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上村松園『焔(ほのお)』〜スランプを乗り越え、美人画の枠を超え内面の闇に迫る感情

気品あふれる作品群の中で、際立って異彩を放つ2枚の絵が存在します。それが『花がたみ』と『焔(ほのお)』です。美人画で知られる上村松園の作品の中でも異色の主題といえます。描くにあたっての経緯を紐解きます。

上村松園『焔』 1918年 東京国立博物館蔵

それまでの作風とは一線を画す異色の主題で挑んだ2作品

1915年に描かれた『花がたみ』は、謡曲「花筐」(はながたみ)を題材にしています。この物語は、継体天皇が皇子であった頃に愛されていた照日の前が、形見の花筐を手に都へ上り、紅葉狩りの折に帝の前で舞を披露するシーンが絵ががれています。

一方、1918年に完成した『焔』は、謡曲「葵上」をもとにしたもので、『源氏物語』に登場する嫉妬に狂った六条御息所の生霊をモチーフに描いています。打掛けには狂おしいほどに咲く藤の花と、それに絡みつく蜘蛛の巣が描かれています。女性の体や着物の柄に見られる様々な曲線が、嫉妬に揺れる彼女の姿を引き立てます。噛みしめた後れ毛や、見る者に強烈な迫力を伝えます。この作品は189×90cmの大作で、圧倒的な存在感を放っています。曽我蕭白の18世紀の作品『美人図』からも影響を受けているといわれます。

曾我蕭白筆『美人図』18世紀 奈良県立美術館蔵

保守的な女性像への批判に直面し、スランプに陥る松園

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