1000人のスーパーファン
ケビン・ケリーが執筆した記事「1,000 True Fans」の改訂版日本語訳になります。
このエッセーは、2008年に書いたものを編集してアップデートしたバージョンである。当時、この今では人気な考えは、未発達でボロボロだった。核となるアイデアを伝えたり時代遅れな細部を取り除いたりするため、最近エッセーを書き直した。この再考されたエッセーは、ティモシー・フェリスの新しい本『タイタンのツール』にも出てくる。私は「1000人のスーパーファン」というコンセプトが、モノを作っている人やコトを起こしている人に役立つと信じている。もしあなたがかなり長い2008年のオリジナルエッセーをまだ読みたければ、このバージョンの後でそのエッセーを得ることができる。ーＫＫ
成功するクリエイターとなるために、あなたは「数百万」を必要としない。数百万ドル、数百万人の顧客、数百万人の取引先、数百万人のファンを必要としないのだ。職人、写真家、音楽家、デザイナー、著者、アニメーター、アプリメーカー、起業家、発明者として生計を立てるには、1000人のスーパーファンだけが必要となる。
スーパーファンは、あなたが生み出すものを何でも買ってくれるファンと定義される。こういう筋金入りのスーパーファンは、あなたが歌うのを見るために200マイル運転するだろう。あなたの本のハードブック版、ペーパーブック版、オーディブル版を買うだろう。あなたの公表されていない次回作のフィギュアを購入するだろう。あなたの無料 Youtube チャンネルのベスト盤 DVD にお金を支払うだろう。月に1度、あなたのシェフズ・テーブルにやって来るだろう。もしあなたにこのような約1000人のスーパーファンがいれば、あなたは生計を立てられる。ただし、財産を築くのではなく、生計を立てることに満足する場合だ。
計算の仕組みはこうだ。あなたは2つの基準を満たす必要がある。1つ目、各スーパーファンから平均100ドルの利益が得られるものを毎年十分な数作らなければならない。これは、あるアートとあるビジネスでは他よりも簡単にできるが、どの分野でも素晴らしくクリエイティブな挑戦である。なぜなら、新しいファンを見つけるよりも、既存の顧客により多くのものを与えるほうが、いつも簡単で優れているからだ。
2つ目、あなたはファンと直接の関係性を持たなければならない。言い換えれば、ファンはあなたに直接お金を払わなければならない。あなたはすべてのスーパーファンのサポートを預かるようになる。これは、ミュージックレーベル、出版社、スタジオ、小売業、その他仲介者から得るかもしれないスーパーファンの料金の小さなパーセンテージとは異なる。もしあなたが各スーパーファンの満額100ドルを預かれば、年間100万ドル稼ぐのにたった1000人のスーパーファンが必要となる。これはほとんどの人たちにとって生計を支える仕事だ。
「1000人の顧客」は、「100万人のファン」と比べると、目指すのにかなり実現可能なものである。「数百万人のお金を支払うファン」は、特にスタートを切ろうとしているときに、目標にする現実的なゴールではない。だが、1000人のファンは実行可能だ。あなたは1000人の名前すら覚えられるかもしれない。もしあなたが1日に新しいスーパーファンを1人追加したら、1000人得るのに数年かかるだけだろう。
1000という数字は絶対的なものではない。その数字の意義は、100万より3桁少ないという大まかな桁にある。実際の数字は、各々に合わせて調整される必要がある。あなたがスーパーファン1人あたり年間50ドルだけ稼げられる場合、あなたは2000人を必要とする。（同じように、年間200ドル売れる場合、あなたはたった500人のスーパーファンを必要とする。）あるいは、生活するのに75000ドルだけ必要とするかもしれないので、下方修正をする。あるいは、あなたがデュエットである場合、またはあなたにパートナーがいる場合、2000人のスーパーファンを得るために、2倍の掛け算をする必要がある。チームの場合、もっと掛け算をする必要がある。でも、いいニュースは、「スーパーファンの母体サイズの増加は、幾何学的で、チームのサイズと比例して直線状である」ということだ。33％分チームを増やす場合、あなたは自分のファン母体を33％分増やす必要があるだけなのだ。
スーパーファンのサポートを計算するもうひとつの方法は、スーパーファンから年に1日分の賃金を得ることを目指すことだ。あなたは、1日分の労働を得るのに十分なほど、スーパーファンを興奮させたり喜ばせたりできるだろうか？ これは高いハードルであるが、世界中の1000人では不可能ではない。
当然、すべてのファンがスーパーになるわけではない。1000人のスーパーファンのサポートは生活に十分かもしれないが、スーパーファン1人ごとに、あなたには2〜3人の普通のファンがいるかもしれない。スーパーファンが中心にいる同心円と、その周囲に普通のファンで成るより広い円を思い浮かべてください。これらの普通のファンは、たまにあなたの創作物を買うかもしれないし、一度だけ買ったかもしれない。でも、普通のファンの普通の購入があなたの総収入を大きくする。おそらく普通のファンはさらに50％の収入をもたらしてくれる。それでも、あなたはスーパーファンに重点を置きたい。なぜなら、スーパーファンの熱狂が普通のファンの支援を増やすからだ。スーパーファンは、あなたの収入の直接的な源だけでなく、普通のファンに対するチーフ・マーケティング部隊でもある。
ファン、顧客、パトロンはずっと以前からある。ここでは何が新しいのか？ いくつかある。昔は顧客との直接的な関係がデフォルトのモードだった。だが、現代の小売業の利点は、「前世紀のほとんどのクリエイターが購入者と直接的な関係を持っていなかった」ということを意味していた。出版社、スタジオ、レーベル、工場でさえ、顧客の名前のような非常に重要な情報を持っていないことがよくあった。たとえば、数百年間ビジネスをしていたにも関わらず、自分たちのコアで熱心な読者の名前を知っていたニューヨークの出版社はいなかった。これまでのクリエイターにとって、こういった仲介者は（そして、仲介者が1つ以上あることが多いのは）、「成功を収めるのにあなたがより多くのオーディンスを必要とする」ということを意味していた。ユビキタスなピアツーピア通信と決済システムの登場で（今日ではウェブとして知られてもいる）、誰もが世界の誰かに直接販売できる優れたツールを利用できるようになった。なので、オレゴン州のベンドにいるクリエイターが、ニューヨークのレコード会社と同じくらい簡単に（もしかするともっと簡単に）ネパールのカトマンズにいる誰かに歌を売ったり届けたりすることができる。この新しいテクノロジーはクリエイターに関係性を維持することを可能にするので、顧客はファンになることができ、クリエイターは支払いの総額を預かることができる。これは必要としていたファンの数を減らしてくれる。
クリエイターが全額を保持するこの新しい能力は、革命的である。だが、2つ目の技術革新がその力をさらに増大させる。（ウェブのような）ピアツーピア・ネットワークの基本的な美徳は、「一番無名のノード」が「一番人気のノード」から1クリックだけ離れていることである。言い換えれば、「一番無名で売れ行きが悪い本、歌、アイデア」が、「一番売れている本、歌、アイデア」から1クリックだけ離れているのだ。ウェブが台頭した初期の頃、eBay、Amazon、Netflix などのコンテンツとプロダクトの大きなアグリゲーター（情報収集サイト）は、「最も売れていない無名の商品全部の総売上」が「少数のベストセラー商品の売上」と同じか、場合によっては上回ることに気づいた。Wired で私の後任者であるクリス・アンダーソンは、視覚的にグラフ化された売上分布曲線の形から、この効果を「ロングテール」と名付けた。「年に数冊しか売っていない商品」でできた低くほぼ果てしなく続く線、その線が「数人のベストセラー」でできた急激に垂直な動物の長い尾を形作っている。だが、尾の面積は頭と同じくらい大きかった。この洞察により、アグリゲーターはオーディンスに無名の商品をクリックさせる大きなインセンティブを得た。アグリゲーターは、注意をロングテールの中にある珍しい創造物に向かわせるために、レコメンデーション・エンジンとその他アルゴリズムを発明した。Google、Bing、Baidu のようなウェブ検索の会社でさえ、無名の検索を報いる興味の中で、ロングテールを発見した。同じようにロングテールで広告を売ることができたのだ。その結果、一番無名なものがあまり無名ではなくなった。
もしあなたが地球上で人口200万人の小さな街のどこかに住んでいたら、デスメタル音楽を渇望したり、ささやき声に夢中になったり（ASMR）、左利き用のフィッシング・リールが欲しかったりするのは、その街であなただけかもしれない。ウェブが現れる前、あなたはこういった欲求を満たせなかっただろう。あなた1人だけが自分の魅了された状態にいただろう。でも、今や満足感は1クリックだけ離れている。クリエイターとしてのあなたの興味が何であろうと、あなたの1000人のスーパーファンはあなたから1クリックのところにいる。私が知るかぎり、インターネット上にファン母体がなければ、そこには何もない。プロダクトも、アイデアも、欲求もないのだ。すべての作られたり考えられたりしたモノは、100万人の中の少なくとも1人に興味を持たせることができる。これは低いハードルである。その上、たとえ100万人のうち1人だけが興味を持ったとしても、これは潜在的に地球上に7000人の人たちがいることになる。つまり、100万人に1人の魅力は、1000人のスーパーファンを見つけられるのだ。トリックは、実際にそういったファンを見つけることで、より正確に言うと、そういったファンにあなたを見つけてもらうことである。
つまり、こういうことなんだ。大企業、仲介者、商業上の生産者は、こういった1000人のスーパーファンと繋がる態勢が整っていないし不向きである。彼らは制度上ニッチなオーディンスや消費者を見つけて届けることができない。つまり、ロングテールはクリエイターであるあなたに大きく開かれているのだ。あなたは100万人に1人のスーパーファンを独り占めするだろう。そして、最近のソーシャルメディアでのイノベーションを含め、繋がるためのツールはますます良くなっている。1000人のスーパーファンをクリエイターの周りに集めるのがかつてないほど簡単になり、1000人のスーパーファンを保持するのもかつてないほど簡単になった。
スーパーファン・クリエイターに仕える多くの新しいイノベーションのひとつは、「クラウドファンディング」である。あなたのファンが自分のためにあなたの次のプロダクトに資金を提供するのは、天才的だ。全員にとって、ウィン・ウィンである。世界には約2000の異なるクラウドファンディングのプラットフォームがあり、その多くが特定分野を専門としている。たとえば、科学実験のための資金調達、バンドのための資金調達、ドキュメンタリーのための資金調達である。専門化された関心に加えて、それぞれのプラットフォームには「独自の必要条件」と「異なる資金調達モデル」がある。あるプラットフォームは「オール・オア・ナッシング」の資金調達ゴールを必要とし、他のプラットフォームは部分的な資金調達を認めている。あるプラットフォームは完成したプロジェクトに資金調達し、ペイトリオンのようなプラットフォームは進行中のプロジェクトに資金を供給する。ペイトリオンのサポーターは、月刊マガジン、ビデオ・シリーズ、アーティストの給料に資金を供給したかもしれない。一番有名で最大のクラウドファンディングはキックスターターである。10万以上のプロジェクトで25億ドルを調達した。成功したキックスターター・プロジェクトの平均支援者数は、241人である。1000人よりかなり少ない。つまり、あなたに1000人のスーパーファンがいれば、あなたはクラウドファンディングのキャンペーンを行えるのである。なぜなら、定義ではスーパーファンはキックスターターの資金供給者になるからだ。（キャンペーンの成功はあなたがファンに何を要求するか次第だが。）
本当のところ、1000人のスーパーファンを開拓することは、時間がかかり、時にはイライラさせ、万人向けではない。うまくやれば（また、うまくやらなくても）、これはもうひとつのフルタイムの仕事となる。よくても、これは時間がかかって挑戦的なパートタイムのタスクとなるだろうし、そのタスクは継続的なスキルを必要とする。ファンに対処したくないクリエイターは多くいるし、正直なところクリエイターはファンに対処すべきでない。クリエイターは、絵を描いたり、裁縫をしたり、音楽を作ったりだけすべきで、スーパーファンに対処する誰かを雇うべきだ。もしこれがあなたで、あなたがファンに対処する誰かを加えたら、助っ人はあなたの計算式をゆがませ、あなたが必要とするファンの数を増やすだろう。でも、これがベストな組み合わせかもしれない。もしあなたがそこまで行くなら、レーベル、スタジオ、出版社、小売業のようなファンに対処する仲介者と「下請け契約」を結んでみてはどうだろうか？ もし仲介者があなたのために働くなら、問題ない。でも、ほとんどの場合、ファンに対処することにおいて、仲介者はあなたがするよりもさらにひどいということを覚えておいてください。
1000人のスーパーファンという計算は、二者択一ではない。あなたは他の道を排除してこの道を進む必要はない。私を含めた多くのクリエイターは、主流の仲介者に加えて、スーパーファンとの直接的な関係性を利用するだろう。私はいくつか大手のニューヨークの出版社から出版されたことがある。自費出版したこともある。それに、自分のスーパーファンに出版するために、キックスターターを利用したこともある。私はコンテンツと自分の目的に応じてそれぞれのフォーマットを選んだ。でも、どの場合においても、自分のスーパーファンを開拓することは、自分が選ぶ道を豊かにする。
結論：1000人のスーパーファンは、スターの座以外の「成功」への代替的な道である。プラチナム・ベストセラー・ヒット、大ヒット、有名人ステータスといった狭くて可能性が低い頂点に到達しようとする代わりに、あなたは1000人のスーパーファンと直接的な繋がりを目指すことができる。その過程でどれだけ多くのファンを実際に獲得できたとしても、あなたは「一時的流行を追う心酔者」ではなく「心からの本物の感謝」に囲まれているだろう。1000人のスーパーファンは、当てにするのにより健全な運命である。それに、あなたが実際に1000人のスーパーファンに到達する可能性はかなり高い。
日本語訳したものを分かりやすく解説した記事はこちら。
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