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『東京R不動産』はこうして生まれた
『東京R不動産』とは、独自の視点と価値観でちょっとクセのある物件を発掘し、紹介しているメディアです。「駅から何分」「何㎡」という数値的な価値ではなく「倉庫っぽい」「レトロな味わい」など、自分にとって「グッとくるか」の感性で物件を探せます。
「ただの綺麗な家では"何か"が違う...」「もっとシビれる家はないか」という感性を持つ方の間で「不動産のセレクトショップみたい!」と徐々に広がっていき、もうすぐ開設20周年を迎えます。
今日は、そんな東京R不動産の始まりを辿ります。
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●ことのはじまりは、「リノベーション」に目をつけた面々の作戦会議
今から遡ること20年。当時、世の中で「これから東京に古い空きビルが激増する」と話題になっていた頃でした。
そんななか、東京R不動産の言い出しっぺである馬場正尊が欧米に目を向けてみると、「廃墟となった古ビルや倉庫をリノベーションし、住居やギャラリーにする事例」が増えていることに気が付きます。
「この波が、東京にも来るかも…」
そんな予感を共有するようになった建築家・写真家・キュレーターたちが、次第に集まって作戦会議を繰り広げるようになりました。(リノベーションは、当時日本であまり馴染みがありませんでした)
思えばこれが「R不動産」の一つの原点です。
●アメリカ視察で目にしたリノベーションの数々
リノベーションに関する作戦会議(R project)に集まっていた面々は、現地を見るためアメリカを視察。訪れた3都市では、寂れた街にコミュニティが発生し、アートや人々の力で地域が再生していった様子を目の当たりにすることができました。
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●東京でも再現できるかも?イベントの舞台を探そう
「これは、日本でもできるのではないか?」
「空きビルをクリエイターたちに活用してもらい、街全体をギャラリーにするのはどうか?」
そんななか目をつけたのが、馬喰横山や東日本橋といった、東京の「東側」エリアです。このあたりは繊維問屋の廃業などで、空きビルが増えていました。
早速、アメリカで見てきたように街をギャラリーにする構想をかかげ、2003年に向けてアートイベント(Tokyo Designers Block Central East(後のCentral East Tokyo))の準備を始めることに。
まずはイベントの舞台となる物件を探すため、不動産屋の扉を日々たたいて回りました。
その一派が、のちにR不動産につながっていきます。
●「感性のギャップ」からくる「いい物件」のズレ
しかしそこで、ある「壁」に当たることに。なんと、どの不動産屋でも、紹介される物件が”キレイすぎた”のです。
「もっとボロくて、味のある物件は無いですかね...」
「…ハァ?」
こんなことを聞いては、怪訝な顔をされる毎日。
そんな中ある日、半ば呆れ顔の不動産屋が「こんな残りモンしかないよ?」とファイルの底から拾い上げてきた、”倉庫”として登録されていた建物。見てみると…
「そう!!コレです!!!」
そのボロボロの倉庫は、我々にとってワクワクするような物件でした。
そして、気がつきます。「自分たちが見てグッとくる物件」と「普通の不動産屋が思う良い物件」には、大きな隔たりがあるのだと。
それはきっと「根本的な感性のギャップ」からくるもので、この溝はいくら言葉で説明しても埋まらない…。とすると、自分たちにとって魅力的な物件が、東京にまだまだ眠っているのではないか。そんな気がしてきたのです。
●こうして東京R不動産ははじまった
そんなムーブメントを背景に「可能性を感じる空き物件の情報」を発信するメディアをつくろうと『東京R不動産』が産声を上げました。最初は一見ブログのようなシンプルなサイトだったのですが、そのあと形になったのがこちら。
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「ワケあって安い」「ふむふむ」「こんなきれいな部屋を、自分の手でめちゃくちゃにしてみるのはどうでしょう」といった紹介文など、今につながるR不動産らしさを感じます。
やがて、カルチャーサイト「Real Tokyo」にサイトリンクを貼ってもらった頃から反響が加速。メルマガ登録も怒涛の勢いで増えてきました。
「これはいける・・本気でやろう」。
初期メンバーの参画エピソード(三箇山)
"「お前、ギャンブル好きだろ?不動産やらないか?」
僕が東京R不動産に関わったきっかけは、突然かかってきた馬場正尊さん(東京R不動産の言い出しっぺ)からの電話だった。
聞けば、普通の不動産屋では扱われないような、変わった物件を紹介するメディアをつくりたいという。「ハイ、やります」。二つ返事で答えた。なんだかよく分からないが面白いと思い、馬場さんの話にまんまと乗ってしまったわけだ。"
●「おれたちの欲しい物件」で事業を
しかし、東京R不動産では売上が上がるまでに半年以上を要しました。なぜなら当初は、「あまりにもボロすぎる物件」しか載せていなかったのです。そこで少し軌道を見つめ直し、「世の中の不動産に対する価値観」を変えられる"事業"としての展開を目指すことに。
そうして「面白い不動産屋」と改めて定義したR不動産で、「おれたちの欲しい物件はこういうやつなんだ!」と広く発信しはじめました。
デザイナーズのようなキレキレの物件があるかと思えば、その隣にボロボロで味のある家が並んでいたりと偶発的な出会いを誘発し、見ているだけで妄想が膨らむサイトを作っていったのです。
初期メンバーの奔走エピソード(三箇山)
"「とりあえずオモシロイ空き物件を探してきてくれ」。それが僕に下った最初の使命だった。「でも、どうやって?」(三箇山)「わからん...」(馬場)
とりあえず、街を歩いて張り紙を見つけたらその場でオーナーに電話をかけたり、空き家らしい物件を覗き込んだりした。しかしすこぶる効率が悪いし、はたから見たら完全に不審者だ。
今度は不動産屋に片っ端から電話をしてみた。「ちょっと変わった物件を紹介するサイトをつくっているのですが...」「は?結構です、ガチャン」。この繰り返し。それならばと客のフリをしてみたり、FAXを各社に送ってみたり、あの手この手を繰り返したのだった。"
●倉庫をぶち抜いて作った、当時のオフィス
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上の写真が、新日本橋にあった当時の東京R不動産オフィス。ただの倉庫を勢いで借り、真っ白に塗って水や電気を通してみた、R不動産のはじまりの拠点です。道に面する部分はただのビニールカーテン。冬は寒かった…けれど、まちと繋がっているようでなんだかよかったのです。
"とにかく僕はこの倉庫に一目惚れした。理由は徹底的になにもなかったからだ。トイレも水道も、窓すら無い。気がつけばその場で「これ、僕が借ります」と口走っていた。「この倉庫を住居にしたい」と申し入れ、ギョっとされた。当たり前である。"(馬場)
"まずこの壁にドカンと穴を開け、窓にしようと思った。けたたましい音をたててドリルが壁に突き刺す。ハンマーでぶっとばして巨大な穴が姿を現したとき、静かに思った。「ああ、もう引き返せない……」"(馬場)
●「ちょっと変わったメンバーたち」の広がり
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また、事業が拡大するなかで、参画メンバーも広がりを見せました。徐々に「ちょっと変わったメンバーたち」が一人二人と合流し、サイトは徐々に軌道に乗っていき・・思えばそこから20年。初期メンバーもほぼ全員います。
そんなスタッフたちが前キャリアの建築やデザイン・編集で養ってきた「目」は、物件を見て何かを感じたり、そこで行われることを具体的に想像できたりする能力に直結しているようです。各メンバーは自分たちなりの視点で物件を発見・解釈し、日々サイトにアップしています。
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初期メンバーの振り返り
"当時は週に1物件アップするノルマすら冷や汗ものだったが、現在の東京R不動産では毎日物件が更新される。あの頃からすれば本当に信じられないことだ。"(三箇山)
●不動産にも「セレクトショップ」があっていい
巷にあふれるライフスタイルショップ。洋服や音楽、家具や雑貨などは扱っているのに、なぜ大切な「場所」については誰も触れていないのだろう。どうして自分の感性に響く物件って、こんなにも探せないのだろう。
一風変わった物件も、人によっては宝物のような空間かもしれない。東京R不動産は、自分たちの感性で「グッとくる物件」のみを探してセレクトし、ウェブサイトや各SNSで紹介しています。
そんな昨今、世の中には「リノベーション」も「"おしゃれ"不動産サイト」もだいぶ増えたようです。私たちは当初と変わらぬ思いを持ち続けながら、街に眠る「空間の可能性」を求めて動き続けています。
これからも東京R不動産の「グッとくる」セレクションをどうぞお楽しみに。
※このnoteのもっと詳しいお話は、こちらに収録されています。
書籍「だから、僕らはこの働き方を選んだ」
書籍「東京R不動産」