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東京創元社×カクヨム 学園ミステリ大賞、大賞受賞作『僕たちの青春はちょっとだけ特別』雨井湖音さんインタビュー

弊社とカクヨムさんでコラボした新人賞企画「東京創元社×カクヨム 学園ミステリ大賞」で大賞を受賞し、『僕たちの青春はちょっとだけ特別』を2024年12月に刊行してデビューしたばかりの、雨井あまい湖音こおとさんにインタビューしました。

写真:mew/装幀:岡本歌織(next door design)

■まずは自己紹介をお願いします。

 初めまして、雨井あまい湖音こおとと申します。
 読んでくださる全ての方に「初めまして」と挨拶ができるインタビューって、もしかしてこれが唯一では?と思って「おお……!」となっています。よろしくお願いいたします。

■これまで通ってきた「ミステリ道」について伺います。子どもの頃にはまった作品、憧れの名探偵、バイブルなどを教えてください。

 大前提として、私が歩んだミステリ道はツイッターで出会ったフォロワーさんたちに導いてもらったものでして、それをまるで我が道のように語るのはなんか、なんか……! という気持ちがあります。今このインタビューが掲載されている媒体を目にしている読者の方々は、私はかつてミステリとはなんぞやと教わっていた側なんじゃないだろうか……と思います。その節はありがとうございました。
 私は美味おいしいと思ったら同じ献立を何日でも食べ続けてしまう人間なので、子ども時代はひたすら赤川次郎あかがわじろう先生と星新一ほししんいち先生を読みふけっていました。なのでミステリというジャンルに目覚めたのは遅く、高校生の頃に図書館に入荷された青崎有吾あおさきゆうご先生の『体育館の殺人』から鮎川あゆかわ賞というものを知り、そこからミステリとはなんぞやというところからミステリに傾倒していきました。
 憧れの名探偵はたくさんいるのですが、新しいソシャゲを始めるときに必ず主人公の名前に登録してしまう名探偵はメルカトルあゆです。メルカトル鮎が活躍(?)する短編集を読んだことで、「私はミステリが好きな人です!」という自我を持つようになりました。

■学園ミステリ大賞に応募したきっかけを教えてください。

 学園ミステリ大賞の応募が開始された頃、私にはなんとしてでもかなえたいことが二つありました。一つ目の「なんとしてでも」は言わずもがな作家になることだったのですが、もう一つの「なんとしてでも」は特別支援学校に通う子が主人公の物語が欲しいというものでした。
 そしてその物語は、できれば若い読者さんがワクワクしながら読むものであってほしい。もっと具体的にいうなら、実際に私が中学生だった頃、高校が舞台になっているラノベを読んで「私も高校になったら、こんな生活を……!」と胸を躍らせたように、主人公たちがかっこよく活躍する最高のエンタメ小説であったら嬉しい! と思っていました。
 そんな折、東京創元社×カクヨムの学園ミステリ大賞という企画があることを知りました。一介のミステリ大好き人間として、東京創元社で学園ミステリといえば思い浮かぶ探偵はたくさんいます。特別支援学校にもそんな探偵役がいたら嬉しいな〜!と思って、本作を学園ミステリ大賞に投稿させていただくことにしました。

■ご自身の学生時代のエピソードでとっておきを教えてください。

 高校時代のことです。休み時間に『隻眼の少女』を読んでいたら、ふと「麻耶雄嵩まやゆたかさん、好きなの……?」と声をかけられました。
 そう声をかけてくれたのは、次の授業を行うことになっていた地学の先生でした。愛想のない子供すぎて先生と話すことなんて全然なかった私がオロオロしていると、続けざまに先生が呟いたのです。
「俺はずっとメルカトル鮎のような男になりたいんだ」
 当時の私はまだインターネットで『初心者のための有名ミステリ十選』みたいな記事を読み、そこで紹介されていた小説を手当たり次第に読んでいたようなミステリ初心者だったので、自分に身近な先生がその発言をしたことへの恐ろしさに気づくことができませんでした。
 先生が抱く野望の大きさに無頓着だった私は、その先生に招かれるがままに地学準備室へと向かい、そこで一冊の本を差し出されます。
 その本は円居挽まどいばん先生の『丸太町ルヴォワール』で、そこから私は本格的にミステリという沼にはまってしまったのです。はめられた。しかもそのエピソードは三月の学期末で、その先生は一週間後に離任することが発表されることとなりました。沼へのはめ逃げじゃん。
 私はその先生が離任するまでのごくわずかの間で、先生から借りた〈ルヴォワール〉シリーズを読破し、「論語とルージュみたいないきな会話を死ぬまでに一度でいいからしてみたいよね」と言いながら遠ざかる先生の背中を「先生がいつか絶対にメルカトル鮎になれますように……!」と祈りつつ見送ったというのが学生時代の一番のエピソードです。

■今作のいちばん読者に読んでほしい箇所やテーマなどを教えてください。

 執筆時からずっと変わらず、彼らの楽しい学園生活を感じ取ってもらえれば! と思っています。
 執筆するにあたって最優先にしたのは「楽しい話であること」でした。
 特に、この小説を読んで「このキャラ、自分と似てる」「うちの学校と同じだ!」と思ってくれる読者さんがワクワクできる話かどうかというのは、書きながら何より意識していたことでした。
 高等支援学校を初めて知った方にも、この場所がすでにとても馴染みのある方にも、彼らの日常を楽しく読んでいただきたいと思います。

■特別支援学校の授業のしくみなどが垣間見えて、彼らの普段の様子が感じられます。

 そう言っていただけると光栄です。なるべく普段の様子を具体的に書いていたのも、彼らが楽しんでいる様子を伝えるためでした。
 言うても特別支援学校、全国に様々ありますので……! いろんな学校で、いろんなことをなさってます。すごい!

■地元の水族館や、ラウンドワンなどが登場します。地元へ思い入れは?

 地元の話を書かせていただいている身で「そんなこと言うなよ」という感じなのですが、私が高校生や大学生だった頃は「よーし、なんとしてでも東京に出るぞ!」と腕まくりをしつつ日々を過ごしていまして……。
 SNSが発達した現在、地方には致死量の「東京近辺に存在するという娯楽の噂」が押し寄せてきます。あそこの村には白蛇の神様がいて、豊作をもたらしてくれるらしい。私も何度か絶対に行けない日程で開催されている首都圏の美術展の告知を見て「ぐ…っ」となったり、東京在住のネット友達が気軽に会って遊んでいるのを見て「ぎ…っ」となったりしたのですが、それでも今の私は地元から離れる気は全くなくて、なぜかというとそれは地元であまりにも大切な人を作りすぎたからでした。
 グループLINEに遊びたいといえば、学生時代から一緒にいる最高の友達が何人かが手を挙げてくれる。一緒に水族館に行ける。それこそが私にとって地元にいることの意義で、白蛇の神様のご利益りやくがなくてもいいかぁと思えた理由です。作中に登場する彼らにとっても、ここが楽しい遊び場であるといいなと思います。

■仙台(宮城)ならではの学校あるある、などがありましたら教えてください。

 給食にフカヒレスープが出るのって、令和の現在でもまだ「あるある」ですか……? 教えて、宮城の現役小中学生のみんな……。

■読者の方にメッセージをお願いします。

 発売当時から、というか何なら発売前から、読者の方を含めてたくさんの方々に温かく見守っていただいているなぁと思っております。これ以上ないほど恵まれた形でデビューさせていただけたと思っているので、報いることができるよう努力していきます。見守っていただけると幸いです。


■雨井湖音(あまい・こおと)
1996年宮城県生まれ。宮城県在住。宮城教育大卒。現在、高等支援学校の職員として働く傍ら、ミステリ小説の執筆を行う。本作『僕たちの青春はちょっとだけ特別』を「東京創元社×カクヨム 学園ミステリ大賞」に投じ、大賞を受賞する。

もうひとりの学園ミステリ大賞受賞者・谷夏読たになっとう先生のインタビュー記事はこちら!