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映画『ぼくとパパ、約束の週末』と、東京創元社12月の新刊・雨井湖音『僕たちの青春はちょっとだけ特別』

 この週末、気になっていた映画『ぼくとパパ、約束の週末』を観に行ってきました。サッカーファンの間で噂になっていたドイツ映画です。

 ドイツの1部~3部のクラブ数は56。10歳の少年が、そのすべてを自分の目で現地観戦してから“推し”のクラブを決める旅に出るというストーリー。主人公ジェイソンは、デュッセルドルフ(昨シーズンまで田中碧が所属)ファンの父親と、ドルトムント(かつて香川真司も所属)ファンの母親の間に生まれた10歳の少年。幼い頃に自閉症と診断されるも地域の普通学級に通う小学生です。他人に体を触れられたり、決まったルーティン通りに進まないとパニックに陥る、冗談を理解しないなど家族以外にはなかなか理解されずに暮らしてきました。時には周囲の無理解からくる嫌がらせに胸が痛みます。

 ある日、「ジェイソンはどのサッカークラブを応援しているの?」というクラスメイトたちの質問をきっかけに、応援する“推し”サッカークラブを見つけることを心に決めます。ドイツ(というかほとんどのヨーロッパ諸国)では生まれ育った街(ないしは周辺にある)クラブを代々応援することが多く、母方の祖父母も熱心なドルトムントファン。ちなみに、ドルトムントのチームカラーは黄色と黒ですから、阪神タイガースの熱狂的なファンの姿を思い浮かべてもらえれば分かりやすいかも、そして奥さんの家族のそばで暮らすデュッセルドルフファンの父親の肩身の狭さが偲ばれます。

 ジェイソンの父親・ミルコは上司にお願いしてその旅に出やすいように仕事を調整してもらい、各地に列車(ジェイソンのこだわりで自動車移動はNG)で向かう約束をします。その列車の中でも、最寄り駅に到着してからもトラブルつづきで、スタジアムでもジェイソンの苦手なことばかり。果たして物語はどう進んでいくのかーー。

 サッカーファンとしての見所は、スタジアムの実際の様子が映像として流れるところ。特に有名なドルトムントの南スタンド(立ち見で2万人が常に入る!)で、サポーターが「You'll Never Walk Alone」を歌うシーンはすごいのひと言です。

 障害がその人個人の個性とも捉えられる時代となってきても、まだまだ無理解と無関心は強いものがあります。実際に普通学級に通うのではなく、ケアの厚い特別学級に進む手段もあったはずです。ですが、ジェイソンにはある夢、目標があるので普通学級に通っているということが、後に分かっていきます。

写真:mew/装幀:岡本歌織(next door design)

 一方で、12月に刊行する雨井あまい湖音こおとさんの『僕たちの青春はちょっとだけ特別』は、ジェイソン少年よりも少しだけ年長の15歳の主人公・青崎架月の目を通して、彼らの日常と謎を描いた作品。ルーティン通りに挨拶をしないといけないなど、まさにジェイソン少年のような先輩も登場します。『僕たちの青春はちょっとだけ特別』の舞台でもある仙台市には、共に熱狂的なファンがいることで知られる、ベガルタ仙台(サッカー)や楽天イーグルス(野球)があります。ひょっとしたら、彼らもスタンドで声援を送っているのかもしれません。ぜひ映画とセットでお読みいただけたらと思います。


『僕たちの青春はちょっとだけ特別』雨井湖音
【東京創元社×カクヨム 学園ミステリ大賞受賞作!】
中学時代、流されるままぼんやりと過ごしてきた青崎架月。15歳の春、この明星特別支援学校に進学したことで、ちょっとずつ変化が。先輩が巻き込まれたゴミ散乱事件、教室のロッカー移動事件、生徒失踪事件を周囲の手を借りながら解決していく。特別支援学校を舞台に、初めての友人たちとの対等な掛け合いに戸惑う架月の青春と、彼が出合った謎を描く連作集。


『この恋だけは推理わからない』谷夏読
【東京創元社×カクヨム 学園ミステリ大賞受賞作!】
「彼女いない歴=年齢」だけど〈恋愛の神様〉扱いされている岩永朝司、17歳。放課後、2年2組の教室にやってきた小井塚咲那は、開口一番「私に小説のネタになりそうなコイバナを教えてください!」と真剣な眼差しで言うのだ。恋愛小説家なのに恋愛知らずの咲那と共に、恋愛にまつわる謎を2人で解決していくと……。爽やかな余韻も美しい、王道の学園ミステリ。