ブリューゲル『バベルの塔』〜東京タワーより高い塔で活動する人々を事細かに描写
神は怒り、洪水を起こして地上の生物を滅ぼそうとしましたが、ノアと契約を結び、彼とその家族だけが生き延びました。ノアの子孫たちは一箇所に集まり、天に届く塔を建てようとしましたが、神が彼らに異なる言語を話させたため、塔は完成せず、人々は各地に散らばりました。この塔は「バベル」と名付けられ、混乱を象徴しました。
バベルの塔は、虚栄心や過剰な自信から、実現不可能な目標に挑む人間の傲慢さや愚かさを象徴しているとされる。一方で、この塔を建設しようとする人々の挑戦心や勇敢さを讃えるメッセージが込められていると解釈することもあります。
ピーテル・ブリューゲル(父)は「バベルの塔」を題材に3枚の絵画を描きました。最初の絵画は、彼がローマに滞在していた際に象牙に描いた細密画でしたが、現在は失われています。現存する2枚の絵画は『大バベルの塔』と『小バベルの塔』と呼ばれ、それぞれウィーンの美術史美術館とロッテルダムのボイマンス・ファン・ベーニンゲン美術館に所蔵されています。
旧約聖書にはバベルの塔の詳細な形状が記されていないため、ブリューゲルは想像力を駆使してこの絵を描きました。ブリューゲルが描いたバベルの塔は、帝政ローマ期の建築様式を思わせる多数のアーチが特徴的で、コロッセオを意図的に模して描かれています。それまでの画家たちはバベルの塔を四角柱の形状で描いていましたが、ブリューゲルは初めて円錐状の塔として描き、それがバベルの塔のスタンダートになっていきました。
ブリューゲルは、晩年に描いた『小バベル』は、約1400人の人物が1ミリから3ミリほどの大きさで緻密に表現されています。塔の高さは描かれた人間のサイズから約510mと推測され、東京タワー(333m)よりはるかに高く、世界的には台湾の「台北101」と同じくらいの高さとなります。
この絵の注目すべき点は、塔の建設現場の様子が非常に詳細に描かれていることです。
木材で足場を組み、その上にレンガをはめ込んで固定し、後で足場を解体するという当時の建築技法が正確に描かれています。レンガの赤い表面からはまだ新しいことがわかり、時間が経って土色になった下部とのコントラストが際立っています。
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