心の中に住み着いた「将棋君」が暴れだす その32

 元奨励会員の筒美が、将棋指しになれなかった自分の人生を振り返り思い出すことを書いています。
※ 最初から読みたい方は、心の中に住み着いた「将棋君」が暴れだすから読むことをおすすめします。 
※ ひとつ前の話→心の中に住み着いた「将棋君」が暴れだす その31

 奨励会と宝塚音楽学校 
 奨励会という制度は、他の現代日本の教育機関だと宝塚音楽学校の制度と対照的な面が多く、両者を比較してみるとわかりやすくなることがいくつかある。
 前の項目のバーのママさん発言にもあったが、奨励会は入るのはそれほど難しくないが、4段の1人前のプロ棋士になるのが非常に難しい。時期にもよるがだいたい奨励会員の10人~15人に1人くらいしか4段以上の正棋士になれない。原則として3段リーグで優勝か準優勝の成績をとらないと卒業できず、卒業するまでにかかる年数は人によってまちまちであり、卒業できない人の方が圧倒的に多い。
 入会試験の倍率は4倍くらいで、19歳まで受けられる。下限はないが、今までで一番低年齢で受けた人は10歳だと思う。試験は1年に1度あるので、何回か受けて合格するのはそんなに難しくない。中学生でアマチュア4段くらいの棋力があればだいたい入れる。
 対照的に宝塚音楽学校は入るのが難しく、東の東大、西の宝塚という言葉があるくらいだ。倍率は20~25倍程度で合格者40人程度に対し受験者は約1000人。入学年齢は15歳から18歳なので、入学者の学歴は中卒・高校中退・高卒のいずれかである。卒業に関してはほぼ全員が2年で卒業できる。卒業できない生徒は非常に少なく、概ね自分から辞めるか、あるいは体調不良とか素行不良などの事情があった生徒である。ちなみに中退生で一番有名な人は、たぶん歌手の梓みちよだろう。渡辺プロダクションのオーディションに受かり自分から辞めたらしい。
 それと、もう一つの大きな違いは普段の教育体制である。
 奨励会は月2回の例会で将棋を1日2局か3局指す以外には、ほぼなんにもない。プロ棋士の対局の記録をとるアルバイトをなるべく引き受けるように言われるが、引き受けないからと言って退会させられたりすることはない。だから、「中学生とか高校生でもあり奨励会員でもある」という場合が多い。
 宝塚音楽学校は、全寮制で月曜日から土曜日までみっちりレッスンがあり、高校や大学に行きながら通うのは不可能である。
 こうした違いがあるので、「奨励会の場合は退会者がどうなるか?」ということが話題になることがあるが、宝塚音楽学校に関してそういうことが話題になることはない。宝塚の場合は「劇団を退団した後どうするか」ということが話題になることはある。
 他の劇団の舞台女優になる人、芸能界に入る人、結婚して主婦になる人、宝塚音楽学校とかそれに入るための予備校の講師になる人などがいる。
 奨励会も宝塚のように入るのをもっと難しくした方が、プロ棋士になれない奨励会員が減っていいのではないか、という考え方もできるが、あまりそれが話題になることは少ないようだ。
 なお、奨励会と宝塚音楽学校にはもちろん共通点もある。それは、授業料等で儲けようとしているわけではなく、あくまでも目的が人材育成である点だ。奨励会では学校の授業料にあたるものは年会費と呼ばれていて約12万円、月に1万円程度である。宝塚音楽学校は2年間で120万円、月にならせば5万円とあまり高くない。
 両方とも、運営経費がなんとかカバーできるかどうかという程度の額である。

※ 次の話→心の中に住み着いた「将棋君」が暴れだす その33

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