オレらの親分 1、 2、 3
その1
その頃、新型第2種インフルエンザがマンエンしていた。政府はテレビと提携して、国民を囲いこみ運動を行い、効果は着実に生まれていた。
「ソーシャルディスタンスからソーシャルインポテンツへ」のスローガンは、政府の悲願だった。
そんな中でも、ある組織の内部ではある動きが芽生えつつあった。
「鉄、何を見ているんだ」
「へい、兄貴、ユーチューブで報道ニュース番組を見ているんですけどね」
「ほう、いいことだな。オレたちもチィットは裏業界ばかりでなく、まじめな政治のことも知っとなあかん」
「へい。でも最近この番組、元気がなく、取り扱っている内容も当たりさわりがないというか、むしろわれわれのことも話題にしてほしいのに。
やめても5年間、正業につけないし、携帯も免許も生命保険もダメ。あれもダメ、これもダメ。憲法も人権もありゃしない」
「バカやろ。オレたちは社会の底辺に生きる、嫌われもんだ。愚痴をいっちゃおしまいさ。いつの時代も住みにくいに決まってる。
ただオレたちはサイコロを転がして遊んでたらよかったのに、いろいろ禁止されて、悪いことをする奴が出てきてしまった。
それに縄張りのケンカとかシノギで、世間さまに迷惑かけているし」
「戦争や商売で、同じこと、やってると思いますけどね。
それにこの番組、革新をめざしているわりには権威主義で保守的だし、根っこは地上波と変わんない。
コメンテーターも、その地上波や大手メディアから天下りしたような感じで、若い人が寄りつかないんじゃないかな。ジジィ放談みたい。
荒削りでいいから、突破力のある若い人をメインに突っ走らせて、社会に吠えろ、とか。それをアドバイスしてあげればいいに、せっかくの経験と知恵が台無しだよ」
「手きびしいな。いろいろ先生がたも大変なんだろうよ。おっと、親分のお出ましだ。いったん、この話はおあずけだ」
「わかりやした。
でも少し、芝居がかってまーす」
その2
ウィルス感染に乗じて、政府は国民をすなおで従順ないい子ちゃんに仕立てていった。何かにつけて法律条例を作り、従わないと罰則を加えた。
そうして国民に口を出させない、社会的インポテンツ人間を完成させつつあった。
「鉄、何してんだ」
「兄貴、ユーチューブにコメントしているんだけど、👍が1つもついていないんですよ」
「おまえにコメント力がないんじゃないのか」
「すべって間違えてでもいいから、押してくんないかな。それに、いま女子プロレスの動画にハマっているんですけど、旧姓・広田さくらって、最高ですね。もうメチャクチャおもしろい。ウィルス感染なんか、ふっ飛んじゃった。天才だね」
「そう。ところで鉄、最近、シノギはどうなんだ」
「へい、『虎ノ門組』にぐーんと、引き離されていますね。ええっと、向こうは契約ユーザーが32万人、1日の売り上げが平均15万になってます。
1週間過ぎると、100万を越える回もあるそうです。
こちらは、契約ユーザーが1万と2000人。1日の売り上げは3000がトントンで、まったく話になりませんわ」
「そうか。あいつら、サプリ飲んでがんばっているらしい。オロナミンCじゃ、だめか。
うちの親分はこころざしはいいんだが、商売が下手だからなあ」
「この際、贅沢はいってられませんぜ、兄貴。どうでしょう、他の組からヘッドハンティングするというのは」
「たとえば」
「ヤンチャですけど、平塚マサユキとか」
「バカやろ。あいつは破門した身だ。勝手に組を作りやがって。今度のウィルスはタダの風邪ですとかいって、ノーマスクで電車に乗って、まったく世間さまに迷惑かけやがる」
「それじゃ、少しオチャラけているけど、N国党の立花たかしはどうでしょう」
「┅ ┅」
「わかりました。こうなったら、オレたちのことを知ってもらうために、オレたちでユーチューブ番組を作っちゃいましょう。
情報交換とか、業界のうわさ話とか」
「業界のあんなこと、こんなこと。どんな裏話が出るか、とっても楽しみですね。バカやろ。
おっと、親分のお出ましだ」
「へい、いつもの締メの言葉ですね」
その3 須田のオジキ
そんな、ある日。
「兄貴、『虎ノ門組』の須田のオジキが来ています」
「何、須田のやろうが。カチコミか」
「なんだか、親分に話があるとか」
「そうか、わかった。親分にいっとこ。
あっ、親分。須田のオジキが話に来ているそうなんですが、どうします」
「わかった。おれの部屋に通せ」
ー 別室にて、なんとなく雑談してみます
「これはこれは、能戸組の親分。ごぶさたしております」
「おう、ワタシより先輩ですっかり引退なさったと思ったら、まだ虎ノ門組で羽振りをきかしているそうじゃないですか」
「いやいや、単なる小遣い稼ぎですよ」
「ところで一緒にやってる、あの元気のいい武田のオッサン。あれ、どうにかならんか、うるさくてかなわん」
「大丈夫ですよ、もうすぐお迎えが来ますから。
そんなことより、じつは立ち入って話があるんですが、ちょっと」
「わかった。他のモン、暫く部屋から出てくれ。
で、話というのはなんだ」
「じつは、(ボソボソ、ボソボソ)」
「何、トランプが腹いせに、議会で屁を放った。トランプゥー」
「何もそんなこといってないじゃないですか」
「すまん、すまん。5分に1回、ギャグいわないと気持ち悪いんだ」
「困った、オッサンやで、ホンマに」
「そうか、ウィルス感染報道を批判しただけで、ユーチューブをバンされたり、Twitterを凍結されるのか。
そうなるとシノギができなくなるな。そうでなくてもいいツールだし、ほんといやな渡世になったもんだ。
キタの朝鮮と変わらんな。それで、お前さんたちはどうするんだ」
「それでいい考えがあるんです、じつは」
( ┅ここからは有料会員様だけ、ご覧になれます)
「えっ、そうなの」
(今後の抱負)
このシリーズは業界の内幕物語です。組織と人間関係の、なんかこうドロドロしたような、おもわず目も伏せたくなる、そんなモノを描けたらいいなあ。 栄太郎