偏頭痛と顎関節症の鍼灸治療概論
*以下の症状がみられる場合は、鍼は施術できません。病院での早急な検査が必要です。
・突然の激しい頭痛の後に嘔吐、失神、失禁、髄膜刺激症状などがみられる→クモ膜下出血などの可能性あり
・発熱、強い頭痛、吐き気、嘔吐、項部硬直、意識障害、髄膜刺激症状などがみられる→髄膜炎などの可能性あり
・進行性の頭痛、発語障害、意識障害、麻痺などがみられる→脳腫瘍、脳血管障害などの可能性あり
・急激な頭痛、悪心、嘔吐、眼圧上昇、視力障害、視野欠損、失明などがみられる→急性緑内障などの可能性あり
・強い持続性の片頭痛、側頭部の圧痛と硬結、発熱、倦怠感などがみられる→側頭動脈炎などの可能性あり
・頭を強く打つなど頭部外傷後、しばらくたってからの頭痛、痴呆症状、麻痺などがみられる→慢性硬膜下血腫などの可能性あり
片頭痛(偏頭痛)はいわゆる慢性頭痛の一つに分類され、医学的には「一次性頭痛」と「二次性頭痛」に分けられています。しかし、医学的にはその根因を未だに特定できず、片頭痛患者は一向に減る気配がありません。片頭痛はその他の慢性頭痛と同様に、頸部上端の筋肉である上頭斜筋、大後頭直筋、頭板状筋や、下顎骨を引き上げる側頭筋を鍼でゆるめてやれば頭痛の回数や程度が明らかに減少し、投薬が不要になるケースが多いです。しかし、脳血管障害や脳腫瘍など、脳内に器質的な異常がある場合は鍼治療が適応ではないため、治せないことがあります。
片頭痛ではまれに幻視や眼の異常感を伴っている事がありますが、そのほとんどは頸部筋群が硬化し、眼窩の後部に至る内頚動脈が頸部で圧迫され、炎症を起こしていたり、脳内への血流が減少して側頭葉や後頭葉が刺激されることに原因があると推察されます。一部の医者は、この内頚動脈の炎症ばかりに気をとられ、血管を収縮させたり、炎症を鎮めたり、三叉神経から痛みの原因物質が放出されるのを抑えるトリプタン製剤や、ロキソニン、ボルタレンなどの鎮痛薬、神経ブロック注射などで「一時的に」痛みを対症療法的に抑えようと四苦八苦しているようです。残念ながら、今現在でも、慢性頭痛を完治させることが出来る医者は稀なようです。
偏頭痛の代表的な随伴症状に、閃輝暗点(眼がチカチカする)というモノがあります。医学的にはしっかりと説明されていませんが(一応、脳神経外科の教科書には後頭葉病変による幻視、側頭葉病変による幻視・幻聴の説明はある)、一部の医者は、視覚野に関連する後頭葉や幻視に関連する側頭葉、頭頂葉が一時的な脳内の血管の異常によって、刺激された結果起こる症状である事に気がついているようです。しかし、医学的には血流増減の根因となっている、頭頸部の筋肉群を確実にゆるめる術を持たぬため、解決出来ないままになっています。
偏頭痛は血管拡張が根因ではないと考えられます。あくまで血管拡張は二次的な結果であり、実際には頸部から脳内へと連動した、頸部筋肉群の異常収縮に伴う脳内血管の過剰収縮が根因です。つまり、脳内血管の異常拡張や脳内のてんかん様興奮状態が起こる前兆として、必ず脳内への血流減少が先にあるのです。普通に考えればわかることですが、何もない状態でいきなり脳内の血管が異常に拡張したり、脳が興奮することなどありえません。ほとんどのケースにおいては、脳内の血管が収縮して血流が減少した代償として、不随意的かつリバウンド的に脳内の血流が異常に増加したり、脳が異常に興奮した結果、血管周囲の神経細胞が過剰に刺激されて、いわゆる偏頭痛や群発頭痛が起こるのです。例えば、カフェインを取り過ぎている人の脳内の血管が収縮し過ぎた代償として、リバウンド的に血管が異常拡張を起こし、偏頭痛となるのと似ています。
医学的には筋緊張性頭痛と血管拡張性頭痛の原因を明確に説明出来ていませんが、実際には両方の症状が混在する患者は多数実在するわけで、昨日まで筋緊張性頭痛だった患者が今日から血管拡張性頭痛に悩まされる可能性も大いにありうるわけです。緊急を要する脳動脈瘤や脳腫瘍でなければ、ほとんどの慢性頭痛は単なる筋緊張性の頭痛でしかないと推察されます。事実、その筋緊張を刺鍼によって解いてやれば、いとも簡単に頭痛は消え失せます。
偏頭痛の原因は「セロトニンという脳内物質が血管内で異常に増減することで脳の血管が広がり、周りの三叉神経が圧迫されることで起こる」とか、「女性ホルモンのエストロゲンが変動するときにセロトニンの量も不安定になるため、月経前後や排卵期に片頭痛に襲われやすくなる」とか、「入浴やアルコールの摂取などのきっかけで痛みが強くなる」とか、「天候や気温、気圧の変化が大きいときは頭痛を起こしやすい。強い光で影響を受けることもあるので、外出するときには帽子やサングラスを用意するといい」とか、「片頭痛は遺伝的要素が大きいとされる病気だ」とか、「脳内の血管が過剰に拡張すると片頭痛が起こるため、オリーブオイルやかんきつ類、チーズやチョコレートなど血行を良くする食材を食べるときには注意が必要だ」などと、様々な説が流れていますが、結局は頭頸部の筋肉を鍼でゆるめれば、簡単に治ってしまうことが多いです。
鍼などインチキだと根拠なく思い込んでいるお方には信じがたいでしょうが、治るもんは治るので、信じない人には「そうですか」としか言えません。日常的なストレスの度合いによって経過は異なりますが、たいていのケースにおいて3回前後の治療で痛みが減るか無くなり、その後数年再発しない、という場合もあります。基本的には、日常的なストレスが強ければ強いほど短期間で再発する可能性は高まりますが、一度当院の鍼で完治した場合は、再発したとしても軽度で、痛くなった時に鍼を数回すればまた簡単に良い状態に戻るようになります。
最近では、「頭痛外来」というモノが流行ってきましたが、実体は単なる投薬治療でしかないことが多いようです。要は他の病院と同様に、「一時的に神経の働きをマヒさせる治療」または「薬物で脳の興奮を抑えようとするだけの治療」のようです。そのため、痛みや脳の興奮の原因となっている後頚部または顎関節周辺の筋肉の硬化(コリ)を解除しないがゆえ、何年通っても治らないというケースが少なくないようです。
何よりも、投薬治療は生物の生存に必要な「痛みを感じる機能」をマヒさせて、病体を余計に働かせるようにしているわけですから、病院の治療に依存してしまうほど、その他の危険が起こる可能性が高まるでしょう。最近では、薬でないと思われているサプリメントでさえ、多量に飲めば薬物性肝障害を起こす事がわかっていますから、人工合成物である薬の服用がより深刻なダメージを肝臓に与えるであろう事は明らかです。
実際に、多くの薬剤、アルコールが肝臓や腎臓に負担をかけることが知られており、一部の薬剤においては、副作用として横紋筋融解症やミオグロビン尿などがあります。たとえこのようなひどい副作用までには至らなくとも、薬害等からの慢性的な筋肉の委縮による疼痛は多くの患者にみられます。
頭痛患者は薬を飲めば飲むほどに肝機能が低下し、筋肉や血管が異常拡張や異常収縮を起こし、より頭痛が悪化するという悪循環に陥ってしまうケースもあるようです。一部の頭痛薬にはカフェインが含まれていますから、飲んだ時は血管が収縮して頭痛が収まったとしても、脳が血流不足を補おうとして、血管を異常に拡張させる副作用による頭痛が起こりやすくなります。これはいわば薬物中毒です。
そもそも、薬物で頭痛は治せるのでしょうか?そういう視点が世間で増えないのは、頭痛が起こるメカニズムについてさえ、しっかりと理解している医者がほとんど存在していないという事実の裏返しでもあります。頭痛の根本的な原因である筋肉の硬化をどうにかしよう、という発想が欠落しているのです。ゆえに、脳の興奮がどうのこうのとか、てんかん症状がどうのこうのとか、脳内で起こっている現象(脳の興奮や一時的な虚血や異常な血流増加)は副次的な要因であり、それに気が付かない医師に頭痛が治せるはずがありません。
とにかく、多くの慢性頭痛は、主に後頚部や顎関節部の筋肉が慢性的な異常収縮を続けることによって、脳内の血流に異常が生じた結果、脳が興奮するのであり、原因となっている筋肉をゆるめてやらない限り、頭痛が完治することなどありえないと思われます。当院の鍼治療によって、頭痛外来に何年も通って治らなかった頭痛が完治するという事実は、根因となっている筋肉を確実にゆるめているからなのです。
偏頭痛は側頭部にズキズキとした痛みがでたり、閃輝暗点や眼精疲労などを伴うものですが、多くの場合、食いしばりが原因となっていることはほとんど知られていません。慢性的な食いしばりで顎に異常があったとしても、偏頭痛がでるだけで、顎に異常を感じていない患者様も多いようです。もちろん、この逆のパターンもあり、顎に痛みがあって偏頭痛がないケースもあります。
慢性頭痛は主に3パターンに分けられます。後頚部から前頭部にかけて痛む場合は首のコリが原因です。眼精疲労を伴い、前頭部と首の上部が痛む場合はメガネが合っていないか、目に原因があるか、首上部のコリが原因です。閃輝暗点は、主に内頚動脈の絞扼と側頭筋の異常によりますが、特に側頭筋、内外翼突筋、咬筋の4種の咀嚼筋肉をゆるめる必要があります。また、同時に、内頚動脈の絞扼を解除するため、頸部横への刺鍼も必要になることがあります。
現代人は過剰なストレスにより、日常的に歯を食いしばるような場面が多いようです。実際、就寝中の歯ぎしりで臼歯が削れたり、割れてしまう人もいるようです。人は咬む時は、主に4つの筋肉(咬筋、側頭筋、内・外側翼突筋)を使うとされています。しかし、メインで使われ、最も負荷がかかっている筋肉は翼突筋と側頭筋です。これがま片頭痛の原因になります。側頭筋の主な働きは「下顎を挙上し、口を閉じる事」ですが、歯を食いしばる、歯ぎしりする時に最も強く作用する筋肉です。
食いしばりは覚醒時と睡眠時に行われますが、睡眠中の歯ぎしりに起因する偏頭痛が最も厄介です。なぜなら、すべての筋肉が弛緩する時間である睡眠中に、顎の筋肉を酷使し続けてしまうからです。歯ぎしりや食いしばりはストレスによるものですが、日中も夜間も顎に負担がかかっているような状態になると、刺鍼しても、なかなか筋肉がゆるむ暇がなく、改善したとしても完治することが難しくなります。定期的に刺鍼することで、偏頭痛の頻度や程度を軽減させることは可能ですが、鍼治療をしても良くならない場合は、ストレスのない環境へ移動するか、ストレスを軽減させることが偏頭痛の根本的な治療になります。首コリからくる後頭部の痛みや前頭部痛は比較的簡単に治すことができます。
咬筋の支配神経は咬筋神経、側頭筋の支配神経は深側頭神経ですが、片頭痛や閃輝暗点(眼のチカチカ)、眼精疲労を引き起こす主な神経は、脳外で解するならば三叉神経です。それでは、以上の2つの筋肉は関係ないじゃないか、と思われるかもしれませんが、実は、三叉神経は咬筋と側頭筋の間をぬうように走行しているのです。特に、三叉神経の1つ(第一枝)である眼神経は、側頭部から始まり、そのまま真横を前方に進んで、眼に入ります。よって、まれに眼の異常は側頭筋によって引き起こされていることがあり、実際ここに鍼を打つと、治ることが多いです。しかし、閃輝暗点、眼精疲労、眼に器質的な異常が見られないのに眼痛がある、眼のかすみ、眼がぼんやりするなどの異常感は、後頸部の筋肉硬化によるものです。したがって、後頸部上端の筋肉を鍼でゆるめれてやれば治ります。これらの症状は、眼を栄養している血管が炎症を起こすことによると推察されますが、炎症が起こる原因は、眼を栄養する血管が頸部を通過する際に、硬化した筋肉に圧迫されることや、視覚中枢が後頭部にあることなどが大きく影響していると考えられます。
また同様に、三叉神経の残りの2本(第二枝上顎神経、第三枝下顎神経)も側頭筋の間を抜けて顔の前方に分布しますので、側頭筋を鍼でゆるめてやると、顎関節症や顔の違和感(知覚異常)、耳鳴りなども治りやすくなります。実際は頸部の筋肉への刺鍼がメインになりますが、顎や耳に効くツボで言えば、太陽から率谷への透刺や、下関、翳風などへの刺鍼が重要になります。