「短編コント」 古葉野次秀雄の雑感
なるほどモーツァルトの音楽を聞けば聞くほど、カレの悲しみが伝わってくるな、と古葉野次秀雄は思いがつのっていた
下宿先のアパートの前にある川を歩きながら、ここ一年ばかり熱中してモーツァルトの音楽ばかり聴いていたことをふり返るのだった
淡泊なところが好きだな
あっさりといえばあっさりして物たりないけど、ベートーヴェンはほんとしつこいからな、ゴジラの尾みたいに音楽の語尾がしつこい、何回も何回もジャーンジャンで終わるかなと思えば、またジャーンジャンジャン、ほんとしつこいんだから
しかし、あまりあっさりしててもね
あらっもう終わっちゃったの、じぶんだけ先にいっちゃって、あなたほんとに淡泊なんだから、もう少しベートーヴェンを見習ってほしいわ、なんてね
うふふふ
少しばかり古葉野次は含み笑いしながらも、ふと本業の文芸評論について頭がよぎった
文学の本を読めば読むほど、袋小路にはまるのはつきもので、ランボーの新たなる旅たちの詩やドストエフスキーの生活とその意見を見るにつけ、いったい何が人生の真実かわからなくなってきた
あれもこれもみんな人生に意味があるのか、人生に真実なんてほんとはないんじゃないのか
彼らの文章を読むたびに、今ひとつ確信がつかまえられなかった
そこで、ふと立ち止まって、
古葉野次はボンヤリ流れいく水のゆくえを見つめていた
「おじちゃん、また会ったね」
ふいとふり返ったら、この前会った不二家のペコちゃんポップキャンディの子ども
今日も、大好きなペコちゃんポップキャンディが友だちだ
( 文末参照、「古葉野次秀雄の青春の日々」)
「おう、おまえか、よく会うな、この近所に住んでんのか」
「ああそうだよ、考えごとしてたの、またボクにできることがあったらなんでもいいから言ってみて、相談にのるから」
「アハハハ、まいったな、でも今度は前みたいにうまくいかないぞ、じつはね、えらいオジさんたちの言葉について、どれがイチバン正しいか考えていたのさ、難しいぞ、わかるかな」
「簡単じゃん」
「出た、おまえの簡単じゃん、なんでおまえがわかるんや」
じゃ見ててといって、子どもは落ちていた小枝をひろって、そばにいた犬に向かって小枝を見せて、遠くに投げた
ポチと呼ばれた子犬はいっせいに駆けだして、しばらくして小枝を口にくわえて帰ってきた
「ねっ」
「ねって、どういう意味や」
「えらいオジちゃんたちの言葉は、この小枝と同じって意味さ、小枝を投げているボクには、ポチは飛びかかってこないんだよ、あまりに言葉にとらわれていたら大切なものを忘れちゃうってこと、わかったあ」
「うん、わかった」
それから、不二家のペコちゃんポップキャンディをまた口にくわえ、ポチをお供に少年はまたねといいながら、そこを去っていった
そんな少年の後ろ姿を見つめて、古葉野次はおもわずつぶやいてしまった
「おれはポチか、ワン」
初登場、ペコちゃんポップキャンディの少年 ↓
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