ブラオケ的ゲーム音楽名曲名盤紹介〜玉響の記憶〜 #1『Distant Worlds - music from FINAL FANTASY』

 ゲーム音楽の名盤紹介として、まずご紹介したいのは、ファイナルファンタジーのDistant Worldsシリーズだ。ファイナルファンタジー(FF)と言えば、RPGゲームをやる人であれば知らない人はほぼ居ないであろう。スクウェア・エニックス社から販売されている超人気ゲーム作品であり、2022年8月現在では、既に15番目となるファイナルファンタジーXVが発売されている。当初は、あらゆる力の源とされる「クリスタル」を中心とした世界観が描かれることが多かったが、Ⅶ以降は大きく世界観が変わっており、クリスタルの世界観に囚われない様々な世界が描かれる傾向にある。そのため、FFの初期作品が発売された1987年頃からのファンにとっては、この世界観の変遷というのは良くも悪くも非常に印象的であったと想定される。私もⅦを初めてやったときは、あまりの世界観の違いに最初は戸惑ったことを記憶している。

 一方、BGMとして流れる楽曲については、初期から植松伸夫氏が手掛けており、非常にクオリティの高い楽曲が多く存在する。比較として、ドラゴンクエスト(ドラクエ)が良く例に挙げられるが、ストーリーもさることながら、楽曲についてはドラクエ派かFF派か…といった議論も良くあり、私も高校生くらいの頃は吹奏楽部内で熱く議論したものであった。結局のところ、それぞれの作品のBGMを比較すること自体に意味は無く、それぞれの作品の世界観を音楽という手段を通じてどのように表現するか…なので、結果論としてFFの楽曲の方が好きなら、それで良いと思う。

 さて、今回ご紹介する『Distant Worldsシリーズ』というのは、FFの作曲者である植松伸夫氏の監修により完成したシリーズものであり、所謂、FFの数あるBGMの幾つかをオーケストラアレンジしたものである。しかも、オーケストラはノーベル賞授賞式等でも演奏している王立ストックホルムフィルハーモニー管弦楽団、合唱団は様々な国際コンクールで賞を獲得しているウプサラ大学合唱団で、指揮者としてアーニー・ロス氏が担当しており、演奏そのもののクオリティが非常に高いというのが特徴である。これまで、FF楽曲の様々なオーケストラアレンジのCDが発売されてきたが、今回のシリーズはまさに本物であり、最初に聴いたときの衝撃は未だに良く覚えている。なお、本シリーズは今日時点で既に4種類のCDが販売されており、それぞれのCDには下記楽曲が盛り込まれている。

Distant Worlds : music from FINAL FANTASY

  1. オープニング ~ 爆破ミッション
    (FINAL FANTASY VII)

  2. Liberi Fatali
    (FINAL FANTASY VIII

  3. エアリスのテーマ
     (FINAL FANTASY VII)

  4. Fisherman’s Horizon
    (FINAL FANTASY VIII)

  5. Don’t be Afraid
    (FINAL FANTASY VIII)

  6. オープニングテーマより石の記憶
    (FINAL FANTASY XI)

  7. メドレー 2002
    (FINAL FANTASY I~III)

  8. 愛のテーマ
    (FINAL FANTASY IV)

  9. Vamo’ alla Flamenco
    (FINAL FANTASY IX)

  10. Love Grows
    (FINAL FANTASY VIII)

  11. オペラ “マリアとドラクゥ”
    (FINAL FANTASY VI)

  12. Swing de Chocobo
    (FINAL FANTASY SERIES)

  13. 片翼の天使
    (FINAL FANTASY VII)

     

Distant Worlds Ⅱ: more music from FINAL FANTASY

  1. プレリュード
    (FINAL FANTASY SERIES)

  2. The Man with the Machine Gun 
    (FINAL FANTASY VIII)

  3. Ronfaure
    (FINAL FANTASY XI)

  4. いつか帰るところ ~ Melodies of Life  (FINAL FANTASY IX)

  5. ザナルカンドにて
    (FINAL FANTASY X)

  6. 妖星乱舞
    (FINAL FANTASY VI)

  7. 勝利のテーマ
    (FINAL FANTASY SERIES)

  8. 素敵だね
    (FINAL FANTASY X)

  9. ティナのテーマ
    (FINAL FANTASY VI)

  10. F.F.VIIメインテーマ
    (FINAL FANTASY VII)

  11. プリマビスタ楽団
    (FINAL FANTASY IX)

  12. 親愛なる友へ
    (FINAL FANTASY V)

  13. J-E-N-O-V-A
    (FINAL FANTASY VII)

Distant Worlds Ⅲ: more music from FINAL FANTASY

  1. 祈りの歌 ~ 異界送り
    (FINAL FANTASY X)

  2. バトル&勝利のファンファーレ メドレー(FINAL FANTASY SERIES)

  3. Kiss Me Good-Bye
    (FINAL FANTASY XII)

  4. 独りじゃない
    (FINAL FANTASY IX)

  5. Balamb GARDEN ~ Ami
    (FINAL FANTASY VIII)

  6. キャラクターテーマ メドレー
    (FINAL FANTASY VI)

  7. ファブラ・ノヴァ・クリスタリス
    (FINAL FANTASY XIII)

  8. 閃光 
    (FINAL FANTASY XIII)

  9. 原始の審判
    (FINAL FANTASY XIV)

  10. ローズ・オブ・メイ
    (FINAL FANTASY IX)

  11. チョコボメドレー2012
     (FINAL FANTASY SERIES)

  12. 蘇る緑
    (FINAL FANTASY VI)

  13. Answers
    (FINAL FANTASY XIV)

 


Distant Worlds Ⅳ: more music from FINAL FANTASY

  1. 完全なるジェノヴァ
    (FINAL FANTASY VII)

  2. ゴルベーザ四天王とのバトル
    (FINAL FANTASY IV)

  3. 東ダルマスカ砂漠
    (FINAL FANTASY XII)

  4. 迷いの森
    (FINAL FANTASY VI)

  5. The Oath
    (FINAL FANTASY VIII)

  6. APOCALYPSIS NOCTIS
    (FINAL FANTASY XV)

  7. ハンターチャンス
    (FINAL FANTASY IX)

  8. Dragonsong
    (FINAL FANTASY XIV)

  9. ファイナルファンタジーV メインテーマ(FINAL FANTASY V)

  10. 風の追憶 ~ 悠久の風伝説 ~
    (FINAL FANTASY Ⅲ)

  11. 星降る峡谷
    (FINAL FANTASY VII)

  12. ファングのテーマ
    (FINAL FANTASY XIII)

  13. Somnus (Instrumental Version)  (FINAL FANTASY XV)

  14. 天より降りし力
    (FINAL FANTASY XIV)

  15. FINAL FANTASY
    (FINAL FANTASY SERIES)

 

 どの楽曲も非常に素晴らしいが、ここでは、私が特に印象的に感じた楽曲として3曲ほどピックアップして一言添えたい。

妖星乱舞 (FINAL FANTASY VI)

「妖星乱舞」はFF VIのラスボスとの闘いで流れるBGMである。どの曲か分からない人は、ゲームで使用されている元音源を是非聴いて頂きたい。

 元音源は18分程度となっているが、本CDのオーケストラアレンジにおいては10分程度に短縮されている。本楽曲は大きく4つの楽章から成り、それぞれの楽章が使われるシーンは以下の通り。


第1楽章:魔神をモチーフとした「顔」「長い腕」「短い腕」との戦闘シーン

第2楽章:鬼神をモチーフとした「虎」「機械」「魔法」「殴る」との戦闘シーン

第3楽章:女神をモチーフとした「まりあ」「眠り」との戦闘シーン

第4楽章:ラスボス「ケフカ」との戦闘シーン

 元音源を聴いて分かる通り、全体的にパイプオルガンを多用する楽曲となっており、第3楽章においてはJ.S.バッハの「トッカータとフーガ BWV.565」のフーガをベースとしたものとなっているため、教会を彷彿させる部分が多い。本オーケストラアレンジにおいても、本物のパイプオルガンを使っており、驚くほど雰囲気が緻密に再現出来ている。なお、本楽曲はFF作品の中でも人気ある楽曲なため、様々なオーケストラでの演奏がYouTubeでも聴けるが、本CDほど丁寧且つ正確なパイプオルガンは他では聴けない。パイプオルガンは鍵盤が異常に重く、様々なYouTubeでパイプオルガンの演奏が微妙な状態になっているのは物理的にも仕方無いことと思うのだが、本CDのパイプオルガンは本当に素晴らしいので、是非聴いて頂きたい。そして、パイプオルガンの長いソロが終わった後の第4楽章の前半は、本CDではロックバンドでの演奏となっている。これがまた非常にカッコいい。やがて、オーケストラやコーラスと合流し、世界の終わりを彷彿させるような悲壮的なフレーズで締められる。

 本録音は、植松氏の本気が垣間見れる録音だと感じている。クラシックをやってる人も、ロックをやってる人も、双方がカッコいいと感じられる素晴らしい演奏となっているため、是非聴いて頂きたい。

オペラ『マリアとドラクゥ』(FINAL FANTASY VI)

「マリアとドラクゥ」はFF VIのオペラ劇場でのシーンに流れるBGMである。ゲームで使用されている元音源と動画はコチラ。

 当初、植松氏はオペラのことを良く知らずに本楽曲を作曲したと言われており、ドラクエの作曲者すぎやまこういち氏からも電話で『オペラのこと知らないでしょ』と指摘されたことがあるとのことだが、本オーケストラアレンジを聴くと、オペラらしいオーケストレーションが施されており、決して軽率にアレンジしたものでは無いということがすぐに分かるほどクオリティが高い。本楽曲が作曲されたのがFF VIが発売される1994年頃、本CDの発売が2009年であることを考えると、この間に相当なご経験をされたのだと推測される。

さて、本楽曲は4つの楽章から成り、オペラのストーリーに沿って楽章形式で分けられている。どの楽章も、実際にゲームをやったことがある人にとっては、聴けばシーンが思い出されるであろう。


第1楽章:序曲

第2楽章:アリア

第3楽章:婚礼のワルツ

第4楽章:大団円

私がFF VIをやってた頃、このシーンにおいては「実際の歌声だったらどんな風になるのだろう…」と思いながらゲームを進めていた。元音源を聴いて分かる通り、当時のゲーム機のスペック上、どうしても実際の歌声並みのクオリティでBGMを流すことが出来なかったので、明らかな機械の歌声であり、微妙な感情を抱いたのを記憶している。そんな状態だったので、本CDを最初に聴いたときは非常に衝撃的であった。同じような気持ちを抱いた人が居れば、是非聴いて頂きたい。なお、歌手にはストックホルムにあるユニバーシティカレッジオブオペラ出身の歌手が起用されており、具体的には、ソプラノはEmma Wetter氏、テノールはFredrik Strid氏、バスにはJohan Schinkler氏が起用されている。

メドレー 2002 (FINAL FANTASY I~Ⅲ)

本楽曲はFFの初期作品から以下の6つの楽曲をピックアップしてメドレー化したものである。

1曲目:プレリュード
(FINAL FANTASY SERIES)
2曲目:メインテーマ
(FINAL FANTASY I)
3曲目:マトーヤの洞窟
(FINAL FANTASY I)
4曲目:水の巫女エリア
(FINAL FANTASY III
5曲目:チョコボのテーマ
(FINAL FANTASY SERIES)
6曲目:反乱軍のテーマ
(FINAL FANTASY II)

 なお、各シリーズのゲームで使用されている元音源は下記の通り。

FF I

FF II

FF III

 FF Iで使用されている「メインテーマ」と「マトーヤの洞窟」は、元音源は軽快なサウンドとなっているが、本CDではかなり落ち着いたアレンジとなっている。一方で、FF IIで使用されている「反乱軍のテーマ」は、金管楽器の活躍により、かなりカッコよくアレンジされている。FF Iが発売されたのが1987年、IIが1988年、IIIが1990年であり、この頃のBGMは単音にちょっと毛が生えたレベルの数音がベースとなっていて、且つ、長い曲は作れないため、短いフレーズをリピートする必要があった。これは、カセットに搭載される記録媒体の容量に依存するのだが、この限られた数音を使って作曲しなければならないというゲーム音楽作曲家にとっては、非常に大変な時代であり、そんな環境下でありながら耳に残る楽曲を残した植松氏は本当に天才だと思う。現代では、技術の発展と共に、昔に比べて多くの音を使うことが出来るようになり、それ故、オーケストレーションにおいても自由度が高い環境となっている。昔の楽曲を今の環境下でアレンジを加えオーケストラで演奏すると、こんなにも素晴らしい楽曲になってしまうのか…と感動してしまったのは、まさに最後の「反乱軍のテーマ」である。トロンボーンによる主旋律の提示があったのち、オクターブ上でのトランペットによる主旋律が再度提示され、ちょっとした繋ぎを経たのち、ホルンによる主旋律の強奏があり、最後はトランペットにより締められる構成である。ゲームで使用される8小節の主旋律を様々な楽器でリピートしているだけではあるが、伴奏が充実していることもあり、十分にカッコいい構成となっている。特に驚いたのは音の配置の仕方である。主旋律の6小節目の和音の進行、そして、四声の動きが元音源では聴けない動きであり、非常にカッコイイ。是非注意して聴いて頂きたい部分である。

個人的にはFF IIは好きな楽曲が多かったので、「反乱軍のテーマ」のように、もっとIIの楽曲をもっと取り上げて欲しいと感じている。続編に期待したい。

 以上、今回はファイナルファンタジーの楽曲をオーケストラアレンジしたCDとして、Distant Worldsをご紹介させて頂いた。冒頭でも申し上げた通り、ファイナルファンタジーは様々なオーケストラアレンジのCDが発売されているが、今回ご紹介したDistant Worldsは本当にアレンジのクオリティが高く、また、演奏レベルも非常に高い。ゲームをやっていた人であれば、懐かしさも感じられる構成となっており、聴いて失敗することは無いと自信をもって言える。また、ゲームをやったことが無い人でも、十分に聴きごたえのある楽曲となっているため、是非聴いてみて頂きたい。

(文:マエストロ)

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