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『薄緑(膝丸)』と『髭切(鬼切)』二振りの名刀が見つめた源氏の時代と栄枯

試し切りで罪人の首とともに髭をも切り落とした「髭切」、罪人の膝まで切断した「膝丸」という逸話が名前の由来とされる二振りの名刀。日本刀の中でも特に伝説や物語に彩られた名刀のひとつです。その歴史は平安時代に始まり、源氏一族の運命や歴史的事件と深く結びつきながら語り継がれてきました。
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異国の鍛冶職人が生み出した二振りの名刀

源満仲は、価値ある刀を求めて国内外の刀工に依頼しましたが、満足のいくものは得られませんでした。そこで八幡神に祈りを捧げたところ、大陸から来た鍛冶職人に二振りの刀を作るための鉄を授けられます。こうして完成した刀が「髭切」と「膝丸」と名付けられ、源氏の栄光を象徴する存在として語り継がれています。

巨大な蜘蛛を討ち「蜘蛛切」の誕生

「膝丸」の有名な逸話の一つに、源頼光(満仲の嫡男)が山蜘蛛を退治した伝説が残ります。頼光が重い病に苦しんでいたある夜、背が7尺(約2メートル)を超える法師が現れ、頼光を縛ろうとしました。頼光は枕元に置いてあった「膝丸」を咄嗟に掴み、法師を切りつけると、その姿は消えてしまいます。

翌日、家臣たちが血痕を追跡したところ、北野の塚で巨大な山蜘蛛を発見し、討ち取ると頼光の病が治りました。この出来事を機に「膝丸」は「蜘蛛切」と名を改められ、怪異を払う刀として知られるようになりました。

鬼の腕を斬り落とした刀「鬼切」の物語

一方、「髭切」は鬼退治の伝説で名高い刀です。平安時代中期、源頼光に仕えた四天王の一人、渡辺綱がこの刀を使い、茨木童子との戦いで鬼の腕を切り落としたことで、その名を「鬼切」と改めました。

夜に吠える声を上げた刀の伝説

「膝丸」は頼光から源氏一族に受け継がれ、源為義(頼光の子孫)の時代に「吼丸」と名を改められます。この時代、「膝丸」が夜中に蛇のような音を発したため、「吼丸」と名付けられ、一方の「髭切」は獅子のように吠えたため「獅子ノ子」と呼ばれるようになりました。

また、「吼丸」は熊野権現に奉納されることになり、為義は惜しんで「獅子ノ子」を模して少し長い刀を作り、「小烏(こがらす)」と名付けました。小烏を障子に立てかけておくと、音を立てて倒れ、見てみると柄が短くなり、獅子ノ子と同じ長さになっていたという逸話も伝わっています。この出来事から「友のように近い存在」との意味を込めて「友切」と改名されました。

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