
【創立70周年記念企画】エッセイ「わたしと東京創元社」その13:桜庭一樹、麻耶雄嵩(最終回)
東京創元社では2024年の創立70周年を記念し、文芸誌『紙魚の手帖』にて豪華執筆陣による特別エッセイ「わたしと東京創元社」を1年間にわたり掲載しました。
最終回となる第13回は、『紙魚の手帖』vol.20(2024年12月号)に掲載されたエッセイ(その2)をご紹介いたします。
桜庭一樹 Kazuki Sakuraba
子供の頃からずっと、本を読んできました。
最初は絵本でした。次に挿絵付きの児童書を読み始めました。小学校高学年ぐらいから、大人向けの文庫に手を出し始めました。このころ読んだ本から覚えた単語の中には、ルビがなかったから適当に読んだせいで、いまだに漢字の読み方をまちがえているものがあります。「発足」を「はっそく」と言ってしまったり。発音がわからなくて間違えて覚えたものもあります。「こっけい」の発音は、最後の「い」を上げてしまうオリジナルの発音のままです。
中学生になると、学校の図書室で、文庫の海外ミステリーやSFをどんどん読むようになりました。
東京創元社の本というと、このころ出会った創元推理文庫や創元SF文庫の印象が強いです。大人の読書世界への入口でした。背伸びしてついていくと、ときどき振り返って、手を差し伸べたりしてくれる……擬人化すると、そういう大人のイメージです。
1999年「夜空に、満天の星」(『AD2015隔離都市 ロンリネス・ガーディアン』と改題して刊行)で第1回ファミ通えんため大賞に佳作入選。2003年開始の〈GOSICK〉シリーズで多くの読者を獲得し、さらに04年発表の『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』が高く評価される。07年に『赤朽葉家の伝説』で第60回日本推理作家協会賞を、翌08年に『私の男』で第138回直木賞を受賞。おもな著書に『少女には向かない職業』『製鉄天使』『名探偵の有害性』『荒野』『ファミリーポートレイト』『ばらばら死体の夜』『無花果とムーン』『小説 火の鳥 大地編』『少女を埋める』『紅だ!』『彼女が言わなかったすべてのこと』など、またエッセイ集に〈桜庭一樹読書日記〉シリーズや『東京ディストピア日記』などがある。
麻耶雄嵩 Yutaka Maya
多くの人にさんざん語られてきただろう「日本探偵小説全集」の想い出について。
初めて読んだのは『小栗虫太郎集』。共通一次試験で津市まで出かけたついでに大型書店で買いました。田舎の高校生だったので、地元の小さな本屋では売ってなかったのです。試験が終わった解放感もあって、まず『黒死館殺人事件』を一気読み。三大奇書として名のみ聞いていたのですが、今まで知らなかった漆黒の世界に迷い込んだ気分でした。挿絵が入っていたのも良かったです。
『小栗虫太郎集』のいいところは、背表紙が人形の右半分なことでしょうか。左半分は『浜尾四郎集』で、最初この二冊をまとめて買ったのですが、続いて『殺人鬼』を読んだとき「土曜ワイド劇場で観たやつだ!(片岡孝夫が探偵役の)」と驚きました。懐かしい友人に偶然再会したような。
ジャケ買いした人形の左右はどっちも大当たりだったわけです。ただ、最初にセンターを買ってしまったために、他の巻の購買意欲が少し下がってしまいましたが(笑)。
1969年三重県生まれ。京都大学卒。91年『翼ある闇』でデビュー。2011年『隻眼の少女』が第64回日本推理作家協会賞ならびに第11回本格ミステリ大賞を、15年『さよなら神様』が第15回本格ミステリ大賞を受賞。主な著書に『夏と冬の奏鳴曲』『メルカトルと美袋のための殺人』『鴉』『木製の王子』『螢』『神様ゲーム』『貴族探偵』『メルカトルかく語りき』『友達以上探偵未満』がある。
本記事は『紙魚の手帖』vol.20(2024年12月号)に掲載された記事「わたしと東京創元社」の一部を転載したものです。