Filmmakers' Homecoming『レオノールの脳内ヒプナゴジア』 マルティカ・ラミレス・エスコバル監督×石川慶監督トークイベント
11月19日(日)から開催する「第24回東京フィルメックス」、プレイベント<Filmmakers’ Homecoming>が現在行われており、11月4日(土)には、マルティカ・ラミレス・エスコバル監督作『レオノールの脳内ヒプナゴジア』の上映とトークイベントが実施された。
<Filmmakers’ Homecoming>とは、2010年より東京フィルメックスと同時期に実施されている映画人育成事業「タレンツ・トーキョー」に参加した新進気鋭の映画作家たちが監督・制作した12作品を特集上映する企画。フィリピン出身のマルティカ・ラミレス・エスコバル監督は2016年に「タレンツ・トーキュー」に参加、トークゲストの石川慶監督も2011年に参加しており(当時の名称は「ネクスト・マスターズ・トーキョー」)に、縁ある二人が顔を合わせる場になった。
トークの冒頭、エスコバル監督は、「タレンツ・トーキョー」に参加できたこと、修了生を対象に世界での活躍が期待される企画を選抜してサポートする「ネクスト・マスターズ・サポート・プログラム」の2度にわたってサポートしてもらい、本作の東京での上映までたどり着いたことへの感謝を伝えた。
本作が誕生したきっかけについて問われると、エスコバル監督は、「実は、(完成までに)7年かかっている。きっかけは、(タレンツ・トーキョーで)アクション映画監督がたくさん講師としてくる場に参加したとき。フィリピンは、アクション映画というのが、過去に何百本と作られていて人気がある。アクション俳優から政治家になった人もいるという歴史がある中で、では、アクション映画を女性監督が手掛けたことがあるか?といったら無かったことに気づいた。それならばと、友人と、おばあちゃん自身がアクションの監督だったらという、アクションを含めたものを作れないかな、と。そういう好奇心からから始まった」と、明かした。
今回、2回目の鑑賞だったという石川監督は、「最初、フィリピン映画と聞いたとき、ブリランテ・メンドーサ監督やラヴ・ディアス監督のイメージがすごい強いものだったので、上映時間を確認したりしましたが(笑)。純粋に楽しめましたし、気さくで素敵な方が監督していて色々腑に落ちた」と感想を伝えた。エスコバル監督の、一作目に何を作るかを選択することが難しかったという言葉を受けて、「確かに、映画について作る、というのはよい選択ではあるけれど、そういう映画にまつわる第一作は、失敗作になるというのを見てきている中、主人公を年配の女性の方にして、なおかつアクション映画というのをメタ構造にいれたということが勝因になったなと思った」と、本作について、ポジティブにとらえていることを明かした。
主人公のレオノールというキャラクターは、エスコバル監督自身の祖母にインスパイアされたという。「彼女にはいつも驚かされている。旅行に行っても、いわゆる観光スポット的な写真を撮るよりも、地面の小さい花を撮ったりする。つまり、人生の小さき喜びにとても敏感で大事にする、そういう人。バイオレントな世界に生きているかもしれないけれど、人生の中の美しいものを見つけられるそういうキャラクターにしたいと思った」と話し、「自分自身の世代は、午後にアクション映画がTVでかかっていて、家族やクラスメイト、近所の人たちとわいわい集まってみる、というのを経験している。そういうのが基盤になっている」とアクション映画とのつながりにも触れた。
7年という時間がかかった本作、完成に至るまでに、25くらいのバージョンがあったことも明かされたが、石川監督は、「自分からすると、フィルムメーカーにとって、ドキッとするシーンがあった。レオノールが急に踊りだすところとか好きだったが、自分も筆が止まるとき、次どうしたらいいんだろう、踊ってみせようか、とか苦し紛れに出てしまうようなところが、気持ちとしてはすごくわかって。でもそういう瞬間が、自由な軽さもあって。7年も脚本開発をやっていると、凝り固まってきてしまいところが、自由度を保ちながら、すごく楽しい映画に出来ているのがいいなと思って観ていた」と、時間がかかった中で、エスコバル監督が自由な表現を貫いたことに感心していた。
自由に作れたという点については、エスコバル監督は「まさにそのとおり。自由に作れたのはプレッシャーがなかったからだと思う。本当にプロデューサーがとてもリスペクトしてくれていた。資金がなかったということが、マイナス面でもあったが、ただ自分たちが信じているものを作ろうと、同じ理解の元に作っていた。ある種の友人たちとの巨大な、パッションプロジェクト。自分の情熱や思いだけで作った作品に近い作品だと思っている。それこそ、エキストラの人も、家族や友人の友人にも声をかけて応援してくれたりして、病院のシーンもそういう風に撮っている」と、情熱に支えられた現場だったことを振り返った。
また、本作はTVがとても重要な役割を果たしており、石川監督も「今回、映画の中に入る媒体が全部TVだということが面白いと思った。
TVに頭をぶつけて、映画の中に入るなど、いつも映画の世界に入るときはいつもTV、ということがとてもクレバーな使い方をしている」とその魅力をについて感想を述べたが、エスコバル監督自身の世代が、「映画へアクセスできるのはTVだった」という経験が反映されている。
イベントの最後に、エスコバル監督から石川監督へ、どうしても聞きたかったという「一本目は自由に感じるものなのか」という質問が投げかけられた。石川監督は「自由は感じるけれど、今は、自分への期待もあるからだけれど、プレッシャーを感じながら制作している。だかこそ、一本目の作品は大事でもあるし、今振り返ってみても一本目は指紋のようなもの。唯一、一つしかないもので映画作家にとって重要なもの。(エスコバル監督は)素晴らしい一作目を作られたので、将来が楽しみです。」と、一作目の意義を伝えつつ、同じ映画作家として、大きなエールを贈った。
「第24回東京フィルメックス」は、11月19日(日)から11月26日(日)まで開催する。『レオノールの脳内ヒプナゴジア』は、2024年1月13日
(土)より、シアター・イメージフォーラム他で公開予定。
「第24回東京フィルメックス」プレイベント<Filmmakers’ Homecoming>は11月13日(月)までヒューマントラストシネマ渋谷にて実施中。
上映作品詳細はコチラ:https://filmex.jp/2023/files/2023/10/Flyer_Pre-FILMeX2023_page-0003.jpg
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