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デッドエンドの思い出
「デッドエンドの思い出/よしもとばなな」
辛く切ないラブストーリーが描かれた短編集で、状況だけ見ればどれも本当に救いようがないくらいデッドエンド。だけど、それぞれがふとした幸せを辿りながら、何とか生きている。そんな作品だ。
何とも愛おしい作品だった。
考えてみれば、私のこれまでの人生デッドエンド続きである。
突然音信不通になり散々苦しんだ挙句、これまでの人生の中で一番好きだった人に捨てられた。デッドエンド。
だらだらと付き合ったバンドマンにお金を貸したまま何となく自然消滅。デッドエンド。
浮気や金銭面で揉めに揉めた挙句度重なるモラハラに耐えられず一年にして離婚(しかもその後約半年に渡り金銭面のごたごたがあった)、25歳にしてバツイチ。これに関してはかなりデッドエンドな部類だと思う。
とはいえ、私は日々の中で割とのんきに幸せを感じたりしているし、別段不幸だとも思わない。
お風呂に入れば気持ちが良いし、ちゃんとお腹も空く。
人から好意を感じると嬉しいし、仕事で褒められれば誇らしい気持ちになる。
きれいな景色を眺めれば、これまで過ごしてきた日々を思いながら涙が出そうになる。
私は五感を使って、このこころと頭を使って、日々幸せを感じて生きている。
あの時は、本当に本当に辛かったけれど、過ぎたことだから今は辛くない。素直にそう思う。
私のデッドエンドの思い出は私だけのもので、こころの傷もまた私だけのものだ。
傷はまだ癒えないけど、その言い知れぬ忘れがたい思い出を胸にしまって、私は生きていくのだ。
風が吹くみたいに、お米が炊ける匂いがするみたいに、ふと訪れる幸せを感じながら。
誰しもがそうやって生きていると思うと、そこら辺を歩いている全くの他人ですら、少し愛おしいと思えた。
それぞれのデッドエンドの思い出は、今この瞬間、何でもない日々によって清算されていくのだろう。