robert_de_neet
生死感と浮遊感。 フィクションで不透明な答え。
その他のもの
小さな個室で、おれは一糸まとわぬだらしない自分の下半身を見つめて唾を飲みこんだ。 これから始めるのは生殖活動。 しかし興奮もなければ高揚もない。 なぜならこれから待っているのはこの世でいちばんの快楽ではなく、この世でいちばんの不快であることを知っているからだ。 ふと時計を見上げれば、個室の残り時間が迫っていた。 「ふんごおおおおお!!」 獣のように慟哭して、おれは下半身に手をかけた。 そんな情けない一部始終を、壁で剥がれかけたポスターの水着の女が笑顔で見てい
「あんたを殺してわたしも死ぬ!!」 握りしめたのは柳刃包丁。 刺せばしくじっても切先が体内に残るらしい、絶殺武器。 わたしは本気だ。 この、浮気者でプレイボーイでわたしの彼であるアイツを刺して死んでやる! 「まー、落ち着けってー笑」 こんな状況でも彼はひょうひょうとしている。 わたしはこんなに真剣なのに。最期でも本気で向き合ってくれないのね。 覚悟を確認するように、包丁の柄をきつく握り直す。 「殺す! 滅多刺しにしてやる! 嫌だって言っても」 「別に嫌だ
口から焼きそばが吹き出した。 バラエティ番組に割り込んだ臨時ニュース。 画面の向こうに対峙した白いスーツの女性キャスターは汗を拭い、 1度目よりもつまらずに、くしゃくしゃの原稿を読み上げた。 「南極の氷が異常な早さで融けているという環境問題は以前から話題になっていましたが、さ、先ほどついに、約2カ月後に日本が海の底へ消滅……そして3カ月後に完全に地球は海だけの星になると発表されました」 わたしはティッシュで口をぬぐいながらカレンダーを見上げた。 残念ながら今日は4月1日
おしゃれでカッコ良くて超自慢の彼氏のナオユキが最近全然つれない。あたしのことを触りもしないしあまつさえ半径5m以内には近づいてこない。あたしがちょっとでも近づこうとすれば、ナオユキは顔をしかめ、両手を前に突き出し「タンマ」と言う。「タンマってなによ」と、さすがにあたしも怒りながら抗議したわ。そしたらナオユキはここぞとばかりに「英語のtimeが変化してタンマになった説もあるし、フランス語の無駄な時間という意味のtemp mortからきたとする説などもある。個人的には器械体操で
彼女の花田雪子は小さくてかわいいものが好きだ。 「熊ちゃん! 見て見て、猫だよ! かわいー!」 彼女はデートの途中であっても、俺から離れて猫まっしぐらになる。 それはいつもの光景だ。 そして猫は彼女に気づくや否や、素早く茂みに飛び込んで姿を消してしまった。 ――それもいつもの風景だ。 「逃げちゃった……。あ、かたつむりさん」 今度は紫陽花の葉の上で見つけたかたつむりに手を伸ばす。 刹那、かたつむりは殻の中に身をすくめた思うと、驚異の瞬発力で転がるように
「あなたと合体したい……」 サークルのボックスで唐突にカヤコは言った。 カヤコが唐突なのは今にはじまったわけではないから 僕は黙って部屋に鍵をかけ、 着ていた自分のTシャツに手をかけた。 「違う。そうじゃなくて」 すでに半分脱ぎかけていた僕の顔の前に カヤコは手のひらを突き出した。 だらりとおろしたほうの手には アニメのDVDが握られていた。 やれやれと首をすくめるポースをとってTシャツを着直すと、 カヤコは僕の胸ぐらをつかみ、 「ということでパイロットはあーたし」
1、君に見る夢 2、さかなになった日 3、馬鹿にあげた 4、今なら言える 5、塔の騎士たち 6、だって、それは希望の色だ 7、心地良いから 8、ふかふかを召し上がれ 9、世界に鳴いた 10、手を繋いでよ 11、おれたちは続いていく 12、時計の針を 13、紅い扇子は秘密の恋 14、そこが女の見せ所 15、風にくるんで持ってって 16、あたしを嫌いになって 17、ベンチの裏には 18、壊された 19、辞書には載ってない 20、沈丁花が咲いていた 21、見えないんだ 22