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「私が鮎川哲也賞を受賞するまで(第1回)」山口未桜

『禁忌の子』で第34回鮎川哲也賞を受賞した山口未桜さんに、デビューするまでの道のりについてお書きいただいたエッセイを、10月10日の発売日に向けて3週に分けて公開いたします。
第1回は幼少期から高校生になりミステリにのめり込むまでのお話です。
どうぞお楽しみください。

『禁忌の子』山口未桜

救急医・武田の元に搬送されてきた、一体の溺死体。その身元不明の遺体「キュウキュウ十二」は、なんと武田と瓜二つであった。彼はなぜ死んだのか、そして自身との関係は何なのか、武田は旧友で医師の城崎と共に調査を始める。しかし鍵を握る人物に会おうとした矢先、相手が密室内で死体となって発見されてしまう。自らのルーツを辿った先にある、思いもよらぬ真相とは――。過去と現在が交錯する、医療×本格ミステリ! 第三十四回鮎川哲也賞受賞作。

禁忌の子-山口未桜|東京創元社

また、本文の冒頭を下記よりお読みいただけます。

現役医師が描く医療×本格ミステリ、気になった方はぜひ店頭でご予約下さい。


「出版に向けて、『小説家としてデビューするまで』をエッセイとしてまとめてください。全三回の連載です」
 と、ある日担当編集K氏に言われて、わたしはすっかり困ってしまった。
 わたしなんかの自分語りを読みたい人は果たして存在するのか。面白い読み物にできるのか……?
 でもまぁ、どこかに需要があると信じて、紆余曲折の今までを振り返りたいと思う。

『落ち着きがない』『好きなことに対する集中力は異常』『天然』『話しかけても聞いていないことがよくある』『本の虫』『体を動かすのも好き』
 幼いころから、ずっとそう言われてきた。というか、三つ子の魂百まで、今も大体こんな感じだと思う。隠すのが流石に若干上手くなっただけで。
 教室を歩き回ったりはしなかったけれど、頭の中は常に想像の中を飛び回っていた。
 消しゴムがある。鉛筆がある。それだけで物語が始まる。常に頭の中では超大作を上映していて、物語と現実、こっそり二つを行き来しながら生活する日々。

 物心ついた時から本が大好きだったわたしは、小学校一年生の時に阪神大震災に遭った。家は『部分損壊』で、子供部屋はぐちゃぐちゃになり、大量に本を詰めた本棚が吹っ飛んで、わたしの寝ていた枕を押しつぶしていた。本当にたまたま、一月十七日の午前三時ごろに、寝ぼけたわたしがいつも一人で寝ていた子供部屋から両親の寝室へ移動したおかげで助かったのだ。地震が起きたのは午前五時四十六分だから、運命としか言いようがない。
 避難から帰り、本で埋め尽くされた自分の部屋を見て、小一のわたしが思ったのは――「これで本棚の本が全部読める!」要は、棚の上の方にある本に手が届かないことを常々もどかしく思っていたのである。
 全部床に落ちているなら、全部読める。大人が色々地震の片づけを進めるなかで、学校が休みなのをいいことに、わたしは自室に籠ってひたすら本を読みふけっていた。朝から読み始めて気づけば夕方だったことも多くて、思えば貴重な時間だった。
 今でも亡くなった同級生や転校していった友達のこと、落ちた阪神高速、波打つアスファルト、遠く燃える街の光景や避難所になった小学校のことをはっきりと覚えているので、もしかしたら小学生のわたしなりに、本を読みながら何かを整理していたのかもしれない。

 教育熱心な両親のおかげで、幸い勉強は苦手ではなかったので、某中高一貫校にわたしは進学した。中学生になって漫画を解禁され、今度は小説と並行して漫画も狂ったように読み始めた。そのうち『名探偵コナン』にハマり、小説は『銀河英雄伝説』にハマって購入した『活字倶楽部』という雑誌で有栖川有栖先生を知り、『双頭の悪魔』に感動し、『十角館の殺人』を読んで新本格を知り、ミステリ沼にどっぷり浸かり始めたところで……一つの転機が訪れる。(第2回に続く)


■山口未桜(やまぐち・みお)
1987年兵庫県生まれ。神戸大学卒業。現在は医師として働く傍ら、小説を執筆している。2024年『禁忌の子』で第三十四回鮎川哲也賞を受賞しデビュー。

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