遍在する「補助金執行一般社団法人」/サービスデザイン推進協議会と環境共創イニシアチブの正体を考える
はじめに
令和2年5月27日の週刊文春、28日の東京新聞、30日の朝日新聞。
これらの報道を皮切りに、次々とスクープが始まった「一般社団法人サービスデザイン推進協議会」を巡る問題。国会での論戦と並行して野党ヒアリングも開催され、TBS(とりわけNews23)やテレビ朝日、NHKも「持続化給付金」をめぐる問題を地上波で報ずるなど、ことの検証がはじまりました。
闇の中にあった具体的な資金の流れやその経緯など、5月2日に第一弾の記事を書いたときには検証しきれなかった様々な事実が明るみになりつつあり、「足で稼ぐ」報道機関の凄みを感じているところです。
5月31日夕刻には産経新聞も報道の戦列に加わり、6月初頭には五大紙+1、在京六紙の全てが揃い踏みとなりました。この問題の本質が「国費の使いみち」に関するものである以上、各々のスタンスを超えて議論されたら良いな、と思っておりましたが、有難い限りです。
個人的には、毎日新聞の岡大介記者による調査報道など、興味深く読んでおります。
5月28日以来、実に10日以上に渡って1面掲載を継続しサービスデザイン推進協議会を追求してきた東京新聞の取材班は、おそらく第二次補正予算の成立後を待っていたのでしょう、6月13日の朝刊一面カタにおいて、この問題に新たなスポットライトを当てました。
記事の表題は「電通が省エネ事業でも再委託で受注 法人設立に経産省が関与か」。サービスデザイン推進協議会やキャッシュレス推進協議会以外にも電通が大規模な再委託を受けている国の事業があり、その再委託元の法人設立には経済産業省が関与した疑いがあるという記事です。上記のリンクにて全文が公開されています。
法人の名は、一般社団法人環境共創イニシアチブ。経産省関与の疑いをあぶり出した手法は、記事によれば「一三年当時の環境共創の定款をインターネットで調べる」という手法でした。
そう。その通りです。現代社会の良いところは、手元にパソコンさえあれば誰もがアクセスできる情報に溢れていること。その中で、第一弾・第二弾・第三弾の記事でお示しした調査手法を取っていただければ、隠れた黒幕をも暴くことが可能となり得るのです。
せっかくですので、私の方でもやってみましょう。
①「過去の定款」を探し出す
試みに、現在の一般社団法人環境共創イニシアチブの定款を見てみると、見事なまでにプレーンなプロパティが広がっており、経産省の関与を裏付けるような情報はきれいに抹消されています。
とはいえ、こんな所で追求は終わりません。Wayback Machineに掛けてみましょう。現在の定款URLを検索窓に打ち込み、アーカイブ上に保存がないか、照会をかけてみます。
Hrm. 存在せず。なるほど現在アップロードされている定款のログは残っていない様です。しかしながら、そこで追求が終わるものでもありません。
お目当てのファイルが存在しないときに、これを探り当てる方法は「一歩下がって考える」ことです。当該のファイルにリンクを張っていたページ(仮にこれを「親ページ」と言いましょう)まで戻って、アーカイブを検索し、どこかの時点で生きているファイルがないかを探り出していきます。
ファイルへのリンク(URL)が変更となった可能性もありますし、親ページそのものの構成が変わる場合もある。親ページに存在しなければ祖父母のページへ、祖父母のページになければ曾祖父母のページへ。最終的には該当サイトのトップページに至るまで、生きているファイルが存在する可能性は広がっています。
しかし単純に帰納的な検索をしているだけでは、あまりに手間暇がかかり、現実的なリサーチとは言えません。そこで現在の情報にヒントがないか、再び立ち戻って考えてみましょう。
そして現在の定款を見てみると、この定款が「平成28年2月24日」に制定されたことが分かります。しかし、環境共創イニシアチブのHPによれば、同法人が設立されたのは「平成23年2月22日」のことでした。
つまり現在の定款は初期定款(原始定款)ではありません。
すると「平成28年2月24日」より前、現在の定款に改定される前の定款がネット上で生き残っている可能性がございます。すなわち、検索範囲は2011年2月22日から2016年2月24日。これにより、2011年から現在(2020年)に至る各種ログのうち、検索すべき範囲を半分(約5年)にまで絞ることが出来ました。
そして現在の定款の親ページのURLは「https://sii.or.jp/company/koukai/」です。このURLをウェイバックマシンにかけてみると・・・・。
2015年3月から2020年5月まで、26件のcapture(キャプチャー)記録が残っていることが分かりました。これで見るべき範囲は5年60ヶ月からさらに縮減し、2015年3月から2016年2月までのわずか12ヶ月分(8キャプチャー)にまで絞り込むことが出来ました。
あとは順次キャプチャーのページを開いていくのみです。
そして2015年6月7日のキャプチャーにある定款へのリンクを開いてみると・・・。
ビンゴです。東京新聞の述べていた「一三年当時の環境共創の定款」、平成25年(2013年)6月28日の定款が出てきました。
はやる手を抑え、「文書の情報」表示を呼び出し、実行をクリックします。そこに現れるのは・・・。
タイトル:「補助金執行一般社団法人(仮称) 定款(案)」
作成者:経済産業省「情報システム厚生課」
サービスデザイン推進協議会の定款と全く同じプロパティなのでした。
②遍在する「補助金執行一般社団法人」
平成23年(2011年)設立の環境共創イニシアチブと平成28年(2016年)設立のサービスデザイン推進協議会。奇妙なことに、5年の時を経て設立された一般社団法人のプロパティが完全に一致しています。
しかもプロパティのみならず、条文の構成においても全く同じレイアウトが採用されており、ほとんどの条文は文言や句読点の位置まで一言一句、全く同じです。違うのは、昨今話題の公告(貸借対照表などの公告)に関する規定(第4条)や目的規定(第2条)くらいなものでした。
これは一体どういうことでしょうか?
奇しくもヒントを与えてくれたのは、経済産業省その人でした。
国会における論戦の火蓋が切られた5月22日の文部科学委員会(衆議院)の会議録を引用しましょう。質問者は川内博史 文科委員(立憲民主党)。答弁者(政府参考人)は経済産業省 中小企業庁の奈須野太 事業環境部長です。
※経済産業省中小企業庁 奈須野 事業環境部長(衆議院インターネット審議中継より引用)
ここで奈須野部長は川内議員の質問に対し、いささか不思議な答弁をしています。該当部分をスクリーンショットでお示しした上で、全文を引用いたしましょう。
「お答え申し上げます。私ども、経済産業省でございますので、業界団体とか企業コンソーシアムを形成しようとしている民間企業などから、その方法について、技術的な助言とか、あるいは情報提供を求めることは通常ございます。
本件でそのような経緯があったかどうかはちょっと私ども承知していないんですけれども、一般に、先方から、他の団体の定款の例を下さいとか、あるいはひな形を下さいということはございまして、その一環で提供したものが利用され、あるいは再利用される。これは、一旦役所から出ると転々流通してしまいますので、再利用はとめられませんので、そういう可能性はあるんじゃないかと思っておりまして、このこと自体は特段問題だと思っていません。
なお、文書のプロパティーでございますけれども、当時のシステムの設定上そうなっているということでございまして、当該文書が情報システム厚生課において作成されたということを示すものではございません。」
なるほど、経済産業省は各種民間団体・民間企業から助言を求められることがあり(第一段落)、その過程として役所の文書として定款の例やひな形を民間に示すことがある(第二段落)。とはいえ「情報システム厚生課」の名前は経済産業省の「当時のシステムの設定上」表示されていただけであって、実際に当該文書(今回の定款)を情報システム厚生課が作ったとは言えない(第三段落)という訳です。
つまり、ある時点(当時)において経済産業省が定款のひな形を出したことを自白しており、その作成者が「情報システム厚生課」では無いにせよ、「システムの設定上」のもとにあった経済産業省の誰かであることは認めてしまっているわけです。
そして、その「ある時点(当時)がいつなのか」については、経産大臣自らがお話になっていました。令和2年6月2日の梶山経済産業大臣による定例記者会見の内容を引用しましょう。
プロパティについて質問された梶山大臣はこう答えています。
「設立時のプロパティというのは、経産省はもう変わっているのです。以前に使っていたプロパティであることには間違いないのです。それが設立の3年前か、4年前ぐらい、ちょっと正式な数値は、期日は言えませんけれども、そういうことで3、4年前のプロパティだった」
サービスデザイン推進協議会の設立は平成28年(2016年)5月。その3、4年前というと、ちょうど平成25年(2013年)ころ。環境共創イニシアチブの定款改定時期です。
そもそも環境共創イニシアチブの設立は平成23年(2011年)でした。大臣の仰るプロパティ設定の変更時期を最大限さかのぼった「4年前」=平成24年(2012年)説を取るとしても、経産省の言う「ひな形を・・・提供した」時期から外れることはなく、バッチリ該当しています。
ただ調べてみると、この大臣説明は実際には虚偽説明でした。サービスデザイン推進協議会の設立が平成28年5月16日であったところ・・・。
国会図書館のWARPアーカイブ内に保存された平成28年6月9日付の文書のプロパティではやはり「情報システム厚生課」の名前が登場しています。平成29年11月29日付けの文書に至っては経済産業省の公式HP(meti.go.jp)において、サービスデザイン推進協議会の設立以後もプロパティ「情報システム厚生課」を用いていることが公開されており、いつでも確認することが可能です。
こんなちょっと調べれば分かるような嘘をつくあたり、かつて圧倒的な中間層の厚み(一億総中流)を実現し、世界に冠たる経済大国(ジャパン・アズ・ナンバーワン)を築き上げた「Mighty MITI(偉大なる通産省)」の絶望的な劣化を感じるところですが、ともかく経産省側の証言を全面的に信用したとしても、今回の定款が経産省発のものであることは明らかな訳です。
彼らの唯一の逃げ筋としては、奈須野部長の発言にもあった「転々流通」、サービスデザイン推進協議会の業務執行理事 平川健司氏が6月8日の記者会見で述べていた「ネットで拾った」など、デジタルファイルの流通性に着目してその流路を曖昧にする方法、言うなれば「木を隠すなら森の中」戦法ですが、いい加減、いたちごっこをするのも面倒です。逃げ道を塞いでしまいましょう。
ここで用いるのは第一弾の記事と同様、法人登記簿です。
③「定款」は語り、「登記簿」も語る
サービスデザイン推進協議会の初期定款が明らかにした設立当初の役員(理事及び監事)は以下の5名でした。
代表理事:赤池学(株式会社ユニバーサルデザイン総合研究所)
理事:浅野和夫(トランス・コスモス株式会社)
理事:有村明(株式会社パソナ)
理事:平川健司(株式会社電通)
監事:古椀裕章(株式会社みずほ銀行)
赤池氏は平成30年に退任し、「これね 私はすみません 飾りです」などの数々の発言を残して令和2年6月8日に退任したばかりの笠原英一氏へと代表理事の座が引き継がれる訳ですが、注目したいのは平成30年ではなく、サービスデザイン推進協議会の設立当時。平成28年当時の理事・監事の構成です。
登記情報閲覧サービスを利用して、環境共創イニシアチブの平成28年当時のメンバーを確認し、サービスデザイン推進協議会の平成28年当時のメンバーと見比べてみましょう。
一般社団法人環境共創イニシアチブ
代表理事:赤池学(平成28年6月29日重任)
「重任」とは現職の人物が任期継続となった場合に付される表記です。このことから、平成28年6月29日より前の時点においても、赤池氏が代表理事であったことが分かります。また代表理事については個人住所が登記されるのですが、さすがにそれを公開することは望ましくないため、モザイクを付しております。
理事:浅野和夫(平成28年6月29日重任)
トランスコスモスの浅野氏はサービスデザイン推進協議会、環境共創イニシアチブともに、平成28年から現在に至るまで、現職の理事です。6月8日にはサービスデザイン推進協議会の共同代表理事に就任しました。業務執行理事の平川氏と並ぶキーマンと申せましょう。こちらも重複。
監事:古椀裕章(平成27年6月26日就任 平成30年3月31日辞任)
古椀氏は平成30年に辞任されている様ですが、サービスデザイン推進協議会の設立当時(平成28年5月)という観点でみれば、現職の監事です。そして、サービスデザイン推進協議会の登記情報と見比べてみると、同時期(平成30年の第2四半期)に同一人物へと監事の座を譲っているのでした。その同一人物とは、河野優加氏(同じくみずほ銀行出身)です。
5人中3人が重複し、しかも同一の職位にある。その地位を譲り渡す人間まで、両法人ともに同一です。
ところで電通とパソナはどこへ行ったのでしょうか?
その存否を考える上で重要な情報は、社団のオーナーである社員企業や社員団体です。
親切なことに、環境共創イニシアチブは現在の社員企業・団体の一覧を公式HP上で公開してくれており、それはこの様な具合でした。
電通、トランスコスモスにみずほ銀行。持続化給付金事業をめぐる再々々々委託で話題となった大日本印刷株式会社(DNP)も名を連ねています。やぁ皆さん、お揃いで!
一方で、人材派遣の業界からはパソナの代わりに株式会社アヴァンティスタッフ(アヴァンティ)とパーソルプロセス&テクノロジー株式会社(パーソル)が名を連ねており、理事・監事にパソナ出身者がいない訳が分かりました。
圧巻は電通グループの存在です。実にグループ4社が社員企業(構成団体)となっており、社員数で言えば、オーナー企業群の中でも圧倒的な割合を占めています。
そして、その内の3社は現在のサービスデザイン推進協議会の社員(オーナー企業)でもあるのでした。6月4日になってサービスデザイン推進協議会は初めて社員・会員の内訳を公開した(上記リンク)のですが、あら、大日本印刷さんもいつの間にやら社員になっていたのですね・・・。
これを元に再び平成28年の登記簿を見直すと・・・。やはり電通出身者の名前があるのでした。
理事:仙北屋亨(平成28年6月29日重任 平成31年4月22日辞任)
仙北屋氏のお名前でググっていただければ一目瞭然ですが、氏は現在の電通ワークス代表取締役社長です。
そして、電通ワークスは今回の持続化給付金委託事業における再委託先の一つなのでありました。これは果たして偶然なのでしょうか。
サービスデザイン推進協議会の設立時理事・監事(全五名)のうち一社(パソナ)は元々いないため除外するとして、残りの四社(四名)について言えば全員重複。出身企業で見た場合の的中率は100%です。
平成28年の設立当時、サービスデザイン推進協議会の役員の過半数は、環境共創イニシアチブの役員に就任していた。しかも両団体の定款はレイアウトまで全く同じく、彼らの真の名前は定款によれば、いずれも「補助金執行一般社団法人」です。
そして彼らは設立以来数年間、経済産業省の補助金事業ばかりを受託している。それは他ならぬ経済産業省が公開している法人情報サービスgBizINFOからも明らかです。外形的な名前がどうあろうとも、彼らの実態は文字通りの「補助金執行一般社団法人」なのでありました。
ところで、ここで気になるのは、そのタイトルです。「執行」とは行政用語であり、一般的に受託側(民間)が使う用語ではありません。すなわち、このひな形は「タイトルまで含めて行政側が作出したひな形」であることが強く推認されます。
なるほど、奈須野部長の発言の通り、民間団体に定款ひな形を渡すことそのものは問題ありません(そもそも、経済産業省は社団財団法に関する専門的な所管を有するわけでもないのに、なぜ定款のひな形を提供するの…というツッコミどころはありますが)。
しかし、それが「補助金執行一般社団法人の定款ひな形」であればどうでしょう。補助金執行の委託事業者を先に決めておいて、その特定企業群に「補助金執行一般社団法人の定款ひな形」を渡し、補助金の受け皿となる「補助金執行一般社団法人」を作らせる。そして、公募段階においては競争入札をうたい、(価格以外のステータスによって落札者を左右できる)総合評価方式の穴をつく形で、実質的な随意契約を実現する。そして再委託の波の中で、国費はどこかへ消えて行く。
両者に共通する(括弧の位置まで一言一句同じの)タイトルの存在は、このひな形が、上記の様な脱法的行為を行う上での「秘伝のタレ」的な機能を果たしていることを、如実に連想させます。
官製談合防止法はその第2条第5項において、法律上禁止される「入札談合等関与行為」を定めておりますが、それは以下の様なものです。
そして同条第5項第2号は「入札談合等関与行為」として下記のものを明示しています。「契約の相手方となるべき者をあらかじめ指名すること その他特定の者を契約の相手方となるべき者として希望する旨の意向をあらかじめ教示し、又は示唆すること」。
上記の定款提供行為は、これにピッタリと該当する明瞭な国家犯罪なのでありました。
④「サービスデザイン推進協議会問題」の今後
今回の「環境共創イニシアチブ」の定款発覚で見えてきたものは、サービスデザイン推進協議会の問題、持続化給付金の事業をめぐる問題がこの一件に留まるものではなく、あくまでも氷山の一角に過ぎないという現実でした。
複数個存在する「補助金執行一般社団法人」。そして「ひな形」という経済産業省側の言動。これらを総合すれば、二度あることは三度あると考えて差し支えないでしょう。第二・第三の「サービスデザイン推進協議会問題」は、ほぼ確実に起こり得ることなのです。
サービスデザイン推進協議会の問題を受けて、6月8日、経済産業省は中間検査の実施と今後の公共調達の見直し検討を含めた有識者会議の設置を表明。しかし、問題がここまで根深いことが判明した以上、膿を出しきらねば抜本的な解決は図れません。
もちろん、関係者は今後とも「偶然です!」「定款は拾いました!」「経済産業省様は関係ありません!」との強弁を繰り返すことでしょうから、自浄作用にはあまり期待できません。すると、行うべきは外的な圧力です。
可能性として考えられるのは検察による強制捜査。本件が明瞭な国家犯罪であることを合理的な疑いを入れないレベルにまで捜査し、立証し尽くせるのは彼らを於いて他にはありません。その導線となるべき「高度の蓋然性」の証明は、5月22日以降の国会質疑、5月27日以降のメディア報道によって十分に為されつつあるものと認識しています。
もう一方で考えられるのは、国会における継続的な追求と検証です。今回の問題がここまで明らかになったのは、国会における質疑の効力が大でした。現在、6月17日をもって閉会が予定されている第201回国会(常会)ですが、これが終わったとしても憲法第53条に規定のある臨時会が残っています。
臨時会は「いづれかの議院の総議員の四分の一以上の要求」があれば召集可能ですから、仮に与党の賛同が得られなかった場合でも、立憲民主党・国民民主党をはじめとした野党各派が手を携えれば十分に実現可能な数字です。もちろん、臨時会の招集時期の決定権は内閣の影響下にあり、会期そのものも両議院一致の議決を要する(与党の意向に左右される)ため、そこまで長期間は開会できないでしょうが、「立法府として行政評価と行政監視を継続して行う」という姿勢を示す意味では、たとえ会期一日になったとしても意義を有するものと申せましょう。
準司法府と立法府。それぞれの意地に期待したい所です。
⑤「補助金執行一般社団法人」はなぜ生まれたか
経済産業省OBの言動などを見ておりますと、おそらくこの問題の始まりは小泉改革(平成13年〜平成18年)にあったと考えることができます。"聖域なき構造改革"の名のもとに、郵政民営化のほか、国家公務員の定員数が純減され、マンパワーは「5年間で5%以上純減」を目標に大幅な削減が続きました。
この純減の嵐は平成21年の政権交代によって終わりを迎え、以降10年、国の行政機関の定員数は約30万人のラインで保たれています。しかし嵐の始まりから、それが収まるまでの間に10%超の定員が失われました。
こうした中で従前の行政機能を維持しようとした官庁が「補助金執行一般社団法人」を構想し、実行に移した。実際、朝日新聞が「経産省の民間委託」問題と題して配信している記事に出てくる経産省幹部の証言を見ると、そういった事情が垣間見えます。
そう考えると経産省の動機には一定の理解や同情ができるのですが、しかし、それが特定企業群との癒着や利益誘導に繋がったり、官製談合に当たるならば、話は別です。
「小さな政府」の導入に当たり、民力の活用は支持したとしても、そのような癒着や官製談合を支持した覚えはありません。
どうしても、その行政機能を維持するために癒着や官製談合が「必要悪」だと言うならば、本当にその行政機能が必要か否か、他の不要不急な行政機能を停止させて人員を回すことは出来ないか、一旦、本質論に立ち戻って議論を行う必要がございます。
どうしてもその行政機能が必要で、今後とも維持する必要があるならば、壊れた蛇口の様に公金を垂れ流す「委託事業」の形ではなく、再び公務員を増やす「大きな政府」に回帰することを考えなければなりません。一方で必要が無いならば「小さな政府」の本質を遵守して、必要のない行政機能を順次停止させねばなりません。そして、そのどちらでも無いならば、行政内部で行う事業も行政外部で行う事業も、それぞれに共通した管理運用が出来る様に、基盤づくりをしなければなりません。具体的には、全府省共通の法的拘束力を持ったルールの導入が考えられます。
共同通信の報道「事業の再委託、4省は上限5割 契約適正化で独自ルール」が明らかにした様に、現状のルールは法的拘束力を有さず、各府省が独自に策定・運用しています。少なくなった30万人の定員で、各府省がてんでバラバラな動きをしていては纏まるものも纏まらないのです。
今回の問題は、どの様に行政があるべきか、どの様に行政が運用されるべきか、日本という国のグランドデザインをもう一度熟考する、一つの機会にも思われるのでした。
そして、第二弾の記事で用いておりました行政事業レビューシートは、この問題を考える上で大いに役に立つ情報です。持続化給付金事業の再委託率が97%にも及ぶことが判明したのも、このシートあってのことでした。
⑥行政事業レビューで見る「環境共創イニシアチブ」
せっかくですので環境共創イニシアチブ自体の実態も見ておきましょう。
政府法人情報基盤「gBizINFO」で環境共創イニシアチブに関する過去の委託実績を調べてみると、最近こそ環境省から計160億円ほどの事業の委託を受けていますが、やはり経済産業省およびその外局たる資源エネルギー庁からの委託が圧倒的です。
とりわけ2014年度から2015年度の実績は圧巻で、10件全てが経済産業省からの受託であり、2年間の受託総額は2,068億円に及んでいます。
第二弾の記事で論じておりました通り、gBizINFOの情報には誤登載や重複があり、また定額補助金の事業は受託側が総取り出来る訳ではありませんから、2,068億円の全額がどこかへ行ったという訳ではありませんが、それにしても大した金額です。
そして最も金額の大きい「平成26年度地域工場・中小企業等省エネルギー設備導入促進事業費補助金(定額補助金:交付額929.5億円)」の行政事業レビューシートを見てみると、「人件費、旅費等」を使途として34億4900万円が支出されています。委託費や外注費こそなく、サービスデザイン推進協議会とは異なる様に思えるものの・・・。
事務費(人件費、旅費等)の額34億4900万円を、採択件数で割った時、その異常性に気がつきます。
採択件数(交付事業件数)は3,716件。これに総額885億円が交付されていますから、一件あたりの補助金交付実績は平均2382万円です。この採択に掛かった全体の事務費は34億4900万円ですので、一件あたりの事務費を算出すると・・・。34億4900万円÷3,716件=93万円に及んでいます。事務局は1件あたり約100万円のマージンを得ている訳です。
もちろん採択されずに落とされた応募者や交付後の監査もあるでしょうから、その分も加味しなければなりません。しかし仮に採択率が50%だとしても、応募一件あたりのマージンは約47万円。工場や中小企業を対象とした大規模補助金と言っても、どんな人日を積めばこの額になるのか、非常に高額な手数料が掛かっています。
もっと単純な事業も見てみましょう。
省エネ設備を導入しようとする事業者に対し、資金借り入れの利子を補助する「平成27年度エネルギー使用合理化特定設備等導入促進事業費補助金(定額補助金:23億2600万円)」の行政事業レビューシートではいかがでしょうか。
343件分の利子を補給する事務費として出捐された金額は2800万円。
一件あたりの事務費は、2800万円÷343件=8万1633円。サービスデザイン推進協議会のIT導入補助金の事務費は1件あたり6万円超であり、それでも十分な高額でしたが、環境共創イニシアチブの事業では1件あたり8万円を超えており、比較的単純な事業でさえ、べらぼうなマージンが掛かっていることが分かります。
つまり環境共創イニシアチブの事業では、「人件費、旅費等」なる項目の比重が、その処理件数に比して異様な大きさとなっているのです。
発注者である経産省はこれらの事業に関する精算時の資料を持っているはずです。仮に「平成〇〇年度〜〜事業の精算に関する一切の資料」といった形で情報公開請求をかければ、十中八九、ありえないほど高額の人日単価か、あるいは法人内における下請け孫請けまがいのピラミッド型の事務費発生構造を(黒塗りでない限り)見出すことが出来るものでしょう。
サービスデザイン推進協議会の様に事務費の「使途・費目」をみれば資金の流出が一目瞭然というものもあれば、環境共創イニシアチブの様に一見では分からず、事業件数との対比で見て初めて異様な実態に気づくものもあります。サービスデザイン推進協議会については持続化給付金事務に当たって「9000人体制」を称しているものの、その末端の月給は手取り15万円程度と推定されることから、再委託だけではなく、人件費における中抜き構造をも掛け合わせている懸念があります。
ともあれ、様々な形で資金のブラックボックス化が図られており、不透明な実態ばかりが際立つ「補助金執行一般社団法人」群の事業なのでした。
環境共創イニシアチブについて言えば、2013年のBEMSアグリゲータ事件(復興予算を復興目的外に流用したことが発覚した事件。経産省が「既に執行済みで国庫返還不能」と公称していた額のうち、約7割に当たる225億円がプールされていた事が発覚した)の当事者であった訳ですから、この時点で膿を出す機会はあったのですが、残念ながら未全に終わりました。
予算を執行済みと称してプールする方法は、古くは裏金づくり、近くは各省手持ちの特別会計(経済産業省系で巨大なものといえば、年間総額約2兆円におよぶエネルギー対策特別会計)における"霞が関埋蔵金"づくりに用いられてきましたが、東日本大震災における復興予算でも、そんなことをしてしまうのか・・・と当時、心底呆れたものでした。
そして、今回の疫病禍では更にずさんな形での資金の流れが指摘され、国会における議論の対象となっています。3,000億円に及ぶ事務費が予定されていた「Go To キャンペーン」については、環境共創イニシアチブが公募前にヒアリングを受けていたことが判明し、またサービスデザイン推進協議会の問題もあって仕切り直しとなりました。時を追うごとにひどくなる官民の癒着。あまりにも不均衡な現状を、いい加減に清算すべき時かも知れません。
⑦消された「定款」
ところで、現在の「一般社団法人 環境共創イニシアチブ(SII)」の定款URLを見た時、強い既視感(デジャブ)を覚えました。URLの末尾に表記されたPDFの名前が「sii_teikan_h280224_2.pdf」となっているのです。
「_2.pdf」。第一弾の記事を書いた際、他ならぬサービスデザイン推進協議会の定款プロパティが削除・改ざんされた時と同じ現象が起きています。サービスデザイン推進協議会の時は、元々存在したPDF「SDEC_AOI_20161213.pdf」が削除・無効化され、代わりに「SDEC_AOI_20161213_20.pdf」となりました。今回は「_20.pdf」ならぬ「_2.pdf」の登場です。
試みにgoogleで「_2」を外したURL「https://sii.or.jp/company/koukai/file/sii_teikan_h280224.pdf」を検索してみると、あにはからんや、やはり元の定款PDFが存在した痕跡が残っています。グーグルの検索結果に残っているということは、グーグルのWebクローラーがページを収集した時点では、元の定款PDFがあったということ。
メインのリンク先は当然ながら「Not Found」が表示され、元の定款は削除されておりました。しかし、そう簡単には痕跡まで消せません。タイトル横の「▼(逆三角)印」をクリックし、キャッシュをスクロールしていくと、しっかりと定款の痕跡が残っているのでした。
相変わらず仕事が雑というか何というか、本当にデジタルリテラシー(ITリテラシー)をお持ちでないのだな・・・と少し悲しくなる事象でもありました。
そして、その削除時期についても、ある程度絞り込むことが可能です。
ウェブクローラーが定款に付した日にちは「2016/2/24」。削除の日は当然それ以降です。そして、検索結果の2番目に出てくる「2020/5/27」付の@megamouth_blog氏のツイートをみてみると、「_2」の付かない「sii_teikan_h280224.pdf」のURLを挙げて、「別の団体なのにタイトルが「補助金執行一般社団法人(仮称)定款(案)」になっているpdfをたまたま見つけたんだよなあ」と仰っているのでした。
2020年5月27日とは他ならぬ週刊文春による第一弾の記事が出た当日です。2016年から2020年5月27日までは存在した定款が、6月初頭の時点では突如「_2」に差し替えられ、プロパティもまっさらになり、経産省の関与を示すデータが削除されている。サービスデザイン推進協議会と環境共創イニシアチブ、経済産業省との間に関連を見出すな、という方が無理というものでしょう。
経済産業省自身の仕業か、サービスデザイン推進協議会と環境共創イニシアチブの裏側に潜むもの達(両者に共通するのは、電通、トランス・コスモス、みずほ銀行、大日本印刷など)の仕業か。あるいはその両方か。いずれの仕業によるものかは分かりませんが、削除の事実さえ満足にコントロール出来ていないのです。
数百万に及ぶ中小企業・個人事業主の売上その他の枢要な情報を扱わせ、その生命線となる「持続化給付金」の事務処理を行わせる団体として果たして的確なのか。再委託先が持っていると自称する「競争力」なるものの正体も含めて、疑問符が湧くところでした。
ひとまずのまとめ
5月2日に第一弾の記事を書いた時、公開初日の記事PV数は「5」でした。それから5週間が経った、6月13日現在の記事PV数は「502,491」。実に十万倍以上に増えており、第一弾から第三弾までを通算した全体ビュー数は100万PVに近づいています。
たった一人の小さな呟きが、本当に多くの方々のお力をもって、国会における質疑の俎上にのぼり、マスメディアの報道の対象となる様になりました。これは謙遜でも何でもなく実感として抱いている感想なのですが、この「うねり」を生み出したのは記事を読んでくださり、一緒になって考えてくださった、皆様ひとりひとりの力によるものです。
映画「シン・ゴジラ」ではありませんが「この国はまだまだやれる。そう感じるよ」と思う5週間でありました。
これまでの記事でお示ししてきた調査手法は、誰もが確認でき、誰もが用いる事のできる手法です。パソコンさえあれば誰もがイーブンな状態で情報にアクセスでき、事実に基づいて議論を深めることが出来る。そして令和2年(2020年)6月13日、東京新聞はまさにこの手法を用いて、新たな事実を明らかにしてくれました。
マスコミだけではありません。この手段は誰も彼もに開かれています。つまり、誰もが国家の主権者として、ファクトシートを吟味し、一方でこれを監視し、もう一方でこれを評価する、そういった時代が到来しているのです。
今回のサービスデザイン推進協議会をめぐる問題、持続化給付金をめぐる問題がどの様な決着を迎えるかは、まだ予断を許しません。5月の当初に持続化給付金を申請したはずの「初日組・2日組」のうち実に1万件を超える方々が未だ受給できていない事実も発覚し、足元の運用レベルの点でも問題は山積しています。
設立経緯や不透明な資金の流れについても、頬っ被りで解明されないままに終わる可能性は存在しています。しかし、諦める必要はありません。閉じられた箱は何度でも開け直せば良いのです。そして、その道具は既にお手元にあるはずです。インターネットがもたらした時代、21世紀に私達は住んでいます。(了)
追記:マイナポイントの怪
記事を書き終えて、「環境共創イニシアチブ」の名前の検索結果を見ていた際、一つの情報に気が付きました。
2020年9月にスタート予定の「マイナンバーカードを活用した消費活性化と官民共同利用型キャッシュレス決済基盤の構築事業」、通称「マイナポイント事業」の事務局に、一般社団法人環境共創イニシアチブが選定されていたのです。
省エネ、とりわけエネルギー特別会計(エネ特)の委託事業を主に受けてきたはずの環境共創イニシアチブがなぜ突然、マイナンバーポイント!? と思い、現在公開されている定款を見直したのですが、該当する目的規定は存在せず。環境・エネルギー市場に関する言葉が踊るのみで、個人番号カードの「こ」の字も、マイナンバーカードの「マ」の字も出てきません。
てっきり事業への応募(公示時期は令和元年12月6日でした)にあたって、目的規定を変えたのかな…と思って、最新の登記情報を閲覧しましたが、やはり記載なし。
民法は第34条において「法人は、法令の規定に従い、定款その他の基本約款で定められた目的の範囲内において、権利を有し、義務を負う。」と定めています。
そして目的外の行為については「範囲外の行為を目的とするものとして無効であると解する」のが最高裁判所の判例(南九州税理士会事件、最判H8.3.19 民集第50巻3号615頁)です。
この「目的」の解釈については、文言のみにとらわれない趣旨解釈が行われるのですが、環境共創イニシアチブの目的規定をどう好意的に捉えたとしても個人番号に関する委託事業が出てくる余地はなく、現状の定款をベースとする限り「環境共創イニシアチブは目的外行為を受託している(違法状態にある)」疑いがあると言うことが出来そうです。
定款の遺漏は、政府の布マスク配布事業の受注者であった「株式会社ユースビオ」でも見られた事象ですが、今回のマイナンバーポイント事業の事業費は、ユースビオの受注額4億円の比ではありません。
事業を所管する総務省の資料を見てみましょう。
令和元年(2019年)12月20日のデジタル・ガバメント閣僚会議に提出された資料の2ページ目によれば、この事業には、令和元年度補正予算で21億円、令和2年度予算で2478億円、締めて2499億円の予算が計上されています。
この内訳については、総務省の補助事業の募集についての公示が明らかにしているのですが、令和元年度補正「マイナポイント事業(準備事業)」も令2年度「マイナポイント事業」も同一の者が行うことを前提としているため、上記の約2500億円がまるごと事務局へと流れ込むことになります。
そして、その2500億円のうち、実際に国民に支給される金額について一つ上のスライドを再度確認すると、マイキーIDを設定した「4,000万人」に対しての「5,000ポイント」。1p=1円とのことですので、4000万×5000=2000億円となります。すると2500億円-2000億円=500億円が事務局の事務費となるわけです。
キャッシュレス推進協議会では316億円。サービスデザイン推進協議会では749億円。事務費の中から、現在判明している事業だけでも、これだけの金額が株式会社電通へと流れ込んだ訳ですが、果たしてこの500億円はどうなるのか。
いつの間にやら、この人達、(サービスデザイン推進協議会の過去の事業でたびたび登場した)経産省 商務・サービスGもマイナポイント事業へと動き出しており、いよいよもって同一の構図への危惧を感じるのでした。
「補助金執行一般社団法人」をめぐる事態は、国会の論戦の足元においても進行していたのです。
総務省におかれては総務省設置法に定められた任務規定(第4条)の通り、各行政機関の業務の実施状況の監視(同条第12号)および官民競争入札及び民間競争入札の実施の監理(同条第5号)を徹底し、適切な管理運用をしてくれると信じていますが、どうか「総務省よ、お前もか・・・」とは言わせないで欲しいと強く思うのでした。
<これまでの記事>
<第一弾>一般社団法人サービスデザイン推進協議会とは何者か。「持続化給付金」事務局の謎めいた正体を考える。
<第二弾>【続報】資金の流れから一般社団法人サービスデザイン推進協議会の実態を考える。/「持続化給付金」事務局の謎めいた正体を考える(その2)
<第三弾>一般社団法人サービスデザイン推進協議会の裏側に潜むもの/「持続化給付金」事務局の謎めいた正体を考える(その3)
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