたが、個人的には山ヒバが一番だと思いました。
「NARUTO」も切なくて良かったです。ただ、まだ絵が未完成な印象なのと(そこが初期作品の魅力でもありますが)入手し難いことを考慮すると、総合的に山ヒバがイチオシです。
どうしても書かずにはいられなかったことを書いたので、次回「囀る」の感想に戻ります。
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