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軍事独裁を懐かしむおじさんの話。

とかげ、には言っておこう。
私は独裁政権を生きていたから知っているんだ。
ちまたでは独裁政権は悪の権化だと言っているが、
実際はテロリスト狩りに必死だったんだよ。
すべてが善だとは思わないが、完璧な悪ではなかったんだ。
敵はゲリラ活動をやっているアカの連中だったんだよ。
仕方なかったんだ。

by南米おじさん

って、おじさんが俺に言ってたよ。

と南米妻に話したところ、妻は目を丸くして
「おじさんがそんなこと言ってたの?マジで?いや、思ってそうだけどさ」と呟いた。

どうやら外国人の婿殿だから思いのたけをぶつけられたらしい。
じつはよくある話だ。

独裁政権支持というタブー


学生でも、若者でも殺した時代。

南米某国で独裁政権が敷かれていたのは1970~80年代の話で、
今から約40-50年前の話である。

当時、軍部は国民の中に左翼ゲリラがいると言うことで
突如「左翼国民狩り」を始め、
知識階級の学生やジャーナリスト、共産主義者との噂がある人などが
次々に逮捕、または殺害されることになった。

これ、どっかの国の他人事だと思っていると、そんな話ではない。
移住していった日系人の子孫も殺されているのだ。

あっ、アルゼンチンが某国だってバラしちゃった。まぁいいか。

この話には尾ひれが付きすぎていて、何が真実かはさっぱりわからないのだが(スペイン語でいろいろ資料を漁るべきだろう)、
かなり有名なのはこれだ。


事故ではないですからね

「死のフライト」

片っ端から捕まえてきた「反政府派らしき自国民」を
睡眠薬で眠らせて海や川に飛行機から落として行ったという虐殺だ。

それだけの事をやっているからして、この時代の話を口にするのは
そう容易いことではない。

事実私の友人のお母さんは、自分の友だちが殺されたので他国に逃げているし、未だに兄弟が殺されたという人々は70-40代くらいの中には健在なのである。

イメージで言えば1980年代の頃に太平洋戦争について日本人が肯定の叫びを上げるようなものである。

無理でしょ?ペラペラとあの時代を肯定するなんて

おじさんの目から見た独裁政権


とはいえ、教科書に書いてあるような出来事が国民すべてに同じように起こった訳では無い。

例えば第二次世界大戦中のわたしの曽祖父の一人は、

あれほど苦しい時代はなかった。語りたくもないし二度と行きたくもない。

と語っていた者もいるが、

案外楽しかった。毎日中国人と麻雀して、物資を購入しては兵営に帰るだけだった

とうそぶいている曽祖父もいた。

同じ事象なのに個人に起こったストーリーは限りなく真逆になることもあるのだ。

アカと戦う兵隊さん

さて、おじさんの目に映った独裁政権はどうだったかと言うと、
「左翼ゲリラと戦ってくれた兵隊さん」というイメージだったようだ。

実は独裁政権も虐殺を始めたのは反政府の左翼側がゲリラ活動をして武装蜂起していたからという理由もあり、共産主義を嫌っているおじさん、そして都市民であり先住民出身ではない、比較的マジョリティーに属する白人のおじさんからすれば左翼ゲリラが敵で、それと戦う軍事独裁政権の兵士たちこそ正義だったかもしれないのだ。

まぁ、ともかくそんなことは人前で話すことははばかられるタブーである。しかし、私はこの文脈になんの関係もない日本人だから思いの丈をぶつけてしまおうと思ったに違いない。

「人前じゃ言えんがね、俺はフランコに感謝してるんだよ」

こんな話は別に南米某国出身のおじさんにだけ起こる話ではない。
日本に来ているスペイン人達の口からもポロッ、ポロッとこぼれだすことがあるのだ。

大体の話は「スペイン内戦で勝利したファシスト政権はそんなに悪くなかった」というやつ


スペイン内戦は未だにスペイン人の心のトラウマである

ファシスト達である軍部と、共産主義・社会主義・アナーキストの闇鍋状態であった左翼政府が殺し合ったスペイン内戦はかの半島を血で染め上げた。

おおよそ90年くらい前の話である。

その後スペインは長きに渡るファシスト独裁政権に支配されることになったので人々は独裁政権解放後、口々に独裁者であったフランシスコ・フランコを罵った。

青がフランコ派、赤が左翼だった共和国派

だが、考えてほしい。
みんなが独裁者を嫌っていれば、なぜ独裁政権を維持できたのか?
本当に支持されていない独裁者はいくらなんでも打倒される。

しっかり、支持基盤があったことは疑いようもない真実なのだ。

ここで浮き上がってくるのがあの独裁政権を肯定していたが、
その後口をつぐんでいるサイレントマジョリティ達の存在である。
そして彼らはスペイン語が話せる日本人を見つけるとぶつくさと本音を言い始める。

人前じゃ言えんがね、俺はフランコに感謝してるよ。あいつがいなければ今頃スペインは共産主義者の国だ。フランコは神様とは思わないがあの時代を乗り切った政治家には代わりないと思うね。

どこかでスペイン語の教師をやっているAさん

俺のおじいちゃんは従軍したんだよ。フランコ派としてね。で、なんか勲章をもらったんだけど、何が理由でその勲章をもらったかはさっぱりわからないんだ。つらい記憶みたいで語りたがらなくてね。

少し祖父が誇らしげな留学生のBくん

結局どの国にもタブーはあるが、それに納得していない人たちは隠れて存在しているんだなぁという話だ。

外国人だから知れる本音もあるって話。

皮肉なことにこういうセンシティブな話は実は外国人の方が聞きやすかったりするという話だったが、ここで話したいのは外国だから何でもオープンに会話しているわけではないということだ。

その国その国で眉をひそめられるてしまうテーマはあるし、みんなある程度の常識ってやつに従って生きている。

もし、海外に移住してそんな鎖から完璧に解き放たれたと感じているなら、
それは単に現地社会に全く溶け込めていないだけかも…なんて場合があるのである。


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