体験しよう、そうしよう。
実際に体験してみないと分からないことなんて、世の中には溢れているわけだけれど、温泉掃除もその一つ。
別府人が何不自由なく近所の公衆浴場を使用出来ているのは当たり前だが毎日掃除をしてくれる地元の方達がいるからで、年に何回かは大掃除をしたりもする。今回「新光泉」の大掃除のお手伝いをさせてもらったのだが、本当に大変だった。僕は撮影も兼ねていたので、半分くらいしか作業はしていないのだが、それでも相当骨の折れる作業だった。
「ちょっと写真展のトークショーの前にお手伝いしよう」くらいの軽いノリで別府プロモーションのルカを誘ったのだが、彼がいなかったらとてもじゃないけど間に合わなかった。ルカありがとう。天井から床まで、パンツ一丁でガッツリ掃除してくれました。
現在、別府ではこういった掃除をしたり、温泉を管理する方が年々減っているそうだ。昼間はカフェをやりながら、夜に温泉掃除を2つ掛け持ちしている知り合いは「流石に身体がもたない」とぼやいていた。温泉掃除は一応バイトではあるけれど、謝礼は微々たるものだし、重労働だ。今後さらに高齢化が進み、若い世代も温泉から離れていくと、別府温泉の良さ(温泉を選ぶ楽しさ)がなくなってしまうのではないかと思う。
生まれ変わったら温泉になりたい!で有名な別府大好きあべりあは「温泉掃除助成金」を作って学生が温泉の掃除をやることで、奨学金などが免除になる、という制度を別府市独自でやったらいいと言っていたが、本当に素晴らしいアイデアだと思う。冒頭に書いた通り、体験してみないとこの大変さや貴重さは分からない。別府人にこそ、その大切さを知って欲しいものだ。別府人にはこれが日常なので、どうしても感謝が薄れてしまう。
温泉掃除の当日、こんな事件があった。
掃除の張り紙を見ていなかった近所のおじいちゃんが掃除が終わる前に温泉に入りに来た。温泉掃除の特典の一つに掃除が終わった1番風呂に男女入れ替えて入れるというものがある。ちょうど掃除が終わったタイミングだったので男湯には掃除に参加した女性が一人入っていた。
「なんえ、入られんのかえ?」
と、明らかに不機嫌そうなおじいちゃんに名人会の方が説明したのだが、いまいち伝わっていないようで、男湯に入ろうとする。今女性が入っているからもう少し待ってもらえますか?と説明すると、
「あんたらは入っとんのやろ、帰るのは面倒だから、すぐ入らせーや」
と舌打ちと一緒に吐き捨てた。
ここでプチンと切れた。誰がって、僕が(笑)
「おじいちゃん、まず掃除の張り紙はずっと前から貼ってましたよ。今いる方達が掃除をしてくれてるおかげでおじいちゃんはこの温泉を毎日利用できるんですよ?ありがとうの一言くらいあってもいいんじゃないですか?少し待っていただけたら入れるので、ここに座っていただいて、お待ちいただけますか?」
そういうと、おじいちゃんは何も言わずにそこに座った。別府人の悪いとこが出てる、そう思った。寛容な人がいる分、偏屈な老人も多いのが別府だ。別府の良さも悪さも全部ひっくるめて愛おしいと思えるとはいえ、別府人の鈍感さにはたまに腹が立つこともある。別府人は月に一回温泉の掃除に参加しなきゃいけないみたいな法律を作ってしまえばいいと思う。と酔っ払ってこの文章を書いている僕は思うのだけれど、とにかく体験させなきゃダメだと思う。その大変さを知れば、あんな言葉は出てこないよ。
是非、地元の人と若い人たちが一緒に温泉の掃除をするという今回みたいな機会をたくさん作って欲しいと思うし、あべりあの案を採用するべきだと思う。実際の掃除している模様は是非、本編をご覧ください。
2024.10.22 東京神父
新光泉「心を磨けば床も光る」
東京神父 写真家。1978年4月20日生まれ。 別府出身、自由が丘在住。