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“いま”を生きる女性目線で輝く指揮者・沖澤のどか
仕事をもつ女性として、母として、いまの時代を生きる指揮者、演出家の2人が解釈する新『カルメン』。熱い視線が注がれるこの作品に対する思いを指揮者の沖澤のどかさんにお聞きします
(Photo by Felix Broede)(『二期会通信OPERA』Vol. 340より)
Q. 沖澤さんにとって音楽としての『カルメン』の魅力は?
沖澤:
前奏曲の1音目を聴いた瞬間からアドレナリンが出るような、生命力と躍動感にあふれた名曲の数々が、限られたシーンではなく全幕貫かれているところが魅力です。アリア、重唱、合唱、間奏曲などどこを取っても美しく、全幕がハイライトと言っても過言ではありません。特にスペイン情緒あふれる舞曲の数々は、否が応でも心踊らされます。
Q. 名曲揃いの『カルメン』ですが、どのような演奏を目指し、お客様にどん
な点を聴いていただきたいですか?
沖澤:
それぞれの曲が単独で演奏されることも多い名作オペラなので、全
幕を通して聴いた時に、そのドラマ性をより強調させる演奏を目指した
いです。お客様には自由にお楽しみいただきたいということが1番ですが、
とくに音楽に関しては分析的に聴くよりも、直感的に聴いた方が、より
カルメンの世界に入り込めるかも知れません。
Q. 今回、イリーナ・ブルックさんと初タッグを組まれますが、ブルックさん
の印象は?
沖澤:
2015年にウィーン国立歌劇場でイリーナ・ブルックさんが演出した
『ドン・パスクァーレ』を観て、その圧倒的な美的感覚と、それぞれの
キャラクターに新しく命を吹き込む手腕に驚かされました。現代的な要
素を取り入れながら、いわゆる読み替えとは違った独自の手法でドラマ
の普遍性を描き出す、ユニークな演出家という印象です。実際にお会い
してみるととても話しやすく素敵な方で、意志の強さと柔軟さのどちら
も併せ持っているように感じたので、一緒に舞台を作り上げるのが楽し
みで仕方ありません。
Q. イリーナ・ブルックさんも子育てをしながら演出の仕事をし、沖澤さんも
ご出産を控え、育児をしながら仕事もするという“いまを生きる女性らしい”スタイルのカルメンをお客様は期待されているかもしれません。本プロダクションについて何か意識されることがありますか?
沖澤:
カルメンを読み進めながら、自分の娘やこれから生まれる子がこれからどんな生き方をするのだろうと思いを馳せることはありますが、自分が女性であるということを意識することはありません。むしろ指揮をするときには性別や年齢、国籍などの属性から解放されて自由になる感覚があります。ただ、本プロダクションとは関係なく、音楽家のキャリアと妊娠・出産というテーマは学生のうちからもっと話されるべきだと感じているので、今後積極的に語る場を設けて、少しでも次の世代の役に立てたらと思っています。
Q. カルメンという、ややもすると破天荒と言われる女性を、同じ女性として
どのように見ていますか?
沖澤:
自分に正直に、自由に生きることを貫いたその生き様をあっぱれと思うと同時に、ロマという出自やその美貌ゆえに体験したであろう困難を想像すると、カルメンの潔さというのは一種の防衛だったのかもしれないとも思います。
自分はきっと現代を生きる多くの方がそうであるように、無意識のうちに効率や生産性を重視して様々な取捨選択をしていることが多いように感じますが、自分の感情をむき出しにして運命に身を任せるカルメンに遠くから少し憧れています。
公演詳細|東京二期会オペラ劇場『カルメン』
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沖澤のどか Nodoka Okisawa
京都市交響楽団常任指揮者、セイジ・オザワ松本フェスティバル首席客演指揮者。2019年ブザンソン国際指揮者コンクール優勝。23年斎藤秀雄メモリアル基金賞受賞。20年~22年ベルリン・フィルカラヤン・アカデミー奨学生としてキリル・ペトレンコのアシスタントを務め、この間ベルリン・フィルも指揮。東京二期会には『メリー・ウィドー』で初登場。
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