INTERVIEW: ホズィーリス・ガヒード
空中アクロバットのパフォーマーとしてシルク・ド・ソレイユやフィリップ・ドゥクフレ・カンパニーで経験を積んだホズィーリス・ガヒード。サーカスやダンスといった身体表現と社会問題を繋ぎ合わせた表現活動を行っている。東京ビエンナーレでテーマにするのは「孤独死」だ。孤独死にまつわるリサーチを重ね、東京のまちのどこかで何かに「ぶらさがる」というパフォーマンスを行う予定だ。ガリードが考える、心の琴線に触れるアートとは。
インタビュー・文:上條桂子 協力:花岡美緒
ホズィーリス・ガヒードのプロジェクトはこちら
https://tb2020.jp/project/silently-inside/
今回「孤独死」というテーマに行き着いた理由は何ですか?これまで身体の「老い」をテーマに扱ったパフォーマンスを行ってこられたと思いますが、これまでテーマにされてきた「老い」から「孤独死」という異なるテーマを扱う中でご自身の中でどのような変化がありましたか?
このアイデアは、東京郊外に住む友人との会話の中で生まれました。老いとアートの話をすることは、私にとってとても貴重で解放的なことでした。また、孤独死に関する問いかけを思いついたのは、30代の終わり頃です。自分の年齢に対して、プロとしての市場価値に直面し、私はもはや必要とされていないのだと感じました。必要とされていないというこの立場は、リタイア後に一人になって、最終的に孤独死してしまう人の境遇に似ているように感じたのです。
「孤独死」と聞くとネガティブなイメージが多くの人にはあるかもしれませんが、そこにあるコノテーションと、あなたのパフォーマンスはどういう関係があるのでしょうか?
そう、孤独死と向き合うということは非常に困難だし、社会は孤独死を「醜い」ことだと見なしています。私のリサーチプロセスでは、孤独死を身近に感じた人たちから体験を聞き、それを自ら体験してみたいと思っています。私のコンセプトは、このテーマをより詩的で遊び心のあるものにすることだと考えています。それが辛くて、悲しくて、ある人にとっては不気味で醜いものであるならば...ですが。私はまた、美しい思い出を置き去りにしていったであろう亡くなった存在を詩に昇華する余地があると信じています。
今回はぶらさがるというパフォーマンスを予定されていますが、空間で身体表現をする際、何故「ぶらさがる」という行為をされようと思ったのでしょうか?
私のバックグラウンドは、空中アクロバットの世界です。私にとって「ぶら下がる」ということは、空間を立体的に使ってコミュニケーションをとることであり、同時にぶら下がる身体は、漂流する屍体──孤独死した人の発見遺体のようなものにも見えることでしょう。人間の身体の表現能力は、私たちが普段使っているよりもはるかに大きいのです。経験や思考を通じて自分自身を吊るす方法を見つけ、孤独死が私にとって何を意味するのかを考える道具として身体を使いながら、その可能性を探求したいと思っています。
今回は「東京」の街にダイブするソーシャルダイブの枠にご参加されますが、東京という街のイメージ、ひいては現代日本のイメージをお聞かせください。
私は東京が大好きです。2006年に東京で仕事をしていて、都会から少し離れたところに住んでいたのですが、私は恋に落ちました。私は東京という街についてあまり知識がありませんでしたが、エネルギーがあり、芸術があり、人生があります。この街でのダイビングをとても楽しみにしています。
コロナをきっかけにどんなことを考えましたか?
コロナは人類の地球に対する愛情のなさと閉鎖的な行動の結果なのだと思います。悲しくて、怖くて、不明確で、未知のものですが、それは私たち自身の創造物なのです。
コロナ以後、人の移動が厳しくなると言われていますが、作品にはどんな影響が考えられますか? また、その対策としてどんなことを考えていらっしゃいますか?
私は、大勢の観客やライブパフォーマンス、そしてたくさんの人々と直接会って仕事をしています。すべての仕事がキャンセルされ、2021年に延期されたりしており、(私たちはそうならないと願っていますが、これからどうなる予想もつかない現在を生きています。そして、今まで以上に自分自身をの新しい可能性を探す必要性があるのですが)。今は常に落胆と不安でいっぱいです。私はコロナの時代の結末を知りません。でも、多分とってもロマンチックでナイーブな方法で、より良い世界になること願い、より多くのエンパシーとともに未来の人や地球を大事に思い、思いやりと愛でより連帯していきたいと願っていますし、それができると信じています。
作品を発表することで社会にどんなインパクトを与えられると考えていますか? また、アートにはどんな力があると思われますか?
私は、内省と問いをもたらすアート作品で人々の心の琴線に触れたいと思っています。それは美しいこともあり、悲しいこともあるでしょう。また、何かを見るために立ち止まり、自分自身の限界を超えていく媒介でもあります。私は、それが一瞬のことでも、遠い未来のことであっても、人々の心に触れることで、人々の人生に“何か”をもたらしたいと思っています。私にとってアートとは空気です。澄んだ空気。呼吸するための澄んだ空気、そして心と心を革新するための空気です。あらゆるアートはコミュニケーションであり、生命であり、愛なのです。
ホズィーリス・ガヒードのプロジェクトはこちら
https://tb2020.jp/project/silently-inside/