「短編コント」 菊珍 (侏儒ものがたり)
ブッダがあるとき、弟子たちを集めて言った
「人の生命、人生の長さはどれくらいだと思う」
「30年」
「人生50年」
「いや100才まで生きている人もいます」
ブッダは木の葉を口もとに寄せて、フゥと吹きかけた
「いや違うな、人の命の長さはこのヒト呼吸の間でしかない」
菊珍はこのエピソードがとても気にいって、ことあるごとに禅寺である文学院の同僚僧たちに吹聴していた
〈 人の一生はひと呼吸の間でしかない。だからむかしの他の人も言っている、あまりにも早く死ぬ人がいるかと思えば、あまりにも長生きする人がいる、ふさわしいときに死ね、これがツァラトゥストラの言葉だってね。いいこと言うよ。人にはふさわしい人生がある、一日一日を大切に生きることが大切ってことかな。〉
すっかり悟りきって、菊珍はご満悦だった
たまたま、そんな菊珍の行状を伝え聞いた夏目和尚は困ったモンだと思っていた
そこで菊珍を呼んでたずねてみた
「最近おまえは何か得たものがあるらしい、それはなんだ」
「人の生命はヒト呼吸の間でしかありません」
と言った瞬間、バカもんと言われて、和尚は立ちさっていった
菊珍はひどく面くらってしまった
いったい何がいけなかったのだろう、これお釈迦様の言葉なんだけどな、菊珍は何がなんだかわからなくなっちゃった
それから数日間、菊珍は考えに考えたけど、いったいどこが悪いのかサッパリわからなかった
ブッダの真意を取りちがえたのか、もしかして和尚はボクが賢いこと言ったから妬んだのかな、でもそんなはずがないし
そこであるとき、菊珍は思いきって和尚に教えを乞うたのだった
「人の一生はなんですか」
「ヒト呼吸の間でしかない」
そう言って、和尚はその場所から立ちさっていった
ここで、ハッと菊珍は気づいた
仏にあっては仏を殺し、師にあったら師を殺す
モノマネだけでは、人は前進しないというコントでした
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