ブラオケ的名曲名盤紹介〜マニアックな世界へようこそ…〜 #7「高くなり響くトランペット集」

1.ハチャトゥリアン 交響曲3番「Symphonic Poem」

 今回はトランペットが活躍するクラシック音楽を紹介したい。「剣の舞」でおなじみのアラム・ハチャトゥリアンが作曲した交響曲3番「Symphonic Poem」だ。

ソビエト連邦の作曲家、ハチャトゥリアンが1947年にロシア革命30周年記念のために書いた作品。通常、交響曲は複数の楽章に分けて構成されることが多いが、この交響曲は単一楽章、約24分の作品だが、その内容から狂乱・史上最凶の交響曲ともいわれている。

 この曲、何より特徴的なのは、オーケストラとは別に15本のソロトランペットが登場することだ(だいたいは舞台最上段に登場)。

ヤナーチェクの「シンフォニエッタ」という曲にもオーケストラ以外に10名ほどのトランペットが登場するが、このハチャトゥリアンはそれを凌駕するし、また曲想も全然違うからぜひ比べて聴いていただきたいと思う。

 曲の始まりは弦楽器のトレモロによる「シ(H)」の弱音が銅鑼のロールと一緒にクレッシェンドしていき、頂点を迎えると15本のソロトランペットが耳を劈くファンファーレを奏で始める。1分半ほどのファンファーレが終わったと思うと、同じく15本のトランペットが小太鼓に乗ってリズムを刻みだす。
 hi-Cを連発させなきゃいけないキツいパートがあるが、それを担うのがソロトランペット10thというのも面白い。ソロトランペット15本の咆哮が終わると、オルガンの長い長い狂気的なトッカータへ突入するが、このオルガンは超絶技巧がゆえにカットされて演奏されることもあるそう。オルガンにソロトランペット15本の咆哮などが加わって阿鼻叫喚な時間が流れたと思うといったん落ち着き、やっとオーケストラの登場となる。

その後何度かクライマックスが訪れるが、ラストはオーケストラ、15本のソロトランペット、オルガンが奏でる音の渦に没入して鼻血が出そうになる。興奮冷めやらぬ中、「ド(C)」の最強奏によって曲は終わる。

 最初聴いた時には、ややとっつきにくく、とにかくうるさいという印象を受けたが、ハチャトゥリアンの他の曲でも聴けるようなどこか民族的なパッセージを楽しめる一方、恐怖さえ覚える阿鼻叫喚な一面もあるから、噛めば噛むほど面白いと感じることができたと、個人的には思う。ぜひ何度か聴いてほしい一曲だし、トランペット吹きであれば必聴な一曲だ。

 演奏難度およびその編成から、演奏機会も多くなく、加えて録音自体も少ないが、プロによるいくつかの演奏はYoutubeで視聴できる。ソビエトの曲ということで、やはりロシアのオーケストラによるパワフルな演奏がぴったり。キリル・コンドラシン指揮モスクワフィルの演奏を推したい。


2.ベルリオーズ レクイエム

 皆さんは「バンダ」という言葉をご存知だろうか。パンダとは舞台上のオーケストラなどの演奏者達とは離れた別の場所で演奏する演奏者達のことを言う。主には花道や舞台裏、さらには観客席側のどこかで演奏することもある。
 オーケストラや吹奏楽の作品のいくつかで、このバンダが取り入れられている作品は存在する。例えば吹奏楽でもよく演奏されるレスピーギの「ローマの祭り」、「ローマの松」。ローマの祭りではトランペット3本がバンダとして、祭りの開始を告げるファンファーレを吹くし、ローマの松ではクライマックスでトランペットとトロンボーンの6人ほどのバンダが登場し、壮麗な音響効果を演出する。いずれにも共通するように、バンダに用いられる楽器は主に金管楽器が多いのだ。離れていても音がよく通るという特徴がある金管楽器が、バンダにはうってつけなのだ。

 バンダの歴史は古く、古典派でもベートーヴェンのレオノーレ序曲2番と3番にバンダトランペットが使用されているのが有名。オーケストラが静まり返ったところでファンファーレを奏でるのだが、オーケストラから離れたところで演奏するので、遠くから聴こえるという音響効果がある。一方、ベートーヴェンの少し後でフランスで活躍したエクトル・ベルリオーズにもパンダを使った曲があるのでここで紹介したい。

 その曲とはレクイエム「死者のための大ミサ曲」。オーケストラとは別に4方に分かれたバンダ(スコア上36名!の金管奏者)が必要。トランペット(コルネット)はもちろん、トロンボーン、チューバもバンダを担う(ホルンはオーケストラ上に9人必要)。規格外の規模ゆえ、バンダの人数を減らして演奏されることもある。曲は10曲に分かれ90分の演奏時間を要する大曲である。

 第二曲「怒りの日」と第六曲「涙の日」にて、バンダが登場する(他の曲にも登場しているが、この2曲は特に目立つ)。ここではまず最大限に盛り上がる第二曲「怒りの日」について書こうと思う。

 「怒りの日」はバンダが大活躍する曲でもあるが、同時に打楽器、特にティンパニ8セット(16個)を10人で演奏するというこちらも規格外の内容となっている。バンダが登場するのは「怒りの日」の中盤以降で、4方に分かれたバンダによるファンファーレが会場に鳴り響き渡る。物凄いサラウンド効果だ。ファンファーレが頂点をむかえると、ティンパニ10人の連打に乗って合唱が加わると言った感じで曲は進み、これ以上無い迫力で曲は締め括られる。
 第六曲の「涙の日」もバンダが活躍するが、ティンパニの轟音が未曾有でかつバンダのインパクトがより有る「怒りの日」をまずは聴いてほしいと思う。

 これほどの編成なので、演奏機会が極めて少ない曲であるが、いくつかの演奏はYouTube上で確認できる。ライブ映像のこちらは礼拝堂(?)のような場所で行われているが、サラウンド効果が凄そうだ。

Youtube


3.サモン・ザ・ヒーロー(ジョン・ウィリアムズ)

 トランペット奏者であれば、例えばスターウォーズのメインテーマがHi-B(シ♭)から始まることや、それを作曲したジョン・ウィリアムズがトランペットの活躍するいくつかの映画音楽を作曲していることはご存知だろう。今回ご紹介する曲は、そんなジョン・ウィリアムズによって作曲された1996年のアトランタオリンピックのテーマ曲である「サモン・ザ・ヒーロー」だ。

 ジョン・ウィリアムズはスターウォーズ、ジュラシックパーク、ETやハリーポッターといった数々のハリウッド映画の音楽を作曲している。2024年8月現在、92歳でご健在であり、来日してオーケストラの指揮をとり自作自演をしたこともある。

 そんなジョン・ウィリアムズはスポーツの祭典であるオリンピックのテーマ曲も作曲している。1984年のロサンゼルスオリンピックでの「オリンピックファンファーレとテーマ」、2002年のソルトレイクシティ冬季オリンピックの「コール・オブ・チャンピオン」、そして今回紹介する1996年アトランタオリンピックのテーマ曲「サモン・ザ・ヒーロー」だ。

 この曲は約7分のオーケストラ曲だが、吹奏楽版に編曲されてもいる。吹奏楽版は知りうる限り、原曲よりキーが1音低い。オーケストラ版ははじめニ長調(D)だが、吹奏楽版はハ長調(C)で始まる。
 曲はトランペットの堂々たるファンファーレから始まる。この曲はトランペットが6パートあり、うち3パートはバンダとしてステージ外で演奏されることも多い。トランペットのファンファーレにトロンボーンやホルンが加わりファンファーレは大きな盛り上がりを見せる。このファンファーレではトランペットが3パートずつに分かれ、それぞれが主旋律と対旋律を演奏している。ファンファーレが終わると、そのままトランペットのソロが始まるがこれはトランペット吹きとしては胸を張って吹きたくなること間違いなしのソロだ。静かな弦楽器の伴奏に乗って奏でられるソロの旋律は、一度聴いたら吹いてみたくなることも間違いなし。
 ソロが終わっても所々トランペットのファンファーレが鳴り響いたりで、トランペットは終始休む暇がないから大変そうな曲だ。6パートあるとはいえ、常にメロディーかあるいは対旋律を吹いているから曲の半分にしてバテテしまいそう。7分ほどの曲とはいえ非常に高カロリー。よっぽど体力に自信があるトランペット吹きでなければ敬遠しちゃいそう。とはいってもトランペットじゃなくてホルンやトロンボーンも吹きっぱなしなのできっとツライ・・・。

 ただ何といっても名曲といえる映画音楽を何曲も世に出したジョン・ウィリアムズの曲ということもあり、旋律はめちゃくちゃかっこいい。トランペット吹きに限らず、すべての楽器演奏者に聴いてほしい一曲だ。以下にYoutubeのリンクを共有するが、この演奏では金管楽器がみなオーケストラから離れた場所で演奏している(といっても舞台後方観客席の後ろや両サイドだが)。とにかく格好いいので聴いてほしい。

 以上、トランペットが活躍するおすすめ曲集である。
 お時間ある際は是非きいていただきたい。
                                     文:T

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