温泉の妖精
温泉には植物と同じように妖精が宿ると言われている。
時として人の姿をして現れ、温泉を楽しもうとしている人、温泉を大切に想う人の手助けをしてくれる守り神だ。見た目は皆さんが想像する妖精に比べると多少武骨だが、その目の奥を覗けば、素直で美しい温泉愛が宝石のように輝いていることが分かる。
僕は別府に住み着いた温泉の妖精と一緒にこの日、別府の街で一番湯けむりが多い鉄輪温泉へ出かけた。はたから見れば、温泉コーディネーターと共にロケハンをするカメラマンに見えただろう。否、彼は妖精である。
妖精はとても丁寧な説明をしてくれた。口数は多くはなかったが、とにかく居心地が良かった。これが妖精の力なのか、そう思った。彼はかの有名な小説の台詞を真似てこう言った。「我輩は妖精である。名前はウエピー。ただ今を生きなさい」
妖精は元々この土地の妖精ではない。違う地で育った妖精も今や別府の妖精として温泉を守っている。妖精すら魅了する街、それが別府だ。いや、街ではなく、やはり人なのだろう。
僕は妖精オススメの温泉で体を伸ばしながら、彼と会話し、哲学に触れ、学びを得た。柔軟に何処へでも自分の好きな場所へ赴き歩き、夢中になれる何かをいつも心と魂に持ち続け、ただ純粋に好きなことを生で体験する。お金や人間関係に縛られている僕にはなかなか出来ないことだ。妖精はどこ吹く風で動物の話を聞いてあげたり、優しい笑顔で自然や温泉と戯れている。
全ては一瞬で、だからこそ全てに正直であるべきだ。妖精に教えられることは多い。別府で温泉の妖精に出会えたあなたは幸せだ。そんなことを言うつもりはない。ただ、幸せの意味を考えるきっかけを彼は与えてくれるはずだ。
2018.2.24 東京神父
別府温泉ルートハチハチ
東京神父 写真家。1978年4月20日生まれ。 別府出身、自由が丘在住。