【創立70周年記念企画】エッセイ「わたしと東京創元社」その6:近藤史恵、野口百合子
東京創元社では創立70周年を記念し、文芸誌『紙魚の手帖』にて豪華執筆陣による特別エッセイ「わたしと東京創元社」を掲載しています。
第6回は、『紙魚の手帖』vol.17(2024年6月号)に掲載されたエッセイ(その2)をご紹介いたします。
近藤史恵 Fumie Kondo
東京創元社の本と出会ったのは、中学生の時だったと思う。ちょうど家から近い場所に、新しい図書館ができて、わたしはそこに通い詰めていた。
文庫本ばかり並んでいる窓際の棚から、わたしはクリスティを選んで借りた。読みやすく、なによりとてもおもしろかった。それから、エラリー・クイーンや、ディクスン・カーも。カーは当時のわたしにとっては、かなり手強く思えたが、なぜかそれでも逆らいがたい魅力があり、二回、三回と借りて読み返したのを覚えている。
江戸川乱歩の大人向けの小説や、忘れられない『日本探偵小説全集』。東京創元社の本を通して、多くの推理小説や探偵小説に出会えた。
まさか、そこから十年後くらいに、自分が小説家として東京創元社からデビューし、そこから三十年以上、本を出し続けることになるとは、想像もしていなかった。
野口百合子 Yuriko Noguchi
中学時代、放課後に書店へ寄ったときのこと。翻訳ミステリーの棚の前に立っていたら、見知らぬ男性に「『アクロイド殺害事件』と『Yの悲劇』から読むといいよ」と勧められた。なんだか怖くて、言われるままにその二冊を買った。文庫だったので、時期からして創元推理文庫だったにちがいない。それが東京創元社との出会い、そして本格的にミステリーを読みはじめるきっかけだった。
その後、早川書房に入社して編集者、退社して翻訳者になったが、独立して心細かったころ、東京創元社編集部の皆様に温かく接していただいたことは忘れられない。
そして、わけてもありがたかったのは、個人で企画したミニフェア「いま翻訳者たちが薦める一冊 憎しみの時代を超える言葉の力」の窓口をお引き受けくださったこと。また、C・J・ボックスの〈猟区管理官ジョー・ピケット〉シリーズの邦訳刊行を講談社から引き継いでくださったこと。おかげで、大好きなシリーズを途切らせず読者にお届けできている。足を向けて寝られない、とはこのことだ。
本記事は『紙魚の手帖』vol.17(2024年6月号)に掲載された記事「わたしと東京創元社」の一部を転載したものです。