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サージェント『マダムX』一枚の絵が作り出したスキャンダルとその後の軌跡

『マダムX』は、ジョン・シンガー・サージェントが1884年に描いた肖像画で、ルイジアナ州出身のフランス系アメリカ人ヴィルジニー・アヴェニョ・ゴートローをモデルにしています。この作品は、上流社会で悪名高かった彼女の美しさと神秘的な雰囲気を大胆に描き出したものです。

ジョン・シンガー・サージェント『マダムX』あるいは『マダムXの肖像』 1884年
メトロポリタン美術館所蔵

モデルについて

『マダムX』のモデル、ヴィルジニー・アヴェニョ・ゴートローは、ルイジアナ州ニューオーリンズ生まれのフランス系アメリカ人で、フランスの銀行家と結婚し、パリの上流社会で暮らしていました。彼女はその美貌で知られる一方、不倫の噂でも注目を集めていました。ラベンダー色のパウダーで肌を白く見せるなど、美しさを誇りにし、「プロフェッショナルな美人」と呼ばれる存在でした。この言葉は、容姿を武器にして社会的地位を高める女性を指すものでした。

彼女の独特な美しさは多くの芸術家を魅了しました。アメリカ人画家のエドワード・シモンズは、「まるで鹿を追うように彼女を追わずにはいられなかった」と語っています。サージェントも彼女に強く惹かれ、彼女の肖像画がパリのサロンで話題を呼び、多くの依頼につながるだろうと期待しました。

ゴートローはこれまで多くの画家から肖像画の依頼を受けていましたが、ほとんど断っていました。しかし、1883年2月、サージェントの申し出を受け入れました。サージェントもまたフランスに移住した外国人であり、二人はフランス社会で地位を高めたいという共通の思いを抱いていました。この目的が二人を結びつけ、肖像画の制作が始まりました。

制作について

1883年夏に制作はまずパリで始まりましたが、ゴートローは社交の予定に追われ、なかなか進みませんでした。そこで、彼女の提案でサージェントは翌夏にブルターニュの彼女の邸宅を訪れ、一連の準備スケッチを行いました。この時点で約30枚のスケッチが生まれ、さまざまなポーズが試されましたが、最終的に採用されたポーズはそれらとは異なるものでした。

サージェントによる水彩画とグラファイトによる人物研究、 1883 年頃 ハーバード美術館所蔵

『マダムX』でのポーズは、ゴートローの美しさと優雅さを最大限に引き出すため、サージェントが慎重に選んだものです。体を正面に向けつつ顔を横に向けたポーズは、彼女のプロポーションを強調し、横顔のミステリアスな魅力を際立たせました。また、右腕を後ろに伸ばし、手を低いテーブルに乗せた姿勢は肩や腕のラインを優雅に見せ、全体的に洗練された印象を与えています。

ジョン・シンガー・サージェント『乾杯するゴートロー夫人』1882~83年頃 イザベラ・スチュワート・ガードナー美術館所蔵

また、『マダムX』のポーズには古典芸術からの影響が見られ、特にイタリア・マニエリスムのフレスコ画などが参考にされたと考えられています。サージェントは古典的な美の要素を取り入れつつ、現代的な感覚で再解釈しました。

公開後の反応

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