多摩川のイタリア人ホームレス自殺事件は私たちの明日だ
海外暮らしは本当に不安定。
どんなに今が安定していても、明日は全くわからない。あるイタリア人ホームレスが日本で自殺したというニュースを見て私は背筋が凍った。
国際夫婦の我々には他人事じゃない。
高校生の頃、通学で通った多摩川河川敷の橋の下で生活していたホームレス。しかも彼は私が留学していたイタリアの小さな街の出身だった。親近感が湧く相手は自殺した。
彼のニュースを詳しく読み進めていく。そして次第に私はこれが他人事じゃないと考えざる負えなくなっていた。
海外移住をしたがる若者がたどってもおかしくないエンディングだ。みんなよく考えた方がいい。
優秀だったが、病気で狂う
亡くなったイタリア人、ルーカさんの人生の詳細はぜひリンクのニュースを見てほしい。ここでは概要を簡単に話そう。
ルーカさんが日本にやってきたのは約20年前。亡くなったのが50代後半だから30代で日本に来たことになる。
彼はイタリアではグラフィックデザイナーをしていた。プロの写真家でもあった彼は日本でその技術を活かして働いていた。いわゆる高度人材と呼ぶに相応しいバックグラウンドになる。
数年後には日本人の女性と結婚。幸福な人生を過ごしていたが、数年前から突如その運命は多摩川の河川敷に住むホームレスに変わっていた。
きっかけは、本人が発症した精神疾患だった。これによって妄想に取り憑かれた彼は仕事もできなくなり、いつしか妻の姿を見る人もいなくなったという。出て行ったのだろうか?
その後ルーカさんはビザを失効。違法滞在となったことで一時期入国管理局に勾留された。妄想によって自分はイタリアから逃げてきた難民だと思い込み帰りたがらなかったという。
ホームレスになったのはそれから後の話だ。入国管理局は一時期コロナ対策で収容所内の密を避けるため、危険性の少ない違法滞在者を釈放していた。ルーカさんもその1人だった。しかし、仮放免と言われるこの立場では労働することは許されない。助けてくれる知り合いも日本にいないので結果的にホームレスになったらしい。
その数年後彼は自殺して、物語の幕を閉じた。
彼はまだマシな移民だ
彼の死のニュースを見た日本人の反応はもっともなものが多かった。
確かに。ごもっともな意見だ。
私も彼は日本語を学ぶべきだったと思う。
だが、多くの外国人は何年住んでも日本語でまともに会話できない。時間がない人もいるし、そもそも能力が足りない人もいる。
これもまたごもっともな意見。
じゃあ、この人をとにかくイタリア行きの飛行機に乗せて強制送還すれば日本側としてはとりあえず問題は解決したかもしれない。
もちろん、倫理的にはやるせないエンディングにはなる。
移民のことを知らない日本人たちにとっては、ルーカさんを日本語も勉強せず、老後の準備もしなかった哀れな人間として、自己責任論で片付けたくなるかもしれない。
しかし、この人は移民の中でかなり優秀だ。特殊技能があるし、現に10年以上は自活して日本で生活できていた。だからこそ私はルーカさんを「いつか破滅する予定だった人間」とは思わない。逆に外国生活は「今日順調でもいつ明日破滅するかわからない」、それを教えてくれる実例だと思った。
移民の破滅は地縁・血縁がある現地人よりもずっと楽だ。助けてくれる人などいない。外国では人はもっとフレンドリーだと思っているが、そんなものは道で挨拶を交わすくらいのレベルの話で本当に困ってる時助けてくれる人は全世界で少ない。
確かに外国人だって生活保護をもらう権利はあるが、実際うちの妻が貧困に陥ったらどこに行けば生活保護の申請をできるかは検討もつかないだろう。
だから移民は自分の身を自分で守らないといけない。それはなるべく金を持っておかないといけないということだ。
金のない移民は無力だ
他のコメントに「もし彼が日本語を学んでいればこんなことにならなかったかもしれない」というものがあったが、では日本語能力があったら彼は生き残れただろうか?
おそらく無理だ。病気になっているなら働き続けることは不可能だし、その病気のせいで奥さんもいなくなった。つまり現地の言語能力を身につけることはこの場合対処療法にしかならない。もっと根本的に必要だったのは「金」だ。
そしてその金に移民は人一倍敏感にならないといけないと思う。
もちろん日本に住んでる日本人の中にはお金をほとんど使わずに生きていける人もいるから、金にこだわるのは浅はかだと思う人もいるかもしれない。しかし、それは違う。
日本でお金を使わずに生きている日本人は別の資産を持っている。
例えば食べ物を奢ってくれる親戚や友人がいれば金はいらないが、それは人間関係という資産を消費して生きていることになる。つまり田舎のスローライフを送る人たちは金という資産を使わずに別の資産で食っているだけなのだ。
移民にはこれがない。
1人できた移民には身寄りがない。現地でできた人間関係があっても助け合えるほど強固なものではなかったりする。
つまり金以外の資産があるとすれば自らが持っている技術くらいだ。幸いにもルーカさんにはグラフィックデザインというスキルを持っていたが、病気によってそれもうまく使えなくなり、ホームレスになった。
蓄えがない移民はだから、こうも破滅しやすい。そして誰も破滅したことに気がつかない。だって赤の他人だから。
もし海外移住するなら彼が辿った現実を噛み締めなければいけない。
移住したら人的資産は消える。スキルがなければあと頼れるのは金だけ。金もない人間は...社会の奴隷になるしかない。それもできなければ無価値だ。社会から捨てられる。彼のように。
金を失うな?金を信頼しろと言った父
移民の経験がある家庭に育てば、金に執着しろと両親から言われた経験はあると思う。
私の父もそうだった。彼も若い頃ヨーロッパに住んでいて8年間くらい綱渡りな生活をしていたから常に私にこう言っていた。
10年くらい海外の某国に住んだ結果、ギリギリ合法みたいな生活をしていた父の言葉はだいぶ響いた。
あの言葉を聞いた10年後、私は今日もその言葉を覚えている。なんと言っても国際結婚してしまったのだ。人とは違う面白い経験をしている分、自己防衛も人よりしないといけない。そんなわけで日々貯金の大切さを妻に啓蒙している。
若いと気が付かないが、若くないと金が貯まらない矛盾
と、こんな話をすると「老後の事なんか知るかじじぃ!」と言われるかもしれない。
そんな...俺まだ30代なのに...まぁいいや。
貯金の大切さを若い人にこそ知ってもらいたいのは、若ければ貯金も楽だからだ。もし20台なら毎月3万だけ貯金してみてほしい。60まで続けられれば1000万を超えてる。
これが40から気がついたら大変だ。倍の6万円必要になる。もしかすると奥さんがいるかもしれないし、子供がいるかもしれないし、あなたが病気かもしれない。今より確実に体は衰えてる。その時6万円毎月必ず貯めるのは辛い。
だから早めに始めて欲しいのだ。早めに始めれば長い海外生活で必ずあなたを助けてくれる金になるわけだから。
辛かったら帰ればいいし、と思えども
海外移住を始めた人は若い頃は「 嫌になったら最悪帰ればいいか!」と思うから楽観的かもしれない。でも、その若さ故の楽観性は30代になると消える。
日本の家族も友人も減って、新しい土地で人間関係ができてきたら、もう日本は「ホーム」じゃないかもしれない。
そしたら帰る選択肢は救いか?新たな地獄の始まりじゃないか?
母国にも帰りたくない、今いる土地にはいられない。そんな地獄に落ちる前に金を持っておこう。金があれば安い仕事でもとにかくゲットしてビザを繋ぐこともできるし、家族もあなたを看病しやすくなるかもしれない。
自分も学生時代はこんなに金に執着するようになるとは思わなかった。だが、海外生活は「夢」じゃない、「サバイバル」だ。本当にやるなら甘さを捨てて、戦うんだ。
みんな、今日も生き残って海外生活楽しもう。