INTERVIEW: アリーナ+ジェフ・ブリゥミス
「夫婦でもある2人組のアーティストが、家族の晩ご飯への招待と引き換えに絵画をプレゼントします。詳細はメールか電話でお問い合わせください」と地域の住民に声をかけ、一般家庭の夕食へとアーティストが赴き、ご飯を食べて絵画を渡し、写真を撮影するというプロジェクト《家族の晩ご飯へ贈られる絵画 東京編》を東京ビエンナーレで準備しているアリーナ・ブリゥミス+ジェフ・ブリゥミス。彼らはニューヨークを拠点に、コミュニケーションとコミュニティにまつわる様々なプロジェクトを行っている。アリーナ+ジェフの2人に東京ビエンナーレへの思いをメールで伺った。
インタビュー&執筆:上條桂子、翻訳協力:宮内芽依(東京ビエンナーレ事務局)
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https://tb2020.jp/project/a-painting-for-a-family-dinner-tokyo-japan/
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http://www.alinajeffbliumis.com/
コミュニティやアイデンティティ
はどうやって形成されるのかを探る
東京ビエンナーレ(以下、T):お二人のプロジェクトは《Casual Conversations project》、《CULTURAL TIPS FOR...》《A PAINTING FOR A FAMILY DINNER》等、自らの出生とは異なるコミュニティのことを考えるきっかけになるものが多いように感じます。お二人がプロジェクトを立ち上げる時に、最初に考えるのはどういうことですか?
アリーナ・ブリゥミス+ジェフ・ブリゥミス(以下A + J):私たちは2人とも家族でアメリカに移住してきました。ジェフは10代の頃にモルドバの首都キシニョフから、アリーナは高校を卒業してすぐにベラルーシのミンスクから。なので私たちの作品では、旅における身体的、政治的、社会文化的な考え方が反映されているのだと思います。外国人であること─つまりこの土地の出身ではない人は、厳格な社会的・文化的なルールを知らず知らずのうちに破ってしまうような人だと見なされることが多い。こうした社会的・文化的基準の定義というものは、多くの場合、その土地で築かれてきた社会を指します。
私たちのプロジェクトは、コミュニケーションという優れた媒体を用い、何がコミュニティを構成しているのか、何が境界線を作ってしまうのか、そして前者(コミュニティ)が後者(コミュニケーション)によってどのように形成されるのか、疑問を投げかけているのです。プロジェクトで私たちが最も大切にしているのは、言語それ自体が国境として、権力のパラダイムとして機能すること、またコミュニティをフレーム化するために言語が使われることがある、ということを認識することです。文学理論家のレオ・ベルサーニの言葉を借りれば、言語は単にアイデンティティを記述するだけのものではなく、実際にアイデンティティを生み出すものであるのです。
私たちが作品を構築する際は、だいたいにおいてリサーチに基づいてテーマにアプローチし、さらに深堀りした調査を行い、過去の文献などからの引用を用い、統計を集めたりして、それを総合的なイマジネーションとして構築していきます。そうしたコミュニティへの調査は、平面の作品になったり、インスタレーション、パフォーマンスやレクチャーへと往々にして多様な形に変容していくのです。
Alina and Jeff Bliumis
Cultural Tips For New Americans, 2009-2011, Public Art Project, New York
T:世界的にコミュニティの分断が叫ばれており、コロナをきっかけにその分断はさらに拡大していくのではないかと思われます。そんな中、アーティストにできることは何だと思われますか?
A+J:コロナの時代がもたらした変化について、私たちは多くのことを考えています。国境が閉鎖され、人々は自宅からリモートで仕事をするように奨励されていますが、一方でアメリカでのBLM(Black Lives Matter)運動やベラルーシのミンスクでの選挙抗議(注:大統領選での不正疑惑をめぐりアレクサンドル・ルカシェンコ大統領の退陣を求める大規模な抗議デモ「英雄の行進」が行われ、数万人が参加した)など、何千人もの人々が一緒になって正義を求める活発な抗議運動が世界中で見られます。アーティストを含む私たちみんなにとって、コロナがもたらした時間は、共同体、仕事、個人的な生活のすべての側面を振り返り、何が本当に本質的で重要なのかを見極めるためのいい時間なのだと感じています。
Alina Bliumis
Masses series
2019-2020
Watercolor on printed cotton, wood, 83 x 58 in / 210 x 147 cm each
T:「A PAINTING FOR A FAMILY DINNER」(《家族の晩ご飯へ贈られる絵画 東京編》の元になったプロジェクト)のプロジェクトについてお聞きしたいと思います。このプロジェクトがスタートしたのは、2008年のイスラエルと書いてありましたが、その時はどんなことがきっかけでプロジェクトを始められたのでしょうか? また、その後いくつかの場所でプロジェクトを継続して行っていますが、それは何故ですか?
A+J:2008年、イスラエルのバットヤム美術館で開催された「ホスティング」という展覧会に参加する際の企画書を提出することになりました。私たちは「A PAINTING FOR A FAMILY DINNER」プロジェクトのコンセプトを提案したのですが、まだジャストアイデアであり、このプロジェクトは地元の芸術団体の協力なしには成り立たないことがわかっていました。新聞で告知した参加募集に反応してくれる家族があるかどうかはわかりませんでしたが、担当キュレーターは楽観視していました。でも驚いたことに、私たちはプロジェクトの実施期間中に新しい6つの家族に出会うことができたのです。そこで私たちはそれぞれの家族のホスピタリティや寛大さ、歓迎の心、そして見知らぬ人とコミュニケーションをとろうとする態度に驚かされました。
次にこのプロジェクトを実施したブロンクスでは、NYのアート非営利団体No Longer Emptyの招聘を受けたもので、ブロンクス美術館で展示を行いました。私たちは14日間で13家族を訪問しましたが、国も文化も違い、出会った家族はそれぞれ異なる形で出迎えてくれて、寛大で、歓迎をしてくれて、とても楽しくコミュニケーションできたのです。その時に、世界各国で積極的にこのプロジェクトを実施をしていこうと決めました。
このプロジェクトを様々な場所で実施することで、私たちは皆、違う文化や伝統を持っていたり、違う言語を話ていますが、多くの点で私たちは共通しているのだということが明らかになりました。私たちのプロジェクトは、究極的には普遍的な人間らしさを表すのだと思います。
Alina and Jeff Bliumis
A Painting For A Family Dinner, Bat Yam, Israel
2008
Alina and Jeff Bliumis
A Painting For A Family Dinner, Bronx, USA
2012
Alina and Jeff Bliumis
A Painting For A Family Dinner, Beijing, China
2013
Alina and Jeff Bliumis
A Painting For A Family Dinner, Lecce, Italy
2013
“違い”を理解しながら
他者とコミュニケーションをとること
T:今回はソーシャルダイブという枠でプロジェクトに参加されますが、東京という街のイメージ、ひいては現代日本のイメージをお聞かせください。
A+J:私たちは日本文化が大好きで、ニューヨークには日本人の友人が何人もいて、2008年には2週間ほど日本の南部へ旅行をしたことがあります。東京には行ったことがなくて、南の方とはかなり違うかもしれないと思っています。家族との交流を通して、初めての東京を体験できることを嬉しく思います。
T:東京ビエンナーレという芸術祭にどんなことを期待していますか?
A+J:アーティストと一般の人々が一堂に会して有意義な体験と会話ができること。なので、どんな壁や事情があっても「ソーシャル・ダイブ」を実現させたいと思います。
Alina and Jeff Bliumis
Language Barrier, Andes, NY, 2006-2008, Site-specific installation, Cast foam, acrylic, ink, Dimensions variable
T:発表される予定の作品の現在の状況を教えてください。どんな作品になりそうですか?
A+J:私たちのプロジェクト「A Painting For A Family Dinner」は、コミュニティのリアルな生活の中に根付いているもので、実施する土地の家族の参加を前提としているため、事前に準備できることはとても限られています。参加してもらう家族は、アーティストと対等で積極的に共同製作者となってもらいます。
Alina and Jeff Bliumis
We are ready!
Documentation of A Painting For A Family Dinner, Beijing, China
2013
T: コロナが世界中に猛威を振るっている現在、不便を強いられていると思います。コロナをきっかけにどんなことを考えましたか?
A+J:それが単に不便なだけではなく、悲劇であると感じています。多くの命が失われ、国境で移民の人々が立ち往生し、飢餓、恐怖、感情面でのストレスなどを感じている。けれども私たちは、人として一緒に集い、問題に直面し、あらゆるレベルでそれらを解決しなければならないのだと思います。
Jeff Bliumis
Supreme, oil on linen ,20 x 20 inches
2020
T:コロナ以後、人の移動が厳しくなると言われていますが、作品にはどんな影響が考えられますか? また、その対策としてどんなことを考えていらっしゃいますか?
A+J:例えば、私(アリーナ)はエストニアのタリンにあるKunstihoone(タリン・アートホール)で、7月16日から9月6日までの間、キュレーターのCorina L. Apostolによる展覧会「Narrating Against the Grain」に参加しました。幸いなことに、私は2月にアーティスト・トークのためにタリンにいたので、展示スペースを見ることができました。展覧会への出展はキャンセルされずに遠隔で仕事していたのですが、キュレーターとの距離は非常に近く、私たちのプランはすべて計画通りに設置できたのです。ビデオチャットを用いてアーティスト・トークもしました。また、タリン周辺に30本の旗を置くという大きなパブリックプロジェクトも行うことができました。アーティストは常に臨機応変に対応することが必要ですが、今回もそれは変わりませんでした。
この展示での私の作品は、旅やパスポート、国境や地球市民という概念をテーマにしたものを発表しましたが、本来認識されているような世界が「保留」されているこの時代に、これらの作品を発表することはとても興味深かったです。
Installation shot: ALINA BLIUMIS, NARRATING AGAINST THE GRAIN, Curated by Corina L. Apostol, Tallinn Art Hall, Estonia, July 17 - September 6, 2020
photo by: Paul_Kuimet
Installation shot: ALINA BLIUMIS, NARRATING AGAINST THE GRAIN, Curated by Corina L. Apostol, Tallinn Art Hall, Estonia, July 17 - September 6, 2020
photo by: Paul_Kuimet
ALINA BLIUMIS, AMATEUR BIG GAT WATCHING AT PASSPORT CONTROL FLAGS
30 flags at various location in Tallinn, Estonia; Part of NARRATING AGAINST THE GRAIN exhibition, curated by Corina L. Apostol at Tallinn Art Hall
July-September 2020, photo by: Paul_Kuimet
T:最後にお聞きします。作品を発表することで社会にどんなインパクトを与えられると考えていますか? また、アートにはどんな力があると思われますか?
A+J:私たちは芸術活動を通じて、ナショナル・アイデンティティを形成すること、その歴史的・地理的なルーツ、そして世界的な地政学における野心について、継続的な調査を行っています。私たちの作品の根底には、「違いを理解しながら他者とコミュニケーションをとりたい」という思いがあります。私たちは、《A Painting For A Family Dinner》、《Cultural Tips for New Americans》、《Casual Conversations》というプロジェクトのタイトルからもわかるように、見知らぬ人たちとのコミュニケーションの可能性を歓迎し、また、それを見に来たお客さんたちともアートを通じて、その可能性を広げていきたいと考えています。
Alina and Jeff Bliumis
Casual Conversations, 2007-2014, Series of 1914 photographs, C-print, 4 x 6 inches each
東京ビエンナーレのプロジェクト&プロフィールはこちら
https://tb2020.jp/project/a-painting-for-a-family-dinner-tokyo-japan/
アーティスト公式ウェブサイトはこちら
http://www.alinajeffbliumis.com/