「ハッピー・オブ・ジ・エンド 2」 感想 その5 二人のクリスマス
ep.11
カラオケでバイトを始めた千紘から、バイト仲間の女子高生に惚れられていることを聞いて浩然は驚く。
「きもっ!!」と笑いながらも、「相手したら殺す……」というのは浩然の本音だろう。
千紘は「俺にはお前というお姫様がいるから~」と浩然に抱きつき、ほっぺにキスをする。
美人でお姫様の浩然の方が攻というところがたまらない。
千紘は植木鉢を買って帰ってきた。これから何かを植えようとしている。
今は冬。でも、何かを植えれば春には花が咲く。
引っ越したばかりの二人の部屋は前より狭く、ベッドもなくなって殺風景だ。
マヤが東京にいない間にすぐ引っ越すよう、マツキから浩然に連絡があったのだった。
マヤは北海道で「禊」のため船に乗っていて、年始まで東京に帰って来ないという。
「禊」というからには何か過酷な仕事だろうか。冬の北海道で船、というと私にはカニ漁くらいしか思いつかない。ベーリング海のカニ漁のイメージ…?
浩然は、女子高生にラインを聞かれた千紘に「個人ライン返すなよ」と釘を刺す。
ep.08で喧嘩した時、千紘のこと「勘違いすんなよ、居候」「俺がいなきゃ服も買えないくせに」って言ってたのに。まあ、売り言葉に買い言葉という部分もあるのだろうけど。
風俗のスカウトという浩然の仕事は不安定そうだし、健康保険とか入ってなさそうだし、民間の保険にも入れなさそうだし、浩然が働けなくなった時のリスクヘッジとして千紘も働いた方がいい、とマツキ側の私は思う。
千紘はバイトをしてカメラを買う資金を貯めたい。
浩然は不満そうで、何か言いたいことがあるようだ。
女子高生と千紘の関係に嫉妬しているというわけではなく、浩然は、千紘がバイトをして外の世界と繋がりを持つことで自分から離れてしまうことが怖いのではないかと私は考えている。
浩然は本音を言わないまま、仕事に行ってしまう。
千紘は「暇友」の加治と久しぶりに会い、マヤのことを尋ねる。
千紘が加治の前では浩然のことをちゃんと「ケイト」と呼んだことに驚いた。
マヤが「ケイトのことを親友って言っていた」ことを加治から聞かされる。
加治は「なんでそう思えんのか謎」と言うけれど、マヤが浩然を≪普通じゃない≫人間として同一視していたことを考えると、マヤは本気で浩然を「親友」だと思っているのだろう。
千紘は加治に、マヤがケイトとまた一緒に仕事をしたいと言っていたことを話す。
加治は「できるわけねーじゃん」と驚く。普通の感覚だとそう思うのだが…。
「ところでさ、本題なんだけど」と話題を変えた千紘が本当に加治に聞きたかったのは、≪クリスマスに浩然が欲しい物≫だった。
呆れた加治に「知らねぇわ、バカ」と一蹴されてしまう。
浩然にあげるプレゼントに悩んでいる千紘の元に、バイト先の店長からクリスマスイブにシフトに入ってほしいと連絡が入る。
イブにバイトが入ったことを謝る千紘に、浩然は一瞬残念そうな顔をしたものの、結局「あっそう」といつものクールな表情に戻って、そんなことはどうでもいいという態度しか見せない。
「イブだからなんなの?」と浩然は強がっているが、千紘と一緒に過ごせなくてガッカリしていることがわかる。
浩然は「……別に、俺…」と言いかけた言葉を「……やっぱり、なんでもない」と飲み込んでしまうのだった。
「別に俺、イブとか特別に思ってないから」、「お前と過ごさなくても平気だから」と言いかけたのだろうが、本当は一緒に過ごしたがっている自分自身に気づいたのだと思う。
イブの日、浩然は担当の風俗嬢と街を歩いている。
「ケイトはクリスマスなにすんの?」と聞かれて、「なんもしねぇよ」と答える不機嫌そうな表情から、千紘と何かしたかったことが伝わってくる。
千紘から「バイト先に迎えに来て」とラインが来ると、浩然はどことなく嬉しそうだ。
浩然は通り道のファミマでチキンを買い、千紘のバイト先のカラオケ前で二人は落ち合う。
千紘もローソンでチキンを買っていたのだった。店のケーキも買い取ったのに、さらにセブンのチキンも買おうとしている。(二人とも若いからいっぱい食べられるんだね)
「…あとさー、これ……」
千紘は恥ずかしそうに浩然にマフラーを掛ける。
前にGUCCIのマフラーを貰ったから、千紘もお返しにマフラーを選んだのだった。
「値段全然ちげーけど」と千紘は申し訳なさそうにしているが、浩然にとってそんなことはどうでもいい。
浩然はあまりに嬉しくて動揺したからか、千紘にキスする時に歯をぶつけてしまう。(いつもはきっと上手にキスしているだろうに)
「…プレゼント、ありがとう」
この時の浩然の笑顔……。可愛い過ぎる。
千紘と一緒に私も心臓を撃ち抜かれた。
そして、浩然は
こちらが驚くほど素直に、本当の気持ちを口にするのだった。
このシーンを読んで、私はとてもびっくりした。
浩然はこういうことが言えないタイプだと思っていた。
私が好きになる漫画の登場人物(と私)は、大抵このセリフが言えない。
本当は一緒にいたかったな、と思っていても、どうしても意地を張ってしまう。浩然もそうだと思っていた。
浩然のこんな素直な姿を見ることになろうとは、1巻からは想像もできなかった。
千紘が躊躇いながら手を繋ごうとしたら、「気持ち悪いからやめてくれ」と言って払いのけていた浩然が…。(ep.03)
千紘と恋人関係になってからも、「好きでしょ、俺の顔」(1巻巻末描き下ろし)とか「俺とデートしたかっただけなんだろ」(ep.08)とか、ずっと上から目線で余裕な態度を見せていた浩然が、こんなに素直に、千紘と一緒に過ごせなかったことを寂しがるなんて。
少し目を伏せた浩然の横顔は例えようもないほど美しく、可愛らしい。
千紘は一度離しかけた浩然の手を、ぎゅっと握り直す。
二人は手を繋いで家に帰るのだった。
千紘と浩然の愛に溢れたやり取りに、こちらも幸福感に包まれる。
好きな千紘からプレゼントを貰えて嬉しいというのもあるだろうが、浩然の驚きと喜び方を見ると、もしかしたら、これが浩然にとっての初めてのクリスマスプレゼントだったのではないかと思った。
浩然は、1巻で階段に落ちていたインスタントカメラ(実はマヤが仕掛けて置いた物)やお菓子の付録のハートのネックレスを千紘に「プレゼント」と言って渡したり、2巻ではGUCCIのマフラーを千紘に買ってくれたりして、人には贈り物をしてくれるけれど、自分は今までクリスマスプレゼントとか貰ったことがなかったのではないかと私は考えている。
(誕生日に至っては、そもそも浩然自身が知らないから、プレゼントどころではなさそうだ)
おげれつ先生が、瞳の光で浩然の感情を表現されていることには1巻から気付いていたが、2巻では浩然が嬉しくて目を輝かせる場面が多いので、よりわかりやすくなっている。
つらいことや悲しいことがあると真っ黒になって、嬉しいとキラキラ輝く瞳を見るだけで浩然の気持ちがはっきりわかって、ますます可愛く思える。
千紘と浩然は部屋に帰り、酒を飲みながらチキンとケーキを交互に食べ(若い…)、セックスをする。
そのまま眠ってしまい、気づいたら夜になっていて「クリスマス終わるぞ!」と千紘が慌てて浩然を起こす。
でも、これでいいと思う。
何も特別なことをしなくても、ただクリスマスを好きな人と一緒に過ごすことが二人の幸せなのだから。