×も○も心次第
鉄輪温泉むし湯でりのちゃんを撮影したのは2024年4月6日のこと。この日、別府市制100周年の記念事業でブルーインパルスが別府の街の上空を飛ぶことになっていた。朝6時からむし湯の撮影を行い、昼過ぎにブルーインパルス越しに撮影出来たら最高だよね、という話をりのちゃんとは前々からしていた。
朝早くの撮影に納得いっていない様子のむし湯で働いている智恵美さんは最初こそ不機嫌だったけれど、撮影が終わる頃にはりのちゃんの人懐っこさにすっかり上機嫌に。「この後、お父ちゃんが家の屋上からブルーインパルス見るっちいいよんけど、あんた達も見に来るかえ?」と誘っていただいた。
りのちゃんの言葉を借りるなら野生味。それは人間力と言い換えてもいいかもしれない。同じ時期に撮影していたルカが智恵美さんと仲がよかったこともそうだが、別府の人は仲良くなるととてもよくしてくれるし、愛情が深い。仲良くなるまでが大変だ(笑)こちらの人間力が試される。
別府には人間力が強い人が多い。別府という土地のエネルギーがそういう人間を引き寄せるのかもしれないし、氣の強い土地で育つとそうなるのかもしれない。人間力、野性味が強い人は良くも悪くも言葉が強い。僕のようにさほど人間力が強くない人間からすると、きつく感じてしまうことも多い。でも、よくよくその言葉や言動を観察してみるとちゃんと優しさが含まれていて、それを受け取る自分次第で感じ方が変わるということに気付く。
別府にいると全ては自分次第だということを思い知らされる。結局この日、ブルーインパルスは悪天候のため、ギリギリで飛行中止になった。屋上に集まった全員が文句を言いながらもどこか楽しそうだ。
湯けむりが立ち上り、目の前には満開の桜の木。笑顔で悪態をつく智恵美さん達の会話。曇り空には似合わないオレンジのヤングTシャツを着たりのちゃん。住人しか上がれないその屋上から見た景色はブルーインパルスを見るよりも特別な景色に見えた。まだ少し肌寒い春の別府。×も○も心次第。そう思わされた撮影だった。
2024.7.20 東京神父
鉄輪むし湯「野生を呼び覚ませ」
東京神父 写真家。1978年4月20日生まれ。 別府出身、自由が丘在住。