人生に背徳感を
床は木板で埋め尽くされているが、その隙間の黒さも目立っている。行ったことは一度もないが、北欧の田舎地域の辺りで同じ内装が見られると思う。
毛布類のアイテムやぬいぐるみが至る所に置かれていて、寒がりの人は心から満たされることだろう。もしも夜の営業中に、オレンジ色のライトを照らして、暖色の光が店全体を彩っていたら、スキー場のペンションそのものだ。
そんな雰囲気に包まれたこの場所は、国内でも珍しい『生クリーム専門店。』
クリスマスと生クリーム
まだクリスマスまで一ヶ月以上あるが、街の店々はそれに向かって、すでに準備を始めている。コンビニでもクリスマスケーキの予約がスタートし、スーパーではアニメのキャラがパッケージにデザインされた、シャンメリーが何種類も並んでいた。
この店の中も、見渡す限りクリスマス用の装飾が施されていて、『生クリーム専門店』の意地を感じる。テーブルの上には、子供が喜びそうな牛のぬいぐるみが置かれていた。筆者はぬいぐるみを前にした時、尻尾や角などを見て萌えることが多いが、このぬいぐるみもその通りで、角の愛らしさがたまらない。と言っても、可愛いのは牛の角ではなく、被っているトナカイの帽子にくっついたトナカイの角の方なのだが、、、
『優しい』味?
頼んだココアが、すぐにテーブルまで運ばれてきた。上にはもちろん生クリーム。山盛りのクリームもチョコレートも元からトッピングされてくるものだが、他のカフェなら間違いなく追加料金が必要だろう。
こんなに弾力のあるクリームは初めて食べた。飲み込むのは怖いので、一生懸命かじった。「シュークリームは飲み物!」と半分本気で語った小学校時代の友達とは、もう十年以上あっていないが、彼もこの店に来れば、反省し気を改めるだろう。元々の温度も少しぬるめだったが、十分以上経っても全く溶けず、弾力をキープしているのも地味にすごい。
ココアは浮いてる生クリームのせいもあり、かなりマイルドな味。飲んで気づいたが、ココアを飲むのはずいぶん久しぶりだ。いつからだろう。ココア好きからコーヒー好きに好みが変わったのは。子供の頃、家には常に粉末のココアの素が台所に置かれてあって、暇があればお湯に溶かして飲んでいた。その当時の味と今飲んでいるココアの味がどう違うのか、どっちが美味しいのかはよく思い出せない。とにかくココアは『優しい』味がする。それは『マイルド』や『甘い』という言葉とは、また違う意味合いを持つ。説明が下手なのを許してほしい。でも本当にそういう味がした。
たまにその粉をスプーンですくい、直接むせながら食べて母にも父にも怒られたのをよく覚えている。でも美味しい物を食べた以上の幸せを感じられた。筆者はそれで背徳感を知った。
written by Sign